春祭り①
ホウキ
次の日の昼過ぎに、エリックが合流。クレイハート夫妻とシュタム様も合流。
「姉様っ」
「エリックっ」
背が伸びて、追い越されそうだ。ずいぶん子供っぽさが抜けた。
「背が伸びたね」
「当たり前でしょう? 成長期なんですから」
生意気な返答だけど、見たら分かる、安心したような顔だ。
バグしようかと思ったけど、嫌がられた。恥ずかしがりやめ。
クレイハート夫妻とシュタム様にもご挨拶。
「シュタム様、弟を気にかけていただきありがとうございます」
「いいえ。こちらこと姉を守っていただきありがとうございます」
シュタム様は金髪だけど、マリ先輩そっくりの美少年だ。
「姉様、ところで、噂の方は?」
「あ、アルフさんはこっちよ」
ウェルダンの館の裏は訓練場になっている。
今、ミカエル達のスキルアップの為に、模擬戦をしている。
あ、やってる、やってる。
模擬のロングソードを持ったアーサーと、模擬の槍を持ったサーシャが私達の足元に転がる。
「アーサー、足運びが甘いぞ。サーシャ、槍に振り回されるな」
額に汗を浮かべたアルフさんの激が飛ぶ。
後ろのエリックやクレイハート夫妻、シュタム様が引いている。
「あたたたたた」
「いってえ…………」
何とか起き上がる二人。
「えっと、姉様? こちらの方は?」
「パーティーメンバーよ」
「そう、ですか。姉がお世話になってます」
どうもどうもと挨拶をする。
「アルフさん。弟のエリックが到着しました」
汗を脱ぐっていたアルフさんが、こちらに来る。
「このような格好で失礼。鍛治師アルフレッドです」
「初めまして、エリック・コードウェルです」
アルフさんの背丈に驚ながらエリックはご挨拶。リツさん達や、マルコフさん達ともご挨拶する。ミカエル達ゴーレムには興味津々。ショウには引いていたけど、ノゾミにはメロメロだ。
エリックが来たので、一旦休憩。
アルフさんはシャワーを浴びて、着替える。
両親と名付け親のおばあ様の許しはあるけど、ドワーフ式のご挨拶したいと。殴り合い、呑み比べはアウトだしね。
「どうぞ、お納めください」
昨日、おばあ様に見せた一式だ。
ミスリルをメインにしたピンブローチ、イヤリング、髪止め。
「ねえ様っ、付けて付けてっ」
「はいはい」
ジェシカがはしゃいでいる。
モタモタつけていたら、お母様が代わってくれる。
「しかし、いいのかい? かなり値打ちものでは?」
「儂が作りましたので、お気になさらず。結界と解毒の付与がありますので」
「い、いただいていいのだろうか…………」
お父様が悩んでいる。
「フレデリック。せっかくアルフレッド様が貴方達には作って来たのです。いただきなさい。それに、これはドワーフの挨拶なのです。受け取らなければ、ルミナスとの婚約を許さないことにもなりますよ」
「は、はい、おばさま。アルフレッド君、確かに受けとりました」
「はい、ありがとうございます」
早速付けてくれた。アルフさんも、ほっとしている。
それから、春祭りの『決闘』が行われる闘技場に向かう。
おばあ様がマリ先輩がなにやらこそこそしていたけど。
途中で鍛治師ギルドに向かう。マダルバカラの騎士がお世話になっているので、一緒に闘技場を見に行くために。
ショウの牽く馬車は、案の定ざわざわされた。何故かおばあ様は、ウェルダンの馬車ではなく、こちらの馬車に乗ってる。ノゾミが可愛く鳴いて、お膝にすがりついている。
「ねえ、フェガリ、彼は貴方の甥なの?」
アーサーを見て首を傾げるおばあ様。
「違いますよ。アーサーはクリスタムの生まれですから」
髪が黒で、目は青のアーサー。コードウェルの領民にも不振がられた。私が答える。
「あら、そうなの? ごめんなさいね、お節介なおばあちゃんで。あなたはとても奴隷に見えないのだけど。どうして、奴隷に?」
確かに、奴隷にしては身綺麗だし、血色いいし、品のある顔立ちだしね。
ちらっ、と私を見るアーサー。頷く私。
「実は、自分の兄が騎士学校に通うのに、支度金を借りたくないと言って、自分が奴隷として売られました」
反対していたおばあさんが亡くなってすぐに、毒を盛られて。
「まあ、なんとこと。若いのに苦労をなさっているのね」
「自分は今は幸せです。リツ様に買っていただいて。ルナさんやアルフさんや皆さんによくしてもらってます」
「そう」
答えたおばあ様の目は、とても優しい。
程なくして、鍛治師ギルド到着。
アルフさんが、飛び出していく。
え、どうしたんだろう?
「イスハーン殿下っ、何をなさっておるんですかっ」
「あ、あ、掃除?」
叫ぶアルフさん。え、イスハーン殿下って、バーミリアン様のご子息様よね? コミュ症だ、戦闘バカとかひどい言われようの。
見ると、確かに見覚えあるドワーフ男性。おどおどしてる。
頭に手拭い、くたびれたエプロン、手にはホウキ。詰め寄るアルフさんに対して、三角形に視線をずらして合わせようとしない。挙動不審に、何だか、自信なさげが伺える。うん、王族の空気ゼロ。
「ルミナス、アルフレッド様、今殿下って」
さすがのおばあ様も、血の気が引いている。
「はい、バーミリアン様のご子息ですよ。ご長男のイスハーン殿下」
その後、鍛治師ギルドが大騒ぎになったのは、言うまでもない。
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