帰国⑤
ワイン煮込み
ショウが帰って来た。
「どうだったショウ?」
「ピィピィピィピィピィ」
「分かったわ。中規模の巣があるようです」
ショウの言葉を理解するマリ先輩。うーん、テイマー能力かな。
既に夕方だから、明日の朝、出発となる。
「ルナちゃん、久しぶりの一家団欒でしょ。私はいいから」
夕食にご招待したけど、リツさんは遠慮した。
ショウの馬車の方が立派だからね。空間拡張された馬車内に、両親は絶句、ジェシカははしゃぐ。
その間に、私はアルフさんと話をする。皆が見てない場所で。
「あの、アルフさん。どんなお話だったんですか?」
両親が許してくれたけど、どんな話しか心配だった。
「なあに、儂の話をしただけだ。それだけだ」
「それだけ?」
「それだけだ」
アルフさんのゴツゴツした、優しく頬を包む。
「大丈夫だ。大丈夫だ、ルナ」
アルフさんに言われて、私の心が落ち着いてきた。
「はい」
そっと頬にキスをしてくれる。
なんだか、足りない。
ちょいちょい、服を引く。
私は恥ずかしいけど、アルフさんを見上げる。
綺麗なオッドアイが、細くなる。
そっと、キスをしてくれる。
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
「くすくす」
小さな笑い声。
「あ、ジェシカッ」
顔に血が昇る。
「ははは、見られたな」
アルフさんが笑って、肩を抱き寄せる。
あわあわあわあわあわあわ。
「くすくすっ、内緒にしてあげる」
「ちょっと待ってジェシカッ」
私は慌ててジェシカを追いかけた。
久しぶりのコードウェルの食堂。
「私の作ったワイン煮込みです」
ターニャとマイクにもお裾分けした。涙流して喜んでいたから、良かった。
色とりどりのサラダに、クルミとドライフルーツのブレッド。私がなんとか作りました。
「こ、これをルミナスが?」
挙動不審のお父様。涙浮かんでる。
「お母様のワイン煮込みには、勝てないですけど」
「あたな、泣いていては食べられませんよ」
「お父様、早く食べたい」
「ああ、食べよう」
ドキドキ。
お祈り。
「では、いただこう」
ドキドキ。
「こ、これはッ」
「まあ、美味しいッ」
「はぐはぐッ」
良かった好評。
「ルミナスが、こんなに美味しいワイン煮込みをッ」
「はい。アルフさんが大好きなので」
何回も作りました。
なぜか、お父様が、釈然としない顔だ。
「美味しいわよルミナス、何度も練習したのね」
「はい」
リツさん指導で、何度も作った。
「ねえ様、どれも美味しいよ」
「本当? 良かった、ジェシカ、たくさん食べてね」
「うんっ」
エリックにも食べてもらいたいなあ。エリックはまだ学園だ。ウェルダンの春祭りで合流となる。
食後のデザートは、マリ先輩の指導で、ベリーたっぷりタルトだ。
「ねえ様、とっても美味しいっ」
「そう、良かった」
パクパク食べるジェシカ。お茶も淹れる。
「まさか、ルナにお茶やお菓子を出してもらえるなんて…………」
お父様が、涙が止まらない。
お母様も、ハンカチで拭っている。
「変わるものね、あのルミナスが料理を、こんな美味しい料理を作るなんて。アルフレッド様のお陰ね」
釈然としないお父様、全然釈然としないお父様。
「まだまだです。リツさんやマリ先輩には敵いません。いつも教えてもらってばっかりです」
「まあ、お礼を申し上げないと」
お母様は嬉しそうだ。
タルトもターニャとマイクに、お裾分けした。泣いてばかりだけど。
久しぶりのコードウェルの夕食。エリックがいないけど、楽しい食事だった。
次の日。
領の皆が見送りに来てくれた。
いつもの装備をすると、ああ、ルミナスお嬢様だ、と。
「ルミナス、ルミナス、お前はここに」
「お父様、何を仰ってます? コードウェルの問題ですよ。コードウェルの誰かが行かないと示しがつきません」
本来なら冒険者ギルドに依頼出さなくてはいけないが、リツさんが二つ返事で受けてしまった。マルコフさんまで。
「なら、私も行く」
足手まとい。
「ルミナス、顔に出てるよ。だけど、行くからね、私は領主なんだから」
「よせ、フレデリック、ハンス達が行くから、ここで待て」
牧師様が説得してくれた。
ハンス兄弟は狩人だ。ハンスと弟はモーズ、そしてもう1人。ハンスの息子、リックだ。ちなみにこのリックはかなり悪ガキで、よく絞めていた。大人が分からないようにやるため、私も大人が分からないように絞めてやった。
リックの私を見る目が、不穏に光る。また、何かやらかすきだな。
「ねえ様、大丈夫?」
「大丈夫よ。ゴブリンくらい。ジェネラルくらいなら遅れはとらないわ」
「ああ、ルミナス、ルミナスが……………」
嘆くお父様。
ざわざわざわざわざわざわ
お父様が噴き出す。
アルフさんがフル装備で出てきたからだ。
「す、す、す、す、す、すごい、鎧だね、アルフレッド君…………」
「ありがとうございますコードウェル殿」
立位の騎士礼の栄えること。
「あれか? 例のあれか?」
「いい男~」
「いやあ、圧巻な鎧だなあ」
わいわいざわざわ。
ただ、材質が分かっているのは牧師様だけのようで、天を仰いでいる。それから、お父様を連行。
「おい、フレデリックっ、彼は一体何者だ? ただの鍛治師ではないだろう?」
「そうだが。何でも王宮直属の鍛治師か、バーミリアン様から直属の騎士にならないかって言われているそうだが、アルフレッド君は窮屈だからと断ったと」
小さく奇声を上げる牧師様。
「私、それだから、許したわけではない。ルミナスを養い、守り、愛していけると信じて託すのだから」
小さな声だけど、聞こえた。
嬉しい、嬉しい、嬉しい、嬉しい、嬉しい。
「ふふ、ルミナス、こんな状況だけど、あなたのそんな顔を見れて嬉しいわ」
お母様が優しく言ってくれる。言ってお母様の顔に心配な表情が浮かぶ。
「大丈夫よね、ルミナス?」
「ええ、問題ありません。お母様」
負ける気がしないから。
タンクのアルフさん、アタッカーの私、斥候のサーシャ、バランサーのアーサー、グリフォンのショウ、後衛のリツさん、マリ先輩、ローズさん、アーシャ、ミーシャ、リーフ、ノゾミ。マルコフさん達もいる。
「さあ、行きましょう」
「はい、リツさん。では、行ってきます」
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