帰国③
ごめんなさい
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいお父様、ごめんなさい…………」
私の口から出るのはその言葉だけ。
「いいんだよルミナス、もういいんだよ。お帰り、お帰りルミナス」
お父様は何度もそう言って、強く抱き締めてくれる。
私はわなわな泣いた。
「ああ、ルミナス、よく顔を見せておくれ。ああフェガリそっくりだ、なんと美しい娘なんだろうなお前は。世界一の娘よ」
ぼろぼろ零れ涙を脱ぐってくれる、父の手がかさかさだけど、暖かい。たくさん苦労した手だ。その苦労の原因は私だ。
「ごめんなさい、ごめんなさいお父様」
「いいんだよ、もう、いいんだよルミナス」
「ずるいっ、お父様ばっかりっ、ねえ様っ、ねえ様っ」
平屋から飛び出してきたのは、ジェシカだ。ああ、背が伸びて、可愛くなって。
私は膝をつくと、ジェシカが抱きついてくる。
「ねえ様どうして帰って来なかったの? ジェシカ、ずっと待っていたのよ」
ぐずぐず泣くジェシカを、私は抱き締める。
「ごめんねジェシカ、ごめんね」
「ルミナス」
ジェシカを抱き締めていると、お母様の声。
「お母様………ごめんなさいお母様、迷惑かけて、心配かけてごめんなさい」
「もういいのよ、ルミナス」
お母様はジェシカごと、抱き締めてくれる。その上からお父様が抱き締めてくれる。
私はしばらく振りに泣き続けた。
落ち着いてから振り返ると、アルフさんだけがいた。
あれ?
あ、離れた場所で、木の陰に隠れてこちらを見ている面々。隠れきれてないけど、ハンカチ片手のリツさんマリ先輩、ローズさん。アーサーも三兄妹も見守ってくれてる。マルコフさん、イレイサー、バラックもだ。ただ、濁流の様な涙を流すリーフとバーンには引いた。リーフは顔立ちが良すぎるから、余計に引いた。
「あ、あのお父様、話たと思いますが、会ってほしい人です」
びしり、と固まるお父様。
「まあまあ、アルフレッド様ねっ」
お母様が何故か嬉しそう。
アルフさんが騎士礼を取る。
「お初にお目にかかります、マダルバカラ神匠エディオール三番弟子、アルフレッドと申します」
私、緊張してきた。
「ご息女、ルミナス嬢と」
「ちょっとストップストップ。ルミナス、ドワーフって言ったよな、ドワーフって」
反則だ、みたいなお父様。
「ええ、ドワーフの鍛治師ですよアルフさんは。ただ、ハーフってだけで」
「いいとこ取りっ」
「あなた、いつまで外でお待たせしますの? さあ、ご案内しないと」
「いてっ、わかったよフェガリ。まあ、どうぞ」
ぶすう、とお父様。
その前に私は平屋の端から様子を、見ていたターニャとマイクを見つける。
「ターニャッ、マイクッ」
「お嬢様ッ、ルミナスお嬢様ッ、ご無事でなりよりでございますッ」
私が駆け寄ると、ターニャの熱い包容を受ける。マイクは黙ったまま、しきりに手拭いで目を拭いている。
「お帰りなさいませ、ルミナスお嬢様」
「ただいまマイク、ただいまターニャ」
その間に、リツさんと両親も挨拶しようとして、固まっている。
「娘が大変お世話になっていると、あ、あれ?」
両親とも、何故か困惑。
「なぜ、貴方がここに?」
「え?」
戸惑いの声を上げるのは、サーシャだ。
「あなた、違う方よ」
「そ、そのようだ。失礼しました。余りにも知り合いの方に似ていらして」
「そうですか」
サーシャが首を傾げる。
ジェシカまでまじまじと見上げている。
「ジェヤード様、今日は髪の色がどうして違うの?」
「?」
「ジェシカ、この方はジェヤード様ではない。娘が失礼しました」
「いえ、大丈夫です」
サーシャが更に首を傾げる。
ジェシカも首を傾げるが、ノゾミが来て、きゃっきゃっ言って撫でている。
お父様もお母様も、ショウには引いていたが、やっとリツさん達とご挨拶が済む。マリ先輩ともだ、おっかなびっくりしながら。
「娘が大変お世話になっているとお聞きしています。本当にありがとうございます」
「こちらこそ。ルナちゃんにはいつも助けてもらっています」
我が家にご案内したいけど、全員は無理だ。
「まず、ルナちゃんとアルフさんのお話を。私達は、そこで過ごすてますから。ゆっくりお話をしてください」
アルフさんを我が家にご案内する。狭い応接間に誘導。
ターニャが特製ブレンドティーを淹れてくれた。懐かしい香り。
「どうぞ、お座りください」
「はい。失礼します」
父に促され、アルフさんは着席。
「まず、ルミナスの件の前に。この度わざわざライドエルまで来ていただいたこと、そして『決闘』に関して、君を危険に晒すこと、申し訳なく」
「コードウェル殿、頭をあげてください。本来なら、ライドエルを先に伺わなくてはならんことでしたが」
いえいえと、話が続く。
「あなた」
お母様がお父様を見えたい様につねる。
「ええ、と。ルミナスの件だが」
「はい。ご息女ルミナス嬢との婚姻を許して頂きたく参りました」
アルフさんは2通の手紙を出す。
「これは私の保証人から、これはマダルバカラの兄弟子達からの手紙です」
バーミリオン様の証明書は出さないんだ。
「拝見します」
お父様が手紙を読む。
「よく、分かりました。フェガリ、ジェシカを連れて来てくれ」
「はい」
「ルミナス、領の皆に挨拶をしてきなさい。私はアルフレッド君としばらく話したいから」
ちら、とアルフさんを見ると、大丈夫とオッドアイ。そっと、手を握る。大好きなゴツゴツの手。
ジェシカが呼ばれ、私は振り返りながら、応接間を出る。
「ルミナス、まず、神父様にご挨拶してきなさい」
「はい、お母様」
「ねえ様行きましょう」
お母様に見送られ、ジェシカに手を引かれて家を出る。
「あら、ルナちゃんどうしたの?」
家から出てきた私を見て、リツさんが駆け寄って来た。
「お父様が領の皆に挨拶を、と。アルフさんは、お父様とお母様と今からお話です」
「いよいよね」
気合いが入るリツさん。今日は朝からオーク肉を揚げて、アルフさんにたっぷり食べさせていた。リツさん曰く験担ぎと。
今、バーンがお祈り中。
アルフのいいとこ、伝わります様に。
本当にいい人だ。
「リツさんすみません。うちが狭くて、皆を案内出来なくて」
「いいのよルナちゃん。さ、ご挨拶に行って」
「はい」
私はジェシカの手を引き、家を後にした。
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