帰国④
本物?
「ふふふふふーん」
私と手を繋いだ機嫌のいいジェシカ。
「ねえ、ジェシカ」
「なあに?」
「ずいぶん機嫌がいいね」
「だってだって」
ジェシカが弾む。
「ねえ様帰って来たもん。とってもきれいになって帰って来たもん」
「うーん、綺麗は、服のせいじゃない?」
ジェシカがこてん、首を傾げる。
「ねえ様、鏡見た方がいいよ」
「なかなか言うね」
「それにね、かっこいいお婿さん連れて来たから、自慢したいの」
「まあ、アルフさんはかっこいいね…………」
言いながら、なんだか、恥ずかしくなって来た。
「ねえ様、いつ結婚式するの?」
「いろいろあるから、それが終わってからよ」
吹き出しそうになるけど、我慢しながら答える。
「ふーん」
ジェシカと教会に向かいながら、何人かの領民に遭遇。
何故か、本物か疑われる。
特に昔しめたことがある、元悪ガキ連中には、疑われる。
「なんだ、まだ懲りてないのか? 仕方ない、鍛え直してやろう」
笑顔を浮かべて、マジックバックから木刀出すと、「本物だーッ」と逃げていく。
「ねえ様、怖い」
「ごめんごめん」
見ていた人達はドン引き。
「教会に挨拶あるから」
怖くない笑顔を浮かべると、皆、どうぞ、してくれた。
古い教会に着くと、裏庭に入る。
小さな畑で、作業している高齢男性。牧師様だ。
「牧師様」
声をかけると、顔を上げる牧師様。
「ルミナス、ルミナスなのか?」
「はい、牧師様。ただいま戻りました」
私はカーテシーでご挨拶。
牧師様は、手を拭きながら、私の方へ。足を引きずってる。
「牧師様、足が」
「ああ、歳には勝てんでな。前々から痛みがあったんだよ。それよりルミナス、よく帰ってきた」
「はい、ご心配お掛けしました」
私とジェシカは、牧師様に誘導されて、応接間へ。
お茶を淹れようとしてくれたけど、変わる。
「まさか、お前にお茶を淹れてもらう日が来るとはな」
感慨深く呟く牧師様。私は一体どう思われていたのだろう?
「まるでとりつかれたように、剣を振り回していたからな」
「う」
牧師様は、私に剣の基礎を教えてくれた人だ。私のおじいさまとも親友で、どこかの伯爵家の庶子らしい。詳しくは、亡くなったおじいさましか知らない。だが、博識でよくお父様の相談に乗ってくれているため、皆から一目置かれている。
「ちゃんと令嬢らしいじゃないか。うん、落ち着いたようだな。以前の殺伐した空気がない、ふふ、婚約者を連れてくると聞いたが。その婚約者のお陰かな?」
「……………まだ、父の許しを得ていません」
今頃話をしているはずたけど。
私はお茶をテーブルに並べる。それから、マジックバックからクッキーを出して並べる。
「ねえ様が焼いたの?」
「そうよ、まだたくさんあるからね」
「うんっ」
お茶を一口飲む牧師様。
「うん。上手じゃないか」
「ありがとうございます」
「ルミナス、『決闘』の件を聞いたが。その婚約者は大丈夫なのか? 鍛治師だと聞いたが」
「その点は心配していません」
私は簡単だけど、アルフさんの説明をする。ワイバーンだって弾き返したからね。
牧師様、無表情になる。
「そうか、かなりの強者のようだな。なら問題ないな」
「それにね、とってもかっこいいのよ」
ジェシカがクッキーを頬張りながら、説明してくれる。
「そうか。今、その婚約者は?」
「両親とお話をしています」
大丈夫かな? お父様、許してくれるかな?
「そうか」
カップを置く、牧師様。
「本当に変わったなルミナス」
「そ、そうですか?」
「自覚がないのが、お前らしい」
「?」
よく分からない。しばらく話をして、家に帰る。
牧師様が送ってくれた。
帰り道、誰かが牧師様に駆け寄って来る。顔見知りの農夫だ。
「牧師様、牧師様、家畜がやられてさしまいましたッ」
「はあ、とうとうか」
牧師様が息を着く。
「どうしたんです?」
「最近ゴブリンが出てな。被害らしい被害はなかったが、とうとう家畜に手を出し始めた。次は若い娘が狙われるかもしれん。ルミナス、込み入っているかと思うが、フレデリックと話をさせてくれ。1人で行動しないように伝令してくれ」
「はい」
農夫が駆けていく。
「構いませんが、私がゴブリン駆逐してきますよ」
「若い娘が何を恐ろしい事を。格好が変わったとしても変わらないな」
呆れ返る牧師様。
ゴブリンくらい、大丈夫なのに。
ちょっと急いで戻る。
「おう、グリフォン」
日向ぼっこしているショウに引く牧師様。ノゾミは近所の子ども達と遊んでいる。
「ジェシカ、遊んで来ていいからね」
「はーい」
ジェシカが駆けていく。
「あら、どうしたのルナちゃん?」
リツさんとマリ先輩が来る。
「さっきゴブリンが出たらしくて」
「あら、大変」
「ショウ~」
「ピィッ」
「巣がないか探してきて」
「ピィッピィッ」
ショウが伸びてから、空に駆け上がる。
「うわあ、すごーい」
子ども達が歓声を上げる。
「ルミナス、あのグリフォン、大丈夫なのか?」
「はい。ショウは特別賢いんです」
マリ先輩が胸を張る。
「あの、皆さんは?」
「あ、私のお世話になっているパーティーの方です」
牧師様にご紹介。
「ルミナスがお世話になっているようで」
「いいえ、私達もルナちゃんには助けてもらっています」
穏やかにご挨拶。
「牧師様、お父様に」
「そうだな。皆さん、また、改めて」
牧師様と平屋に入る。
まだ、話中かもしれないけど、応接間をノック。
「お話中申し訳ありません。お父様、牧師様が」
『ああ、ちょっと待ってくれ』
お母様がドアを開ける。
応接間には、当然お父様にアルフさんがいる。
なんだろう、すごく不安が沸き上がる。アルフさんなら、大丈夫だって思っているけど、お父様がダメって言ったらどうしようって。
「牧師様」
父が立ち上がる。
「すまない、フレデリック。大事な話をしていると分かってはいるのだが、ゴブリンがとうとう家畜に手を出してな。掃討依頼を出さないと、犠牲が出る可能性が」
なら。
「その役、儂が引き受けても」
アルフさんが手を上げる。
「いえ、コードウェルの問題です。お父様、私にお任せください」
「アルフレッド君、お願いできますか?」
お父様が素早く判断。
「お任せください、コードウェル殿」
「しかし、『決闘』前で大事にならないか?」
牧師様が心配そうだ。
「ゴブリン程度で、どうかなるような柔な鍛え方はしておりません」
うん、頼もしい、誇らしい、嬉しい。
「あのお父様、グリフォンのショウが巣がないか確認しています」
私の言葉に、考える面々。
まずは、ショウが帰って来てから、どう動くか決まる。
牧師様はアルフさんに、改めて挨拶して帰って来た。
帰っていった。
………………………………………
気まずい空気。私だけか、気まずい空気。
「あ、あの……………」
「ルミナス」
「は、はい」
父の声に、私は顔を上げる。
「私は、お前とアルフレッド君の婚約には反対しない。ただ、婚姻は『決闘』とアルフレッド君の問題が済むこと、そして」
お父様は息をつく。
「ルイースおばさまを納得させることが出来なくてはならないよ」
私は体の奥底から、熱くなる。
「お父様…………」
「きっと、アルフレッド君から、お前をずっと守って、愛してくれるだろう。だから、私とフェガリは、なにも言うまい」
「あ、ありがとうございます、お父様」
涙が浮かびそうだ。いや、浮かんできた。
そっと、父が拭ってくれた。
だけど、結局止まらなくて、お母様がハンカチで拭いてくれた。
読んでいただきありがとうございます




