帰国⑥
罪状
ショウ、サーシャ、バーンを先頭に進む。
休憩を挟みながら、2時間後、ゴブリンの巣到着。
「あったな」
皆で身を低くして覗く。
「200くらいか」
「そうだな」
「どの様に動きます?」
アルフさんとマルコフさん、リツさんで相談。
同行したハンス達は、ミカエル達に囲まれて小さくなってる。
「ルナちゃん」
「はい」
リツさんに呼ばれる。
「アルフさんにお花持たせようってことだけど、いいかしら?」
「あの、私も出来れば参戦したいのですが、コードウェルは問題ですし」
「なら、儂の後に続け、いいな?」
「はい」
「俺たちは逃げてきたのを迎撃だな」
作戦はこうだ。
まず、魔法で数を減らす。
…………………これで全滅しないかな?
ショウは遊撃、サーシャとリーフが弓で逃げるゴブリンを仕留める。残りも援護、逃げてきたのを始末だ。
「ハンス」
「は、はい、お嬢様」
「そこから動かないで、いいわね。絶対に手出ししないこと」
「はい、お嬢様」
緊張した顔で頷くハンスとモーズ、ただ、リックだけ不服そうだ。
ハンスとモーズには、ノゾミがすり寄っていき膝に前足をかけてる。
魔性発動。
さて、と。
初撃の魔法準備。
ちらり、とアルフさんが頷く。
「フレイムダンスッ」
「フレイムランスッ」
「フレイムランスッ」
「ファイヤー」
「ファイヤー」
「ファイヤー」
アルフさん、アーサー、マリ先輩、ウリエル、ラファエル、アリエルの魔法が飛ぶ。
「ウインドスラッシュッ」
「ウインドスラッシュッ」
「ウインドスラッシュッ」
「ウインドカッターッ」
「ウィンド」
「ウィンド」
私、イレイサー、リツさん、リーフ、ミカエル、ガブリエルの魔法も飛び、ショウも不可視の刃を飛ばす。
「サンダーランスッ」
ローズさんの魔法も着弾。
ゴブリンが吹き飛んで行く。
「よし、行くぞッ」
「はいっ」
アルフさんは魔鉄の槍、私は二代目で巣に向かう。
無事なゴブリンはいない、奥にルークとナイトがいるが、無傷ではない。
森に逃げようとするゴブリンをサーシャの矢が次々にい抜いていく。リーフも負けじと矢を飛ばす。ショウは空に展開して、不可視の刃を飛ばす。
私は二代目で残存しているゴブリンを斬り倒していき、アルフさんはルークとナイトを、薙ぎ倒す。ジェネラルひと突きするアルフさんに、勝てるわけない。
カラン
ん? 何故か私の近いに矢が落ちてる。
気にしている暇はない。
私は休まず二代目を振り回した。
程なくして終了。
息をつくと、リツさんの声が響く。
「サーシャ君っ、落ち着いてっ」
なんだ、なんだ。
兜をしまったアルフさんと顔を見合わせて、リツさんの元に。
「お、お嬢様っ、何とかしてくださいっ」
ハンスの悲鳴。
サーシャがリックの襟首を抑え、ナイフを首に当てている。後ろは木、リックは身動きとれずに真っ青だ。ショウも威嚇体制。
「サーシャッ」
私の声に、サーシャが振り返る。
「こいつ、あんたを狙った」
「はあ?」
「僕も見たよっ」
リーフも手を上げる。
「ルナっちに矢が飛んでいって、サーシャが撃ち落としたんだ。そしたら、こいつがいたんだ。撃ち落とされて驚いてたけど、弓を持ってたんだ」
「ほう」
アルフさんの底冷えのするような声。
「いい度胸だ」
アルフさんがぼきぼきと指を鳴らす。
「お嬢様っ、お嬢様っ、リック、ただ、手助けしようと」
「大した腕でもないのに、混戦中に矢での攻撃はご法度。それくらい分からないの? ハンス、モーズ、あなた達、あの中で狙ったゴブリンだけい抜くだけの事はできるの?」
私の言葉に詰まる2人。
「はあ、あのね、本来はゴブリンの巣の掃討っていうのは、冒険者ギルドや近くの騎士団を有する貴族に願わないといけないのよ。今回は私の故郷ってことで2つ返事で受けてくれたのよ」
私は続ける。
「もし、あそこに私以外の誰かが近くにいたらどうするの? たまたまサーシャの腕が良かっただけで事なきを得たけど。分からないの? 人に向けて矢を放つという事が」
「も、申し訳ありませんお嬢様ッ」
ハンスが地面にひれ伏す。
「申し訳ありません、申し訳ありません、親としての監督不行き届きです。申し訳ありませんッ」
「ハンス、私はあなたを責めません。今回の事は、父と牧師様に託します」
泡を吹きそうなリックに向き直る。
「リック、成人は済んでいるはず。ならば、相応の報いを受けなさい。今から拘束します」
素早くローズさんとリーフが動く、サーシャも手伝い猿轡をされて、ぐるぐる巻きだ。
ゴブリンの死体の始末をするので、そこら辺の木に縛り付ける。ハンスとモーズは泣きながらゴブリンの耳を切り落とし、アルフさんの作った穴に死体を放り込む。
すべてを終えて戻る。夕方だ。
歓声を上げて迎えてくれたけど、ぐるぐる巻きのリックに戸惑いの声が上がる。
私がお父様と牧師様、皆に説明すると、一斉に非難の視線が突き刺さる。
「なんて事をッ、恩知らずがッ」
「人に矢を放つなんて、人殺しだっ」
「前から悪がきだったが、成人しても、やって悪い事も分からないのかッ」
「ふん、いい様だ、自業自得だっ、奴隷になっちまえっ」
わあ、最後はちょっとなあ。
お父様が一歩前に出る。
しん、と静まり返る。
「リック、お前は自分がしたことが分かっているか?」
猿轡を取り払われたリックが、咳をしながら、お父様に訴える。
「俺は、ゴブリンを、狙った」
「混戦中に? お前の腕はそんなにいいのか? 違うな? 手出ししないこと、と言われておきながら、勝手に動いたこともそうだ。交戦中に浅はかな行動だ」
「違うっ、そいつだ、そいつがあいつを狙ったから、矢をっ」
そいつはサーシャ、あいつは私だ。
「何故、彼がルミナスを狙う? 理由はなんだ? 皆に分かるように説明しろ」
「見たから、矢を放つのを」
「当たり前だろう? 彼はお前とは比べ物にならない腕の持ち主だぞ。ルミナスが後方支援を頼んむくらいの。それで、ゴブリンを逃がさないために、一匹残らずな。さあ、理由を述べよ」
「矢を撃ったんだっ、だから、俺は撃ち落そうと…………」
「それは、お前の腕で可能か? はあ、リック、お前は昔から言い訳ばかりだな。ルミナスを狙ったということで、私はお前をぶん殴りたい。だがな、私は領主だ。訂正は判断をしなくてはならない」
お父様は息をつく。
「狩人ハンスの息子リック。お前のしたことはルミナス・コードウェルに対しての殺人未遂だ。お前の身柄は判決を下す事ができるウェルダンの裁判所に委ねる。それまで、教会の地下に拘束する。家族の接近は許さん」
見守っていた皆の中で誰かが倒れる。リックの母親だ。
私はまだコードウェル男爵の娘だ。貴族に対する殺人未遂となれば、罪状は重い。しかもゴブリンの掃討作戦中にだ。
なんとも後味の悪い最後になった。
読んでいただきありがとうございます




