表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
283/386

アルフレッド⑨

貴女は、美しい

「キィキィッ」

「がうがう」

「お前らいい加減にしろ、帰るぞ」

 呆れた顔のバーミリアン殿下。

 マリ先輩にしがみつく赤毛の猿と、足にぴったり寄り添うサイ。並べられた焼き菓子がなくなり、私達の話の途中から、マリ先輩のおねだりしていた。

 ………………高位精霊よね? ショウとノゾミがそわそわしてる。主人のマリ先輩取られるって、思っているのかな。

 マリ先輩優しいから、せっせと餌付け、違う、クッキーやらマドレーヌやらあげてた。

 バーミリアン殿下が首根っこ掴むも、テコでも動かない猿とサイ。

「まあ、どうしましょう」

 マリ先輩が嬉しそうな困った顔。かわいいなあ。

 結局、たくさんクッキーやマドレーヌ、パウンドケーキ、マフィンを詰めた箱を渡してる。箱に釣られて猿とサイも移動。うわあ、胃袋掴まれてる。分かるけどさ。

「本当に申し訳ない」

「いいえ殿下、お気になさらないでください」

 マリ先輩が綺麗な笑みで返答。

 箱に入ろうとする猿を防ぎながら、バーミリアン殿下は改まったように話す。

「皆さん、今回の件、本当に感謝します。おかげで多くの民が救われました。アルフの事で、ご迷惑をお掛けする。申し訳ない」

 バーミリアン殿下からの言葉に、私達は慌てて礼の姿勢を取る。

「いずれ、ここの拠点とする場所が必要となるはず。それはこちらが準備しよう。復興作業を終えてからになるが、よろしいか?」

「ありがとうございます殿下」

 リツさんが返答。

「アルフ」

「はい」

「ここはお前のふるさとだ。エディオール達の墓もある。兄弟子達もおる。気にせずいつでも帰って来い」

「はい、殿下、ありがとうございます」

「最後に、今は渡せないがダンジョンアタックを開始した時に渡そう。20階まで移動できるワープストーンだ」

 え、そんなのあるの? 地竜の咆哮のワープストーンって、とんでもなく高価な気がするけど。

「よろしいのですか?」

 リツさんもちょっと心配な顔。

「構わんさ、それくらい」

 太っ腹。

 バーミリアン殿下は、護衛も付けずに来たのか、1人で帰って行った。まあ、レベル200越えで、高位精霊2体もいるし。大丈夫かな。


 次の日。帰国の日を迎えた。

 ガガンさんとザザンさん一家が見送りに来てくれた。ガードナーが小さくごめんなさい、と私に言ってきた。私も気にしてないって答えた。

「アルフ、いつでも帰って来い」

「そうだ、ここはお前のふるさと。いつでも待っとる」

「ありがとう兄貴」

 私はアニタさんとハンナさんからがっちり包容されて、小さく注意事項が伝えられる。

「いい、ルナさん、気をつけてね」

「アルフもドワーフだけど、男だから、くれぐれも注意して」

「…………はい、お義姉様」

 私は真っ赤になる。

 その後ろでアーサーがそわそわしている。

 なんでもワイバーン騒ぎで盾とロングソードを貸したまま、返ってこないと。

「あの騒ぎだからな。今は復興作業で忙しいから忘れとるんだ。アーサー、心配するな、新しいの作ってやる」

「すみませんアルフさん、アルフさんが作ってくれたのに、こんな事になって」

 しゅん、としているアーサー。

 そこにエルフの騎士がやって来る。お見送りに来たわけではない。あれだ、リーフをバカにしたのが来た。

「おい、そこの奴隷」

「自分ですか?」

「お前、支援が使えるな。なら、奴隷にしておくのは勿体ない。上に掛け合って我々の予備騎士として迎えてやってもいい」

 うわあ、いらっとする言い方。

 トウラの騎士団は、正式に迎えようとしてくれたけど、こいつら予備かい。

「嫌です」

 すっぱり断るアーサー。よく言ったッ。

 エルフの騎士が眉を吊り上げる。

「無礼な、我らの誘いを断るのかッ」

 さあ、と見守っていた人から冷ややかな視線。

「それはそちらではありません? まず、主人である私に話を通すべきでは?」

 さっと出てきたリツさん。ショウが後ろに立って翼を広げる。

 う、と下がるエルフの騎士。私とアルフさんも立つ。

「なら、正式にその奴隷を買い取る、いくらだ?」

「買い取る? まあ、払えます? アーサー君は500億ですよ」

 桁っ、桁増えてるっ。

 見守っていた人たち、噴き出してる。

「ふ、ふざけるなッ」

「値引きは致しません」

 ふふふ、とリツさん。

 カッコいいリツさん。

「私はアーサー君を手放すつもりはありません、もし、彼が望むならそうしますけど。アーサー君、この人に着いていきたい?」

「絶対に嫌です」

「だ、そうです。お引き取りください」

「ふざけるなッ」

 手を出そうとした、エルフの騎士の腕を掴むアルフさん。私は2代目に手をかけ、アーサーも籠手から薙刀を出して、リツさんを守るために私と並ぶ。鎧リンゴを握り潰すアルフさんに掴まれて、エルフの騎士は悲鳴を上げる。アルフさんは突き飛ばす。

「いくら友好国とはいえ、無礼にも程がある。これ以上言うなら、手加減せんぞ」

「くっ………」

 そこにあの謝ってきたエルフの騎士が駆けつける。

「やめてください隊長。すみません皆さん。すみません。さあ、帰りましょう」

 平謝りのエルフの騎士。隊長と呼ばれた騎士は、ふん、と腕を払いずかずかと去っていく。

「本当に申し訳ありません」

 もう一度謝罪して、去っていく部下のエルフ。大変だあ。

 去っていくエルフ達とすれ違うように、1人のドワーフ男性が駆け寄って来る。

「あ」

 アーサーが思わず、といった声を上げる。

 見送りに来てくれたドワーフの皆さんが慌てて礼の姿勢。

 え、誰?

「アーサー、良かった間に合ったッ」

 息を切らせて布に包んだ物を差し出す。

「ありがとうございます、わざわざ」

 心底安心したようなアーサー。

「いいや、遅くなってしまって」

 知り合いだろうけど、誰? アーサーの盾とロングソードを貸した人物だろうけど。

「バーミリアン殿下のご長男イスハーン殿下だ」

 アルフさんが教えてくれる。なるほど。私も礼の姿勢。義理堅い人だ、わざわざ届けてくれた、しかも自分の足でここまで来たんだ。アーサーが奴隷だと知っていても、きちんとお礼いってる。あのエルフと雲泥の差。

「それで、その、このハンカチの女性を…………」

 なんか急にもじもじし始めた。

「あ、ローズさんですね。ローズさん」

 アーサーが呼ぶと、戸惑いながら、ローズさんが出てきた。

 更におろおろし始めるドワーフ男性。

 綺麗にカーテシーをするローズさん。

「これを、借りたままで、その」

「まあ、わざわざありがとうございます」

「それと。これを、マダルジャスミンだ」

 ハンカチと共に小さな袋を差し出す。おろおろ、おどおど。

「マダルジャスミンは、その、疲れが取れる。肌にも、いい」

 差し出された白いハンカチと袋を受け取るローズさん。

 ローズさんは綺麗にされたハンカチと袋を見て、笑みを浮かべる。

 その笑みに恍惚としたバーミリアン殿下ご長男イスハーン殿下。

「貴女は、美しい」

 ぽつり。

「貴女は、美しい。その緑の瞳も、伸びた姿勢も、戦う姿も、誰かを助けようとする姿も、全て」

 ? ? ?

 え、ローズさん、まさか口説かれている?

「きっと、貴女の美しさは、消え失せず、輝き続けるだろう。私はその輝きをずっとずっと見ていたい」

 口説かれてるッ。ローズさんが、バーミリアン殿下の息子にッ。え、王子様よね? え、いいの?

 当のローズさんは、赤くなり、混乱している。

 周りの人達は凄い形相。アルフさんまで珍獣見るような顔だ。

「ずっと、見ていたい………あ、し、失礼したッ」

 は、となるイスハーン殿下。

 脱兎の如く踵を返して、走り去り。

  ゴスウッ

 転けてる。まるで全力疾走した子供の転び方だ。

 起き上がるイスハーン殿下。走りだし、再びゴスウッ。ゴスウッ、ゴスウッ。

 え、何回転ぶの?

 姿が見えなくなり、人々がざわめく。

「あのイスハーン殿下がっ」

「戦闘バカがっ」

「コミュ症のイスハーン殿下がッ」

「明日は気温が上がるぞッ」

「雨よッ」

 ひどい言われよう。王子様よね?

「「「「バーミリアン殿下にご報告をッ」」」」

 わいわい、ざわざわ。

「あのイスハーン殿下がなあ」

 アルフさんまで感慨深い顔。

「とても情熱的じゃない。ねえ、ローズ?」

「か、からかわないでくださいマリ様」

 動揺しているローズさん、始めてみた。

 そんなこんなで、10日の滞在を終えて、私達はトウラに戻るために、馬車に乗り込んだ。

読んでいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ