マダルバカラ③
ワイン煮込み
「あの、お口に合うと………」
ドキドキ。
私は味噌入りのブラッディグリズリーのワイン煮込みを出す。後はカボチャと豆のサラダ、バケットを並べる。リツさんやマリ先輩指導で作った。大丈夫かな? お口に合うかな? うわあ、初めてアルフさんにワイン煮込み出した時以来に、ドキドキ。今日はいつもの倍以上の人数で食べるから、居間に食堂いっぱいだ。
お祈りして。
「「「「「いただきます」」」」」
ドキドキ。
…………………
「これはうまいッ」
「なんと奥深い味じゃッ」
「なんて柔らかいのッ」
「香りも抜群ッ」
「おいしい~」
「あむあむッ」
良かったッ。
「あの、たくさんあるので、どうぞ召し上がってください」
うん、そう言ってけど、皆さんよく食べる。気持ちいい位に。ドワーフって大食漢だと、聞いたけど、まあ、食べる食べる。嬉しい。
大鍋だったけど、ごっそり減った。でも、良かった良かった。サラダもバケットも綺麗になくなった。
沢山お話もした。
「いやあ、お嬢さんは料理上手だなあ」
「アルフ、いい娘じゃないか」
「ははは、そうだろう」
ダンを膝に乗せて、口を拭いているあげているアルフさん。
「でも、いいお肉ね。お金かかったんじゃない?」
アニタさんが心配してくれる。
「大丈夫だ、狩ったからな。元はタダだ」
「さすがアルフ」
ハンナさんがうんうん。
「いや、確かルナが狩ったよな?」
「あ、はい。そうです」
今年のハバリーの始めに、魔の森の奥でリハビリがてら狩りました。
「「「「はあ?」」」」
「どうした?」
「いや、アルフや、ブラッディグリズリーだよな?」
黒子のあるガガンさん。
「お前なら分かるが、こんな細い娘がか?」
どこが細いの、ザザンさん。
「こう見えてもな、ルナは高ランクの冒険者だ。剣に関してはピカ一だからな」
う、ちょっとやめてアルフさん。
お盆で顔を隠す。
「こんなに華奢なお嬢さんがなあ」
「信じられんなあ」
恥ずかしくなって来た。
じろじろ見られて恥ずかしくなり、誤魔化そうと、デザートのクッキーを出す。マリ先輩指導で作りました。エリックとジェシカに食べて欲しくて沢山作っていた。良かった、ドワーフ男児達が競うように食べる。お茶はローズさんが淹れてくれた。
「しかし、城門がずいぶん物々しいようだが」
アルフさんが紅茶を飲みながら聞く。
「ああ、あれはな、警戒しとるだけだ」
「最近、ワイバーンがよう飛んどるからな」
ワイバーンか。
「まあ、我らにはバーミリオン様がおるから、ワイバーンなぞ怖くはないがな。そう、バーミリオン様だ。アルフ、お前いつまでここにおれる?」
ガガンさんの問いに、アルフさんがリツさんに視線を寄越す。
「出来れば年内には、クリスタムに戻りたいのですが」
「そうか、ならいい。予定の日になったら帰った方がよかろう」
え、バーミリオン様に謁見しないの?
「いいのか?」
アルフさんも聞いてる。
すると、悪い顔になるガガンさんとザザンさん。
「何、なんの問題はない」
「向こうが条件を飲んだのだからな」
?
「帰国時期はアルフの都合に合わせる」
「そう、アルフのな。だから、滞在期間もアルフの都合だ。向こうが会わせんほうが悪い」
ぐっふっふ。
ああ、なるほど。一度交わした約束を違えることはない。頑固気質のドワーフならではだ。
「手紙の内容は、やはり分からんのか?」
私も気になっている。
ガガンさんとザザンさんはクッキーをぱくり。
「まあ、おそらく、お前を引き立ててくれ、という内容だとおもうんだがなあ」
「儂らにも教えてくれんのだ」
困った顔になる2人。
「まさかとは思うが、お前を直属の騎士に、とも思うんだ。もしそうなれば、断るのは難儀だぞ」
「今さら、騎士隊に所属する気はなかろう?」
「そうだな。今の生活が気に入っておる。トウラの鍛治師ギルドには恩があるしな」
え、バーミリオン様の直属?
「あの、もしそうなったら、どうしてお断りするのが難しいんですか?」
私は分からずに聞く。ただ、お断りするのに、どうしてだろ?
「王家直属となるとな、とても名誉な事を断るには相応の事をしなくてはならん」
「直属になった、と仮定して得られるものを予想して、品を納めたりや行いをしなくてはならん」
「「対物納品と呼ばれとる」」
へえ。
「親父もそうしたしな」
「え?」
アルフさんの言葉に私が反応しる。
「親父は元々王宮副筆頭でな。儂を引き取る為にわざわざ王宮直属鍛治師を辞めたんだ。だがな、その時に対物納品を要求されてな。親父は自身最高傑作の剣を献上した」
アルフさんは少し寂しそう。
「今でも、バーミリオン様は携えてくれとる」
「そうさ、大事にしてくれとる。儂らは誇りに思っとる」
ガガンさんとザザンさんが言う。
「儂らは、まだ、親父に追い付けん」
「ああ、まだ遠い存在だ。そうだ、アルフ、お前少し勘は戻ったか?」
「あ、まあ、そうだな」
アルフさんはちょっと考えて。
「見るか? なんとか形になったが」
そう言って、ドワーフ男児達の鼻を拭いてあげているリツさんに声をかけて、居間にアルフさんのトルソーが出てくる。
で、出ましたアダマンタイトの全身鎧、盾、十文字槍、バスターソード、斧。
「まだ、ちょっと甘い感じがするんだが、どうだ?」
え、まだ、なの? アルフさんにとって、まだなの?
次の瞬間、ガガンさんとザザンさんの拳が、アルフさんのばっきばきの腹に入る。
「お前ッ、なんちゅう鎧を作っとるんだッ」
「しかも、国を出てまだ2年も立っとらんのに、これだけの物を作りおってッ」
「あたた、いや、調子に乗ってな」
「「乗りすぎじゃあッ」」
アニタさんとハンナさんは、すごく近距離で見てる。
「とにかくアルフ、この鎧を来て、絶対に出歩くなッ」
「盾も剣も槍もじゃッ」
「分かった分かった」
「「よし、じゃあ、見る」」
そう言って、ガガンさんとザザンさんは鎧に張り付くように見始めた。
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