帰国⑦
おばあ様
リックが教会の地下に拘束された。
言い分はこうだ。
前々から私には恨みがあったと。リックの父親と叔父の兄弟はコードウェルの中でも裕福だ。リックは一人息子で、叔父のモーズは早くに妻を亡くして子供はおらずずっと独身だ。リックはそれは甘やかされて育ち、かなり暴君基質だった。貧しい子供から暴力を振るい、わずかなおこずかいを巻き上げ、なければ親の財布から抜いてこいと言う始末。ただ、リックののらりくらりと誤魔化し、それを親は信じた。相手は裕福な一人息子だ、結局泣き寝入りだけど、私だけが、リックをしめて、おこずかいを取り返した。それを恨んでいたと。逆恨みじゃない?
私が学園を行ったあとは、牧師様に監視をお願いした。
今回、私があの獣人に求められたこと、アルフさんを連れて帰ることや、『決闘』のことを知り、考えたと。
顔にキズでも出来れば、何もかも台無しになると。
それで、あれだ。
聞いてお父様が殴りに行くこうとするし、アルフさんが静かに殺気立つし。
とにかくリツさんや、マルコフさんに謝罪した。2人とも気持ちよく許してくれた。
それから3日間、いろいろあった。まず、我が家のリフォーム。錬金術チームとアルフさんがメインでしてくれた。後は畑の整備、アーサーと私、三兄妹、リーフで行い。ゴブリンの残党がないか、マルコフさん達がショウと一緒に回ってくれた。
それから採寸。お父様、お母様、ジェシカの春祭りの衣装を作ると。ノリノリだ。止まらない。
ジェシカはとにかく嬉しそうだ。
そしてやっと、ウェルダン領に向かう事に。
「リックの件、頼めるか?」
「ああ、任せておけ」
お父様と牧師様が話している。リックの母親は寝込んでいると。当のリックは自分は悪くないと未だに喚いているらしい。親の心、なんとかだ。
領の皆に見送られて、ショウの牽く馬車に乗り込み出発。
「わーい、はやーい」
ジェシカがはしゃぐ。お父様とお母様は固まってる。
夕方にはウェルダン領に到着。
ウェルダン領の領主の館に到着。
堅牢な館だ。
ショウには引かれたけど、クレイハートの名前で一発で大丈夫だ。
うわあ、緊張してきた。アルフさんはスーツ着用。私は白いワンピースだ。
「ねえ様、綺麗よ」
「ありがとうジェシカ」
執事に案内されて、応接間に通される。
美しい立ち姿の高齢女性。
「皆様ようこそウェルダンに」
振り返る仕草も品がある。
ルイース・ウェルダン。罪人騎士、ローグの実姉で、先代王妃と懇意にし、若い頃は夜会の女王と呼ばれたこともあった。
「皆様、わざわざ遠いウェルダンまでようこそ。お座りになって」
おばあ様が声をかけ、おずおず着席。
ローズさん、アーサー、リーフは立ったままだ。ちなみにノゾミとショウはお庭でのんびりしてる。
「今回ウェルダンの『決闘』に巻き込んでしまい申し訳ありません」
「いいえ」
スーツ姿のマルコフさんが緊張しながら答える。
「春祭りまて、あと4日あります。それまでゆっくりされてくださいね」
宿泊はここの屋敷だが、アルフさん、マルコフさんとサーシャは参加するので前日は闘技場に泊まり込む。
マダルダカラからの参加する騎士はウェルダンの鍛治師ギルドで世話になっていると。バーミリアン様からの書簡は届いていた。
最後の一人は、ウェルダンの騎士になる予定だが、マリ先輩が交渉するき満々だ。
少し話をして、それぞれ客間に案内される。
私達一家とアルフさんは残ることに。
「来たわね、ルミナス」
「はい、ご心配おかけしましたおばあ様」
「ふふ、貴女が婚約者を連れてくるとはね。アルフレッド様でしたわね?」
「はい」
ちら、と視線を走らせる。
「フレデリック、貴方の考えはどうなの?」
話を降られて、お父様の緊張が増す。
「私はルミナスとアルフレッド君の婚約には反対しません。ただ婚姻に関しては『決闘』やアルフレッド君の問題が済んでからと言う話に」
「そう。アルフレッド様の問題とは?」
バーミリアン様からの地竜の咆哮の皇帝竜の件を聞いて、おばあ様の眉がぴくり。
「まあ、大変なことに…………」
「なんとかします。皆も協力してくれる仲間がおります」
アルフさんの返答に、おばあ様の顔に優しくなる。
「頼もしい方ね。ドワーフの鍛治師と聞いていたけど、ずいぶん背丈のある方ね」
「人族とのハーフですが、精神はドワーフです」
「そう」
おばあ様は息をつく。
「これからはお節介なおばあちゃんの言葉だと思って頂戴」
「はい」
「失礼だけど、ルミナスを養えるだけの腕なのかしら?」
「はい、問題はないかと。付与師としても働けますので」
「まあ、付与までされるの」
「はい」
「蓄えはあるのかしら?」
「2億ほど」
吹き出す私とお父様とお母様。おばあ様もちょっと止まって再起動。
「まあ、すごいわね。所でアルフレッド様、何か一つお見せ頂けませんこと?」
「はい、コードウェル家にお渡しする予定でしたが」
私はこっそりマジックバックから箱を取り出す。
「こちらを」
アルフさんが箱をおばあ様に差し出す。
「失礼」
おばあ様が開ける。
「まあ、素敵ね」
中には私のペンダントや髪飾りと同じ、翼のモチーフだ。ピンブローチが2つ、これはお父様とエリックのだ。イヤリングはお母様、髪飾りは私の髪飾りより一回り小さい。これはジェシカだ。ジェシカの目が輝く。
「細工物がお得意なんですの?」
「いえ、本職は武器や防具類です」
「あら、そちらを見せて頂けません?」
顔を見合わせる私とアルフさん。
仕方ない。
マジックバックからアダマンタイトの全身鎧、十文字槍、バスターソード、斧、ナイフ、盾、最後に魔鉄の槍。
「まあ、アダマンタイトですわね。お見事ね。これを貴方が?」
「はい。付与は別の者に協力を得て行いました」
「まあそうですの。腕は確かですのね」
おばあ様がぽかん、みたいな顔。初めて見た。
「これなら、ルミナスを養えるし、これだけの装備品を使いこなせたら『決闘』も問題はないわね。うん、そうね」
ルイースおばあ様は息をつく。
「アルフレッド様、最後にお聞きします」
「はい」
「ルミナスを愛しています?」
う、恥ずかしい。
「はい」
「ドワーフの種族性?」
「いいえ、ルナだからです」
「?」
「儂はルナだから、嫁にしたい、家族を築きたい、そう思うのはルナだけです」
なんだろう、胸が一杯になってくる。このまま、大きくならないかな?
「そう」
おばあ様は静かに微笑む。昔の面影がある、美しい微笑み。
「ならば、名付け親として、貴方達の婚約に反対しませんわ。ただ、問題が残っているようですので、そちらが片付いてからですが。出来れば私が生きている間に、お式に呼んでちょうだい」
感無量なのかな? 多分最難関のおばあ様が許してくれた。すごく、すごく、すごく、嬉しい。
「ねえ様」
私のスカートをちょいと引くジェシカ。
「良かったね」
「うん」
「ねえ様とっても嬉しそうっ」
読んでいただきありがとうございます




