春祭り④
実況
春祭り当日。
領主エリンケ・ウェルダン様が挨拶して始まる。
「ミーシャ頑張ってっ」
アーシャがエールを飛ばす。
舞台で模擬の剣を振り回し、一回り大きな男児を圧倒。
いい音立てて、クリティカルヒット。
『勝者、クリスタムからやって来た冒険者ミーシャッ』
イエーイ、ミーシャ。かわいいなあ。
応援席に勢揃いして応援。アルフさん、マルコフさん、サーシャ、イスハーン殿下は別室で待機。明日の『決闘』の出場者は、今日から別室待機だ。
それから順当にミーシャは勝ち上がり、決勝戦。
「えいっ」
かこーん
一撃必殺。
『勝者、クリスタムからやって来た、美少女冒険者ミーシャちゃーんっ』
歓声が上がる。
なんか、増えてる。
イエーイ、ミーシャ。かわいいなあ。
エリンケ様から、たくさんのキャンディが詰まった瓶を渡される。あれ、商品だ。私ももらった。領のみんなに配ったなあ。春祭りの夜会で、勝者は出席。子供の部の勝者なので、保護者同伴だ。なのでサーシャとアーシャが付き添う事になる。
午後から、春祭り初日のもうひとつ目玉、美少女コンテストだ。二十歳未満の女性参加資格あり。ジェシカも参加、リツさんとアーシャがのりで飛び入り参加。リーフも女装したら行けるかな、なんて、思ったけど、いかんいかん。
山車に乗せられて、練り歩き、小さな石のコインを投票。
私はジェシカに投票しましたよ。
夕方発表。
「一位は飛び入り参加の冒険者リツさーん、二位は冒険者アーシャさーんっ」
三位はどこかの子爵令嬢だけど、2人と並ぶと霞んじゃう。申し訳ないけど。四位の子の方がかわいいよ。裏工作?
隣でアーサーが万歳万歳。
私も鼻が高い高い。
他の参加者の視線がきついけど、リツさんもアーシャも動じない。
花束を渡されて、笑顔のリツさんとアーシャ。うん、かわいい。
ジェシカは、ちょっとぶー、となっていたけど。仕方ないまだ8才だしね。10才未満の部があれば、ジェシカが優勝だろうけど。リツさんには大人の美しさがあるし、アーシャには儚げな美しさあるしね。まだ、ジェシカにないものだ。まあ、仕方ないね。
こうして初日は無事に終了した。
その日の夜、花束を加工して何か作っていた。
そして、『決闘』当日。
早めに闘技場に入り、準備をする。
私はローズさんの手により、支度される。
両親とエリック、ジェシカもだ。
衣装チーム、リツさん、マリ先輩、ローズさん、リーフによる物だ。お父様とエリックはすらっとしたスーツだ。お母様は水色のドレス。ジェシカは淡い緑のドレス。お母様とジェシカは、リーフが綺麗に髪をまとめる。
「ねえ様、綺麗だよ」
「ありがとうジェシカ」
大丈夫。きっと大丈夫。
アルフさんは強いし、マルコフさんもイスハーン殿下もサーシャも強いし。最後の1人は、まあ、予測しているけど。そっちも不安。
「ルミナス、準備出来たわね」
「はい」
おばあ様が迎えに来た。
私を見て、目を細める。
「ルミナス様、私達はクレイハート家の席で応援いたします」
「大丈夫だよ、ルナっち。負けるわけないよ」
ローズさんとリーフが貴賓席に向かう。
「さあ、行きましょう」
私は父に手を引かれて、専用の席に向かう。
闘技場の正面の一番高い席に私、両サイドにあるの席に私達家族、おばあ様が座り。反対側にナービット伯爵一行。私の近くにはウェルダンの女騎士が固めてくれる。
ざわざわとにぎわう闘技場。おばあ様がまず出ると、ざわついていた闘技場が静まり返る。
「ルミナス」
「はい、お父様」
優しくお父様が手を引いてくれる。
静まり返る中に、私はお父様に手を引かれ進む。私はローズさんとリーフの気合いの入ったデザインのドレスだ。薄いレースを重ねた淡い緑のドレスだ。あちこちに小さなピンクの花が絶妙な位置に飾られている。髪はアルフさんからもらった髪飾りで飾られる。
テーマは春の妖精、とな。
いつもの足につけるナイフは取り上げられた。不安だ。
いつも履かない靴に、足が不安定で、お父様の掴む手に力が入る。転けそう。これで転けたらおお恥だ。
おずおずと椅子に座ろうとする。
すごい、視線が集まる。なんだか、怖いなあ。
視線が集まる。ナービット伯爵側に座る数人のうちに、私の視線は止まる。
「彼がうちに謝罪に来たジェヤード様だ」
お父様が小さく耳打ち。
なるほど、サーシャを間違うはずだ。双子と言われてもおかしくないほど、そっくりな獣人男性だ。向こうは黒髪で片方の耳は少し欠けている。ああ、そうか、彼はスペアか。獣人で古い貴族では、次男、つまりスペアの耳を赤ちゃんの時に、カットすると。彼はどこかの貴族の次男か。髪の色が違うだけ、灰色の目は一緒だ。あ、向こうが年上みたいだ。
で、ナービット伯爵の子息は、私をギラギラした目で見る。気持ち悪い。さ、と女騎士が視線を遮るように立ってくれる。
別の貴賓席で、クレイハート一家が。マリ先輩がピンクのドレスを身に纏っている。あっちが春の妖精だよ。ローズさんとリーフもいる。他の面々は別のブロック席で見ているはずだ。
おばあ様がすっと立ち上がる。
「これよりウェルダン春祭り『決闘』を開始します。この度は、昔行われた『決闘』に従い、こちらのルミナス・コードウェルとの婚約をかけて行われます」
ざわざわざわざわざわざわ。
視線が集まる。うわあ、晒し者だあ。おばあ様、毎年これしてるの? すごい、尊敬する。
「では、各々の紹介を」
おばあ様が引っ込み、ウェルダン『決闘』の司会者が声をあげる。
『えー、皆様お待たせしましたッ、今年も不肖マイクが実況させていただきますッ』
のりのり、の声で、静まり返っていた闘技場に活気が戻る。
『かつて優しき領主に後妻を求めたことに端を発した、この行事。それ以来のウェルダン春祭りの目玉として、プライドをかけて行われておりましたが、今年はこの美しきルミナス嬢をかけて、男達がぶつかりあいますッ』
くわあぁぁぁぁぁ、恥ずかしいッ。
『まず、ご紹介しますは、バインヘルツがナービット伯爵家騎士だぁぁぁッ。エイザ、イタルナ、ペイダ、ラダン、チャイラーダッこの『決闘』を申し出た当人は諸問題あり、出場は断念ッ。代わりに忠義高き騎士達が名乗りを上げましたッ』
出てきたのは、屈強な騎士達だ。みな、獣人の騎士。
そうよね、言い出しっぺは、そこにいるし。
『そして、対するは美しきルミナス嬢に求婚した、ドワーフの鍛治師率いる面々だあッ。わざわざ隣国クリスタムからの参戦ッ。冒険者サーシャッ、因みに子どもの部で優勝したミーシャちゃんのお兄さんッ』
サーシャが木製の武器、トンファーを持って出てくる。隣のナービット伯爵側がざわざわ。そりゃそうだ、そっちに色ちがいのサーシャがいるからね。
『続いてはクリスタムAランク冒険者マルコフッ、友の為に参戦だあッ』
マルコフさんは木刀を持って登場。歓声で分からないけど、きっとバーン達も声をあげているはず。
『義理堅きマダルバカラからの参戦は、騎士イスハーンッ』
視線をさ迷わせていない、イスハーン殿下が出てくる。木刀と盾だ。
『コードウェルの危機に、クレイハートが立ち上がるっ。クリスタムで療養していたご令嬢がテイマーとして戻って来たッ。参加しちゃいますッ、天地の王者、グリフォンのショウッ』
ざわざわがとんでもない歓声になる。
お構い無しにショウがとっとこ出てくる。クレイハートの紋章を刺繍したバンダナ巻いて。やっぱり出てきたか。まあ、予測していたし、まさか、ノゾミやローズさんが出てきたら、それはそれで止めるけど。
『最後に登場、クリスタム、トウラ鍛治師ギルド所属、ドワーフの鍛治師アルフレッドッ。自前の鎧で参戦だあっ』
いよいよだ。
アダマンタイトの全身鎧に身を包んだアルフさんが、模擬の槍と盾を持ち、堂々と登場した。
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