アルフレッド⑥
対物納品
「そうか」
アルフさんの問いに、バーミリアン殿下は淡白に答える。もしかしたら、あんまり無理なこと言われないかも。確か、何か納めるって言っていたし。アルフさんなら、大概のものは作れるし。
なんて思っていると、バーミリアン殿下はゆっくり私達を観察するように見渡す。
「お前に対する物か、そうだな」
バーミリアン殿下が目を止めたのは、まず、アルフさんだ。
「立て、アルフレッド」
「はっ」
立ち上がるアルフさん。
「ふむ。アダマンタイトの全身鎧に、武器もそのようだな。飛び込んで来たワイバーンを弾き返した盾も、お前自身も手放すには惜しい。これらはお前自身の作であろう? どうやって作ったかは聞かんが、これだけの品々、マダルバカラの将軍ですら持ち得ない」
多分そうでしょうね。なんせ、フルセットですから。出来たのはあの魔道炉だからだけど、アルフさん自身が制限しないで作ったらこうなった。
次に目を止めたのは最後列のアーサーだ。
「そこの黒髪少年、立て」
後ろから、アーサーの緊張が伝わってくる。
おずおずと立ち上がるアーサー。
「奴隷か。発言を許そう。若いがずいぶんと高い魔法スキルのようだな。話を聞いたが、支援魔法を飛ばすと。本当か?」
「はい」
「そうか。少年、お前は奴隷だな? それにしては豪華な装備だな。その鎧。そしてアダマンタイトを含んだ槍。誰から与えてもらった」
ドワーフの1人が、アーサーの薙刀を持っている。私達の武器一式、ズラリと並んでいる。
「アルフ、レッドさんに」
「そうか」
緊張した声のアーサーに対して、バーミリアン殿下は何一つ変わらず。
「そこの獣人少年、立て」
サーシャが僅かに動揺しながら立ち上がる。
「発言を許そう。お前は救助作業の要であったな。お前のその耳が、我が民を救った、大義であった」
「ありがとうございます」
「さて、お前も素晴らしい武器を持っているな? 純度の高いミスリルの剣、そしてこの弓だ。特に弦が素晴らしい素材を使用しているな。これらは誰から与えてもらった?」
「剣はアルフレッドさんに、弓はパーティーメンバーの方から」
「そうか」
ちらり、と視線が動く。あ、なんかやな予感。
「そこの黒髪の少女、立て」
来たッ。私は深く一礼して、立ち上がる。
「発言を許そう。若いが腕の立つ剣士のようだな。ワイバーンの首もためらいなく切り落としたと。ふむ、美しいではないか」
「身に余る光栄です」
「お前の剣も素晴らしい。あれもアルフレッドか?」
最後の剣だけは出さず、マジックバックに納めている。だから、見られているのは初代と二代目、薙刀、ナイフだ。
「いいえ、別の方から戴いたのです」
「別の? 誰だ?」
言っていいのかな?
私は返答に迷う。
「答えられぬか?」
「その方に、迷惑をかけますので」
「なら」
そう言って、バーミリアン殿下は私に近づいてくる。自身の耳をとんとん。あ、小声ね。
「義理堅き娘よ、誰にも言わん」
「…………ソウタ・ナリミヤ様です」
小さく返答。バーミリアン殿下の目が、かっ、と開くけど、見なかったことにした。
おほん、と咳払いするバーミリアン殿下。
「アルフレッド」
「はっ」
「私はお前に対物納品の品を、指定する」
「はっ」
いよいよだ。
「我がマダルバカラが誇るダンジョン。地竜の咆哮最下層にいる、『皇帝竜』のドロップ品を差し出せ」
は?
え、嘘でしょ?
マダルバカラの地竜の咆哮って、大陸の三大ダンジョンで、難度の高いダンジョンのはず。確か、バーミリアン殿下とオーディスの騎士ダグラスをレベル200に押し上げたダンジョン。
え、最下層の皇帝竜って、え、無理だよね? うちでレベル100越えアルフさんだけよ、絶対に無理だよ。
私が額から汗が流れてくる。冷や汗だ。
「無論、1人で行けとは、言わん」
「考え………」
「ならば、我々ラピスラズリ・リリィがお受けします」
弾かれたように、アルフさんがリツさんを見る。
「殿下、発言の許可を」
「許そう、立て」
リツさんが立ち上がる。その腕を掴むアルフさん。小さく、よせ、と言う。
「アルフレッド、お前ではない。私はこの娘に発言許可を与えた、控えよ」
「………はっ」
「申せ」
リツさんが一度深くお辞儀をする。
「我々はまだ未熟者でございます。アルフレッドさんのような指導者がまだ必要なのです。そしてパーティーリーダーとして、私は彼を手放すつもりはありません。しかし、マダルバカラのバーミリアン殿下からの名誉なお言葉に、答えるのが、この国の流儀。ならば、我々は仲間としてアルフレッドさんの力になるだけです。ただ、一つお願いがございます」
「なんだ?」
「猶予をお与えください」
リツさんは息をつく。
「我々はまだ若輩者です。なので、その地竜の咆哮に挑むために、研鑽する時間をお与えください」
「では、与えよう。期間は?」
「五年。五年経った後のリリィの月から、ダンジョンアタックを開始したいと思います」
「五年は長い。三年だ」
「殿下、我々はまだ、若輩者でございます。どうぞ猶予をお与えください」
「ならば、四年だ。それ以上は待てん」
「ありがとうございます。バーミリアン殿下」
こうして、四年後のリリィの月から、地竜の咆哮にアタックすることが決まった。
「最後にアルフレッド。これは父親として聞く。イリアーナの件だが、それも対物納品か?」
「殿下、儂には既に心に決めた娘がおります」
その言葉に、バーミリアン殿下は深く息をつく。
「ならば、イリアーナの件は忘れてくれ」
あ、良かった、何か、言われるんじゃないかって、心配したけど、あっさり引いてくれた。だが、私の不安は晴れない。
帰り道、アルフさんがリツさんとやや口論になる。
「リツ、どういうつもりだ、地竜の咆哮にこれだけの数で挑むのは自殺行為だぞ。儂が殿下の条件を飲めば」
「アルフさん、王宮にはつきたくないんじゃなかったでした? それにルナちゃんの事はどうするんです? 『決闘』は?」
「それはそうだが。皆を危険に晒せん」
「ふふ、大丈夫ですよ、私だって考えがありますから」
不気味な笑みを浮かべるリツさん。
宿に戻り高々と取り出したのは携帯電話。
え、まさか。
「あ、ナリミヤ先輩お久しぶりです。実はXO醤とオイスターソース、キムチが出来上がったんです。それでですね、ちょっとご相談したいことが………あ、ありがとうございます、あ、はい、はい、ちょっと待ってください」
リツさんは、宿の庭に携帯電話を置く。
え、嘘。
携帯電話の周囲が光るといたよ。
「ソウタ・ナリミヤ参上ッ」
残念金髪美形がッ。
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