春祭り③
ご報告をっ
騎士団との模擬戦の後、控え室の案内をされる。
アルフさん達が泊まり込む部屋や、私の控え室、そして当日の座る席等だ。
席はまさかまさかと思っていたけど、貴賓席の中央の最上段だ。なんだか、晒し者の気分。
「大丈夫よ、ルミナス。どう転んでも、貴女をあれには渡さないわ」
ふふふ、と笑うおばあ様。
『決闘』で出た条件。此方は今後一切私に関わらないこと。そして正式なナービット伯爵からの謝罪。向こうは私を側室に迎えるため、正式な手続きができるだ。
「ほほほ、許可なんて下ろさないようにしてあるからね」
私でも負ける真っ黒な笑みのおばあ様。怖。実は昨日、リツさんの携帯電話にナリミヤ氏から連絡があって似たような事を言ってきた。怖い、権力。
明日の午後は、此方が闘技場を使い訓練できると。それからミーシャが子供は部に出場が決まった。
夕方になり、屋敷に帰宅。
久しぶりコードウェル家が揃い、おばあ様が気を使ってくれて、別室で夕飯だ。
「え、姉様料理出来たの?」
「そりゃ、練習したしね。教えてもらったし」
調理場をお借りして、リツさんに見守られて作った。いびつだけど、オムライスだ。ブラッディグリズリーのワイン煮込みで形が悪い所を隠す。お父様とお母様にはお酒を呑まれるから、オムレツにブラッディグリズリーのワイン煮込みをかける。こちらのオムレツも形がおかしい。リツさんが作るときれいなアーモンドみたいな形なのに。コンソメスープとサラダも作った。これは自分で作りましたよ。パンはロールパン、デザートはアップルパイ。これはマリ先輩に教えてもらいました。お父様とお母様には前菜をリツさんが準備してくれた。リツさん特製腸詰めとラタトゥイユ、綺麗に半球の形をしたマッシュポテト、アスパラのソテーだ。だけど、腸詰めはジェシカのお腹に。
作っている最中におばあ様が来て、私の作ったものが食べたい言ってきたので、抵抗してみたが、ダメだった。お口にあっただろうか?
「いただこう」
お父様が涙を流してお祈り。
「あ、ねえ様、これとっても美味しいっ」
「本当だ。お肉もたまごと米がすごい合ってるね。姉様、とても美味しいです」
「本当? 良かった」
お父様もお母様も、美味しいって言ってくれる。嬉しい。たくさん作って良かった。
「姉様、このお肉なんですか? すごく柔らかい」
「グリズリーよ。ブラッディグリズリー」
ぶっ。
噴き出すお父様とお母様とエリック。
「か、買ったのかいルミナス」
「まさか、私が狩ったんですよ、お父様」
「え、ブラッディグリズリーだよね?」
エリックが疑わしい顔。
「フル装備なら一対一なら負けないわよ。ワイバーンだって一匹くらいな単独撃破出来るんだから」
お父様がテーブルに突っ伏す。
「ルミナスが、私のルミナスが……………」
「これくらい出来ないとダメすよ。リツさんやマリ先輩を守るにはまだまだですから」
そう、装備があっての事だ。
私はまだまだだ。今日、イスハーン殿下の闘いぶりをみて実感した。流石バーミリアン殿下のご子息なんだろう。私ではおそらく勝てない。
「姉様、どこに向かっているの?」
「最終的には、皇帝竜とレベル200超えの撃破」
「私のルミナスがぁぁぁぁぁッ」
ウェルダンの館。別の客室。
「ねえ、アルフ、あれ本当にどうするの?」
リーフがこそこそ話す。
「どうにかして。なんて言われてもなあ。儂にはどうしていいか…………」
三角形の挙動不審なイスハーン殿下は、今、別室で夕飯だ。優秀なウェルダンの使用人は、顔色変えずに配膳・下膳。
アルフ達は隣の部屋から覗いている。
「バーミリアン様の子供って、彼だけ?」
バーンが小さく聞いてくる。
「いや、次男がおるが、まだ未成年のはずだ。いずれ王にするなら次男のガルシア王子になるだろが。まあ、頑固なドワーフの国だから、ご長男のイスハーン殿下をという考えが濃くてな。だが、あれだしなあ」
三角形の挙動不審。視線が合わない。
「王位を外すとか出来ないんですか? 次男いるなら?」
サーシャがきく。
「出来んことはないが、いかんせんガルシア王子がまだ未成年だからな。それにイスハーン殿下自身が、王位継承権を放棄するだけのことは何もしとらん。それどころか、騎士としては優秀なんだよ。それにイスハーン殿下がそれを望んだとして、父親や祖父の前で相応の理由を述べんといかんはず」
「出来るの?」
リーフが、えー、みたいな顔でイスハーン殿下を見る。視線が変わらず合わない。
「無理だろうなあ」
アルフがため息。
「失礼します」
そこにワゴンを押して、メイド服のローズが入ってくる。
「「「「あ」」」」
びしい、と背筋が伸びるイスハーン殿下。視線もさ迷っていない。
こそこそとリツとマリが、アルフ達と合流。
「どうして、ローズさんがお茶を?」
リーフが聞く。
「ほら、ワイバーン騒ぎで助けてくれたでしょ。だからせめてのお礼の気持ちを込めて、お茶を差し上げたいってお願いしたの」
「ローズがね」
「「「「え?」」」」
「ウェルダンの奥様は喜んで許してくれたわ」
へえ、と振り返ると、何故か心配そうに見守るクレイハート夫妻。
なんでこの人達までいるの? みたいな視線が集まる。
「だって心配なんだよ。ローズがこのまま行き遅れるんじゃないかって」
「そうね。マリに付き合って専属メイドしてくれているけど。適齢期ですもの。以前もあったお見合いのお話だって、何度もお断りするし。そのローズが、わざわざマリ以外にお茶を淹れる方ですもの。見守らないと」
「お相手は王子様だけど、たしかマダルバカラは身分関係なく嫁げるはずだし」
この夫妻に、マリそっくり美少年、何を言ってるの?
「実はね、イスハーン殿下から、ローズに手紙が来たのよ」
「え、あのイスハーン殿下が?」
びっくりアルフ。
「ええ、内容は分からないけど、その手紙を大事にしてるわ」
「「「「へえ………」」」」
ならば、と見守る姿勢になる面々。
ローズが無駄のない動きでお茶と、美しく飾られたケーキを出す。
「どうぞ、イスハーン殿下」
「うむ」
イスハーン殿下がカップを持つが、ぴたり、と止まる。
「? お口に合いませんか?」
少し不安そうに聞くローズ。
「いや、せっかく」
イスハーン殿下がカップを持ったまま、ローズを見上げる。
「せっかく、貴女が淹れてくれた茶が、飲んだらなくなってしまう」
「まあ」
ローズの頬に赤みがさす。
「また淹れますわ。ケーキも、また、作りますわ」
「そ、そうか、なら、いただこう」
ぽわわ、とお花が飛ぶ。
アルフは細く開けていたドアを閉める。
「なんだか、きゅんきゅんする」
ミーシャが言う。
「あのイスハーン殿下がっ」
目頭を押さえるアルフ。
「バーミリアン殿下にご報告をっ、冒険者ギルドに行ってくるっ」
「どんだけなの、あの人」
リーフが突っ込む。
それから、アルフが冒険者ギルドに走って行くのを、皆で見送った。
読んでいただきありがとうございます




