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慰謝料①

慰謝料って?

 今日、ナリミヤ氏が来る。

 慰謝料をどうするかだ。

 リツさんはあの豪邸で、女達にひどい扱いをされていた。ちょっと聞いたけど、よく我慢したなリツさん。主にあの赤髪エルフだが、招いた私たちにも危害を加えたのだ、しかも故意に、明らかな殺意を持って。

 リツさんは随分悩んでいた。奴隷落ちもあるが、あまり意味がない。ナリミヤ自身かなりの資産家で、優秀な錬金術師、そしてクリスタムただ一人の最高ランクSSランク冒険者だと。奴隷になっても手を回さして、買い戻しも可能。しかもナリミヤ氏には幼い娘が二人いる。その二人が可哀想という思いもあるみたいで。…リツさん優しいな。

 クレイハート家に対してもどうするのかな? よくよく考えたら、建前上マリ先輩はライドエルの別荘で療養中。ローズさんはマリ先輩の身の回りの専従メイドでそこにいるはずなのだ。それがばれると、あまり良くないだろう。特にマリ先輩に執着していたジェイムス様が知ったら、ここまで迎えに来そうだし。どうするのだろう? 別荘で療養中なのに、隣国でトラブルに巻き込まれたなんて、伯爵家の面目もあるだろうし。

 私は早く剣を直してほしい。あれがメイン武器なので、ないと心細い。他は何年か後に十分レベルや魔力感知を上げた頃にもらえたらいいし。

  コンコン

 お、来た。

 ローズさんがサッと動く。

「ナリミヤ様です」

 ちらり、とリツさんを見る。ちょっと硬い表情だが、ローズさんにナリミヤ氏に入ってもらうように頷く。

 ドアをローズさんが開け、金髪のナリミヤ氏が入ってくる。

「失礼します」

「どうぞ、先輩」

 リツさんが椅子を勧める。部屋にあるのは四人掛けのテーブル、そして椅子四つ。リツさんとマリ先輩、ナリミヤ氏が椅子に。私はリツさんの近くの壁際。ローズさんはてきぱきとお茶の準備。

「サイトウ君、僕は君に何をしたらいいかい?」

 ナリミヤ氏が真面目に聞いてくる。

 リツさんは一つ息をつく。

「まず確認です。今あの人たちはダラバっていう所にいるんですね?」

「ああ、全員いるよ」

「ならば、こちらに帰れないようにしてください。期間は三年。お子さんたちはこちらでナリミヤ先輩が育ててください。三年、向こうで自活、援助はなし、接触は禁止です」

 なるほど、それでダラバのことを聞いてきたのか。北の別大陸にあるダラバは交易拠点で、ライドエル王国、クリスタム王国の北東にあるナハンバール王国と航路を結んでいる。因みに一番近い交易港まで魔法馬でも1カ月はかかる。更に魔道船で一週間から十日かかる。

 これがナリミヤ氏が受け入れたら、三年間、あの赤髪エルフを含む女達はこちらに帰れないし、子供とも離される。生活力はどうか分からないが、収入はナリミヤ氏が占めているはずだろう。あんな豪邸で暮らしていたんだから、随分余裕のある生活を送っていたはず。北のダラバは文化レベルがこちらほど高くない。いや、こちらがここ数年で発達した。ダラバが追い付いていないだけ。こちらと比べたら不便だろう。そんな中でも三年間、生きていかなくてはいけない。まあ、もしかしたら生活力があるかもしれないけど。

 あれ、ダラバの拠点に全員? この三日でどうやって移動した?

 私が疑問を湧き上げている間も、リツさんは続ける。

「私が今後生きていくために、基礎の錬金術を教えてください」

 ナリミヤ氏は息をつく。

 これからの娘達との生活を思ったのだろう。母親が三年間、そばにいない、しかも奴隷落ちになりそうな罪のせいで。成長した時、どう思うかな?

「分かったよ。全ての準備に少し時間をくれないか? 一週間でいいから」

「分かりました」

「あと、これは自己満足だから受け取ってほしい」

 ナリミヤ氏はアイテムボックスから私の両の手ひらで持てるくらいの袋を出す。

「当面の生活費だよ。錬金術を指導する間は、宿の移動をしてもらわないといけないけど、こちらの都合だからその間の生活費は別で僕が持つ」

 そう言われ、リツさんは困惑。

「こんなにたくさん頂く訳には」

「だから自己満足なんだ」

「でも、指導期間の生活費まで」

「じゃあ、指導期間は三ヶ月でどうかな? ちょっと積み込みみたいになるけど、基礎なら何とかなると思う」

 リツさんは少し考え了承。

 次にクレイハート伯爵家に対してたが、共同で得ていた魔道具の特許いくつか辞退。もちろんマリ先輩とローズさんの存在は秘密にした上で。ローズさんは異論がないようだったが、なんと自分も錬金術を教わりたいと申し出た。もともと興味があったようだ。すると「あ、私も」とマリ先輩が手を上げる。ナリミヤ氏は快く了承した。

 私? 無理です、自分でも自身が脳筋だと自覚あるので、頭を使うのは無理です。

 最後に私。ナリミヤ氏にアイテムボックスから見慣れた剣を取り出した。え、もう直ったの?

「魔鉄を増やして、小だけど風と火魔法の魔法補助と、これも小だけど自動修復の付与してあるから」

 わーお、魔法剣にランクアップしたよ。

 普通の鉄や鋼製の武器も魔法で強化出来るが、使い続けたら武器自体が劣化が早くなる。魔力を帯びた魔鉄は、劣化を防ぐと共に魔力を流れを良くするし、付与できる数や質が増える。魔鉄の含有量が増えれば、付与魔法も増えてもちろん高価になる。

「あと、ナイフと今の君に合う剣だよ」

 はあ?

 更にアイテムボックスから出したのは、大振りのナイフと、直してもらった剣より、やや細身の剣を取り出す。

 あの、三日前にお願いしたんですよ。あ、もしかして手持ちでいいのがあったんだな、きっとそうだね。だって三日間で作れる訳ないよね。

「久しぶりに武器作ったから張り切ってしまって」

「本当に作ったの? この短期間で?」

「できるよ、全部錬金術だけどね」

 万能なのか? 錬金術って?

 二振りとも、上品な黒の鞘に納まっている。

「ちなみに、どういった内容の武器ですか?」

「ナイフはミスリルが多いよ。軽さ重視だね。付与は中の風と火の魔法補助、自動修復、大の硬度強化、あと、小だけど衝撃吸収」

 私はナイフを落としかける。ミスリルは武器に魔力流す、または増強するのに特化している。硬度は魔鉄に劣るが軽く、その魔力伝達を使用すれば魔鉄の武器に打ち勝てる。しかもこのナイフ、ミスリルの硬化の難点を付与魔法で補っている。

「剣は芯にミスリルを使って、回りは魔鉄と少しアダマンタイトだね。重さが直した剣より少しあるけど、強度は格段に上がるよ。君は魔力感知がそこそこありそうだから、いけると思うよ。中の風と火の魔法強度に自動修復、衝撃斬波、衝撃吸収」

 私は言葉を失う。

 アダマンタイトってあんた、これを扱えるの? どんだけ優秀なの? アダマンタイトは一流の鍛治師でないと扱えない。アダマンタイトは魔力伝達はミスリルより劣るが、その硬度は魔鉄の盾でも切り裂く。まあ、上手く魔力を流せれば、だけど。少し癖があるが、もとの強度があるから、魔力を流さなくても十分な武器だ。ただ魔鉄より、重い。

 しかも付与で、魔法の補助ではなく、強化だよ。

 普通に買ったら幾らよ? 想像できない。

「あの、あの、これ」

 とんでもないの持って来たよこの人。もらったらダメでしょ。これ。

「槍ともうひと振りと盾はちょっと待って、あ、これ、武器を入れるマジックバック」

 ちょっとちょっと。マジックバックまで出したよ。

「いやいや、こんなの貰えませんよ。貰いすぎだし」

「いいからいいから」

「いやいや」

「たいして入らないよ。この部屋位だから」

「だから、貰いすぎですって」

 私とナリミヤ氏の押し問答。

 結局貰ってしまった。残りをお断りしようとしたが、ナリミヤ氏に手持ちの材料だから気にしないでと言われて押しきられる。

「あ、ちなみに鞘はワイバーンの皮だから、それだけでも十分武器になるからね。硬化強化と自動修復、小だけど、消音、結界効果」

 いいのか? 本当に?

読んでいただきありがとうございます。


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