春祭り②
三角形
地面にひれ伏す鍛治師ギルドの皆さん。
そりぁあね。あのバーミリアン様のご子息に掃除させてたんだから。来たときからあんな様子なので、王子様とは思わなかったみたいだ。
当のイスハーン様は、相変わらず視線を合わせず、三角形に挙動不審。本当にバーミリアン様のご子息なんだろうか? 確かに目元はにてるけど。雰囲気が全然違う。
だけど、急にぴ、と背筋が伸びる。
「いや、こちらがきちんと説明しなかった悪かったのだ。それに寝床と食事を提供してもらうなら、掃除の一つして返すが礼儀。気にするな」
人が代わったように、きり、と話し出すイスハーン殿下。
私の後ろで、呟くのはローズさん。
「義理堅い方」
ほう、ため息をつくように呟くローズさん。
……………まさかね。
イスハーン殿下のお着替え後、闘技場に向かう。
馬車の中でもいろいろあった。
おばあ様とイスハーン殿下のお話は滞りなく終了。それから、アルフさんがイスハーン殿下に捕まる。
「アルフッ、あの美しい方と、間を取り持ってくれッ」
「何をおっしゃっておるんですか? ご自分でなさいませ。ドワーフの名が泣きますぞ」
「泣くからなんとかしてくれッ、あ、父上から手形を預かっている」
イスハーン殿下から手紙を受け取り、中を見たアルフさんは天をあおぐ。
何だ何だ?
気になるが、闘技場に到着。
前に来たことあるけど、圧巻な建物だ。円形の闘技場で、中央が楕円形で周りをぐるりと階段式の観客席。収用人数は8000人。
おばあ様の案内で闘技場に。
「アルフさん、お手紙、何だったんです」
小声で聞くと、手紙を見せてくれる。
イスハーンを出すから、どうにかして。
え?
あのバーミリアン様の手紙ってこれ?
ほら、がんばれ的なこと、ないの?
「イスハーン殿下はな、戦闘している時は、まともに相手の顔を見て話せるが、通常はあれだ」
三角形の挙動不審ね。
だけど、バーミリアン様のご子息なら、いずれ王様よね? 王様があれで大丈夫なの? 戦闘以外、まともに顔を会わせられないって。
「バーミリアン様の胃痛の原因さ。だがなあ、マダルバカラから出る時の様子を聞いて、巧妙を見たんだと思うんだ」
ああ、ローズさん口説いていたからね。あの時確かにしっかりローズさん見てたから。さっきも、ローズさんの姿をみて、きり、となってたし。
バーミリアン様が、胃痛って。想像できない。
「どうするんです?」
「さあな。だが、今は『決闘』が先だ。イスハーン殿下の戦闘力は、かなり高いからな。戦闘に関してだけは心強い」
「そうですか」
バーミリアン様も苦労しているんだね。
なんて考えていると、闘技場の舞台に出る。
「「すごーい」」
ミーシャとジェシカがはしゃいでいる。
「広いな」
マルコフさんが辺りを見渡す。
「明明後日から春祭りですが。まず、初日は子供の部があります。次の日が『決闘』です」
おばあ様が説明する。
いよいよだ。
「本当によろしいんですの? マリーフレア様」
「はい、ルイース様っ」
何々? なんでマリ先輩、杖握っているの?
「マリ先輩、何を?」
嫌な予感ひしひし。
「ふっふっふ、最後の一人を、我がクレイハートから出すために、ミニ『決闘』するのよッ」
全力で止めました。マーガレット様の目に見えない威圧感で、制してもらいました。
結局、代わりを出すことに。
私が出ると、言ったら問題無用に却下された。
アルフさんが出ることに。
「頑張ってください」
「負けんさ」
「アルフさんっ、最後の一人をぜひっ」
興奮するマリ先輩の肩を無言で掴むマーガレット様。怖い。
模擬の槍を片手にアルフさんが前に。いつものラフなシャツにズボン、そして模擬の槍。相手はフル装備なのに。もちろん模擬の剣だけどね。
相手は誰だろう? 向こうはちょっと怒ってる。まあ、そうだよね、めっちゃラフな格好だからね。
「あら、鎧はよろしいんですの?」
「必要ありません。これは儂の実力を知ってもらうためもありますので」
おばあ様が、あらふふ、と微笑む。
大丈夫だろうけど、バートル様、アルフさんをお守りください。
「あ、姉様、ロジャー様だよ相手」
「え? あ、本当」
相手は若い騎士だ。本来ならマリ先輩がお相手するから、若い騎士が選ばれたのだろうけど。
「ルナちゃん、知り合い?」
マリ先輩が聞いてくる。
「はい。おばあ様の孫ですよ」
おばあ様には三人の息子がいる。
長男は辺境伯様の跡を継ぎ、次男は王国の騎士団、三男は文官として長男のサポートをしている。ロジャー様は次男の息子のはず。私も知り合い。確か、私と五歳位しか違わないはず。
だ、大丈夫かな?
向こうの応援団が野太いエールを送る。
「「「「ロジャー、がんばれっ」」」」
私もエールを。
「アルフさんっ、ケガさせない程度にっ」
「姉様、ちょっとちょっと」
エリックが突っ込む。
おばあ様の合図で、ミニ『決闘』開始。
アルフさんの模擬の槍が、鋭い音を鳴らしてロジャー様の足を払い、体制を崩した背中を強かに打つ。
はい、終了。達人レベルの槍に、勝てるのは、達人レベル。ロジャー様も弱くはないが、アルフさんに比べたら、申し訳ないが実力不足だ。
「きゃー、アルフさん、流石っ」
マリ先輩が黄色い歓声。
え、私もしたほうがいいかな?
「きゃあ?」
「やめなよ姉様」
エリックが冷静だ。
「ロジャー、なんて情けない。鍛治師の方に負けてどうするのです。鍛え方が足りないのね。騎士団長、訓練量を増やしなさい」
向こうで「違う、あれ、鍛治師じゃない、詐欺詐欺」と言うクレームが。
「で、マリ先輩、まさかとは思いますが、マリ先輩が出るわけないですよね」
「もちろんよ、ふっふっふ、楽しみにしててね」
なんだろう、不安。
それから、模擬戦もした。イスハーン殿下の動きをチェックするためだ。ウェルダンの騎士団が相手をしてくれた。
普段は三角形に挙動不審のイスハーン殿下だが、やはり戦闘バカと呼ばれるだけあり、動きの鋭いこと。特に盾と剣を持たせたら圧巻の闘いぶりだ。
そう言えばワイバーン騒ぎで共闘したアーサーが言ってた。
「もしかしたら、アルフさん並みに強いかも」
って。
「これでコミュ症ではなければ、バーミリアン殿下も安心なんだろうがなあ」
アルフさんがぽつりと溢した。
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