帰国①
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
マリ先輩が、冒険者ギルドの奥の応接間で、カードを更新した。
マリ・ハートから、マリーフレア・クレイハートに。
………………どうやったか、考えまい。
「まったく、どうしてソウタが関わっているか分からないけど、本来あり得ないことだからね」
シェラさんから言われて、マリ先輩、てへ、みたいな。かわいいなあ。
しばらく、トウラを『ハーベの光』と共に開ける事を伝える。フレナさん達『紅の波』はミーナまでの馬車護衛の為、別行動だ。
「「リツ様、早く帰って来てね」」
ホリィ一家と鍛治師ギルドの皆さんに見送られる。
「アルフ、しっかりな。負けるなよ」
「分かっとるギルドマスター」
「ほっほっほっ、アルフや、分かっておるな?」
「分かっとる、副ギルドマスター」
おじいちゃんドワーフダビデさんから、豆頂きました。
ショウに馬車を繋げて、いざ、出発。
道中問題なく、本来なら1ヶ月かかる行程を、10日で走り、いや、飛び越える。
いろいろ、騒がれたけどね。たまにあのスレイプニルが爆走しているから、とんでもない大騒ぎにはならなかったし、予め冒険者ギルドからあちこち連絡してもらっている。なので、冒険者ギルドが落ち着いた対応し、冒険者もならうと、一般人め、ああ、そうかみたいな感じになる。
国境の町にも、連絡が行っていたので、スムーズに通貨。馬車の中で鎮座しているミカエル達には、警戒されたけど、あの変なポーズを披露したら、無表情でどうぞされた。
「何ででしょう、ちょっと恥ずかしい気がします」
「奇遇だな、儂もだ」
「自分もです」
「俺も」
ここでもノゾミは魔性だった。
「メエメエ~」
可愛く鳴いて、警備の人達がメロメロだ。
ドライフルーツ貰っている。
国境から、まず向かうのは首都、ライバドーンだ。まず、ここで一泊して、次にコードウェルだ。
泊まるのは、マリ先輩の家の別邸。
そう、クレイハート伯爵家の別邸。
豪華。
「「「「え?」」」」
マルコフさん達がぽかん。
「え、え、マリ君、まさか、ここ? あ、そうか、ご両親がお勤めなんだね」
マルコフさんが挙動不審だ。
「いえ、うちの別邸です、さ、皆さんどうぞ」
ちゃんといますよ、ガードマン・ガーディアン。
挙動不審の『ハーベの光』と、重厚な門を抜ける。
「リーダー、僕、ちょっと怖い」
情けないバーン。イレイサーもバラックも落ち着かない。
ショウがドアの前に横付けする前に、さっと、並ぶ使用人の皆さん。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「「「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」」」
「皆、ただいま」
流石クレイハート伯爵家、一子乱れない動き。貧乏男爵の私には、お目にかかることはない。ショウにも驚かない。まあ、連絡行ってるか。
「マ、マリ君、俺達は馬車で待つよ」
「何を言っているんですか? さあ、どうぞ皆さん」
執事さんとマリ先輩を先頭に、ぞろぞろ続く。ショウとノゾミは、お庭だ。ショウは寝転び、ノゾミは庭師さんに撫でてもらってる。
マルコフさんではないが、私も馬車で隠れていたい。だけど、コードウェルに対していろいろしてくれているから、お礼言わないと。
「なあなあ」
「なんです?」
後ろでサーシャがこそこそアーサーに聞いてる。
「別邸って、他に家あるってことだよな?」
「でしょうね。マリさんのお家はとんでもないお金持ちだって聞いてますから」
「へぇ………」
そっとリーフが呟く。
「クレイハートはライドエルでも有数の資産持ってるよ」
「へ、へぇ………」
マルコフさん達は、マルコフさんを先頭で固まっている。
「旦那様、お嬢様がお帰りでございます」
『そうか。通せ』
執事さんがドアを開ける。
ドキドキ。
そこには金髪を紳士と、茶色の髪の美しい女性。一目で女性はマリ先輩のお母様だと分かる。
「マリーフレア、ただいま戻りました」
マリ先輩がカーテシー。
「お帰り、マリーフレア。皆さん、初めまして、私がマリーフレアの父、フレデリック・クレイハートです。娘が大変お世話になったとお聞きしています」
とんでもございません。
私達は礼の姿勢を取る。
マリ先輩が順番に紹介してくれた。
「皆さん、堅苦しいのはなしです。お疲れでしょう。ゼバス、皆さんをお部屋にご案内を。ああ、ルミナス嬢、少し話ができるかい?」
「はい、クレイハート伯爵様」
アルフさんが心配そうだが、大丈夫だ。多分、ナリミヤ邸で起きたこととかだから。マリ先輩、ローズさん、リツさんもいるしね。
振り返るアルフさんに、大丈夫だと笑顔を浮かべる。
私は別室に通され、椅子を勧められる。
「失礼します」
そこに茶器が乗ったワゴンを押して、メイドが入ってくる。
……………………え、ローズさん、そっくりですけど。ローズさんが美しく歳を取った感じだ。さっ、とお手伝いに入るローズさん。
「ローズのお母さんのグロリアよ」
「あ、なるほど」
通りで。
「さて、ルミナス嬢」
「あ、はい」
「君には感謝しかない、娘マリーフレアとローズを守ってくれたこと、本当にありがとう」
深く頭を下げる伯爵夫妻。やめて、貧乏男爵の私、失神しそうだから。
「い、いえ、伯爵様、あのときは私の力不足で、ローズさんは怪我をしました。申し訳ありません」
「ふふ、君は変わらないね」
お茶が配られる。
「いえ、シュタム様にも、弟に声をかけていただき、感謝の言葉もありません」
いじめられてないし。
「エリック君はとても成績優秀と聞いていますわ」
マリ先輩そっくりのクレイハート伯爵夫人が優しい言ってくれる。あ、鼻が伸びそう。
「まあ、話は一旦おいて、今度行われるウェルダンの春祭りの『決闘』だ」
伯爵様はお茶を一口。
「例の『決闘』を申し込んできたバインヘルツの貴族だけど、覚えていないかい? 学園の武術大会準決勝の相手だよ」
「はい、覚えています」
なかなか、筋のいい記憶があるけど。
「その人ですか?」
「そう。彼だよ」
伯爵様は深く息をつく。
「本来ならばあのような要求は通らない。コードウェルは立派な男爵家だからね。爵位のある者同士の国際結婚になれば、国の許可が必要だ。気分を悪くしてしまうようですまない。君を側室に入れるわけでもない、そもそも婚姻もする気もない、子供を産ませた後は戻すなんてあり得ないからね。それをあんな夜会の場所で、複数の目がある場所で言うこと自体が分からない。よほどのバカだよ」
伯爵様が毒を吐く。
「コードウェル男爵の評判は半々。愛する娘を馬鹿げた要求と圧力に負けずに守った父親。そして、友好国の高位貴族の申し入れを蹴った不敬な男爵と」
お父様、大丈夫かな?
「私達はもちろんコードウェル卿の味方だよ」
「ありがとうございます」
「それでも『決闘』なんて話を持ち出したからね。前々から妙だとは思っていたから、ちょっと調査していなら、分かったことがあってね」
何だろう?
「ナリキンヤ侯爵を知っているかい?」
「はい、確か、ジェイムズ様の婚約者候補筆頭」
だったはず。マリ先輩のありもしない悪口言ってるやつ。誰も見てない暗がりなら、前歯を折ってやりたい。実は、私も無関係じゃない。前世で、私が騎士の誉を受けるときに、横から取って行ったのが、ナリキンヤ侯爵の大奥様。つまり、ジェイムズ様の婚約者候補筆頭の侯爵令嬢の祖母だ。
「そのナリキンヤ侯爵令嬢が婚約者に収まったんだけどね。その令嬢があることないこと、吹き込んでいたんだ。ルミナス嬢、君の産んだ子が、バインヘルツの王になるために役立つ、貴方は王の父親になるってね」
何、それ?
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