Jランク③
クラブサンドイッチ。
「彼女は共にいる少女、マリと呼ばれている少女を信頼しています。それは二人の様子を見て分かります」
「ほう」
「マリと呼ばれている少女といるとき、年相応の顔でしたからね。彼女と良好な関係なら、いずれはダンジョンアタックを目指すはず。冒険者心得の際にダンジョンの件を聞いてきましたからね」
グラウスが初めてルナと接触した日の冒険者心得の説明の時、マリだけが手を上げダンジョンのことを聞いた。そのマリの姿を見ていたルナは、少し諦めたような顔をしていた。付き合わないと行けないという、嫌ではない、仕方ないといった表情だった。
「ダンジョンには初心者ならパーティーを組む。そのためには最低Fランクにならないといけない。あのマリという少女、ローズという女性は、見た感じ悪くはないがFランクに上がるのには時間がかかりそうでしたしね。いち早くランクアップ出来そうなのは彼女でしょう。マリという少女の為に、今回の登録の件、受ける可能性があります」
「なるほど」
「まあ、しばらく待ちましょう」
グラウスの言葉にギルドマスターは頷く。
「なら、待つとするか」
「そうですね。彼女については調べを進めます」
「頼む」
では、失礼しますとグラウスはマスター室を出た。確かにルナという少女は気になる。あの強さもそうだが、応接室で見せた顔が妙に引っ掛かる。
『生憎、そういったことに縁がないもので』
子供が粋がって言っているとは違う。本当にそうあったような顔をしていた。まだ、未成年のはず、一体どんな境遇なのか知りたい。
グラウスは各国の冒険者ギルドに連絡するため、通信用魔道具が置かれた部屋に向かった。
次の日。
朝イチで冒険者ギルドでリツさんの登録を済ませた。職種は魔法使いだ。そのまま薬草摘みの為に冒険者ギルドの馬車に乗る。武器が解体用のナイフだけなのでちょっと心細いが、リツさんの気分転換もしないとね。森付近には近づかない前提での薬草摘みだ。リツさんに薬草の説明をすると、ポーション作りをしていたため理解は早かった。
「で、ルナちゃん。なんだったの? 副ギルドマスターさんのお話」
「ああ、そうでしたね」
薬草摘みの為にしゃがみこむと、マリ先輩が早速聞いてきた。
「あー、何て言うか、Jランクの登録書出されまして」
昨日のグラウスさんとの話を、マリ先輩に説明。
「保証人が副ギルドマスター? それってすごいことじゃない」
「そうでしょうか?」
「そうよ、ねえローズ」
「はい、マリ様」
マリ先輩に聞かれ、ローズさんも同意する。
「はあ、そうですかね? トラブル防止だと思いますけど」
「何言っているの? ルナちゃんは優秀だからよ。当たり前じゃない。当然よ」
マリ先輩は自信満々。私の事なんですよ。
「ルナさんはそんなに優秀なんですね」
リツさんが尊敬の眼差しで私を見つめてくる。う、かわいいリツさんの純粋な目で、ま、まぶしい。
「そうよ、私達の中で最高戦闘力だもん」
えっへん、と胸を張るマリ先輩。私よりボリュームがある胸。くう、羨ましいが、かわいいなあマリ先輩。
「それは、レベルが高いって事ですかね?」
「うん、そう。これ世界にはレベルがあって、数値が高ければ強いって事なの。スキルレベルは訓練でも上がるけど、本人のレベルは対戦とかしないと上がりにくいの」
「成る程、流石異世界、ファンタジーですね。私レベル1ですが、私の年でこれは低いんですかね?」
低いよ。基本的に真面目に生活していれば、それでもレベルが上がるが、それで上がってもせいぜい15位だ。しかし、今のリツさんはレベル1、小さな子供のレベルだ。
「やっぱり低いんですね」
「これからよリツちゃん、頑張りましょう。で、ルナちゃん、Jランク受けるでしょ? 身分証代わりになるし」
「はあ」
何か裏がありそうで、私は気乗りしない。確かに身分証は魅惑だが。
「Jランクはいろいろ縛りがありますよ。迷惑になるかも」
「そんなの、ルナちゃんが成人するまででしょ? 大丈夫よ、気にしないで」
そうマリ先輩が言ってはくれるが、私は踏ん切りがつかない。
煮え切らない私の態度に、マリ先輩はぷりぷりする。
「もう、何を悩んでいるの、ルナちゃんらしくない。あ、そうだ、昨日ルナちゃん、何かお返したいって言ってたよね」
あ、言ったね、確かに。
「なら、Jランク受けて。ルナちゃんが成人した時にFランクになっててね」
そう来ましたか。確かにいつも美味しい食事やお菓子、紅茶をいただいているしなあ。うーん、どうしよう、マリ先輩で期待の眼差しが痛いなあ。これからの食事を考えると、これは受けた方がよさそうだ。
「分かりました、Jランク受けます」
「やった。じゃあ帰ったらすぐ登録ね」
「え、今日?」
「そうよ、善は急げよ」
テンションの上がってるマリ先輩、はい、了解です。
それからせっせと薬草摘みに勤しんだ。
「どうぞルナちゃん、昨日話したクラブサンドイッチよ」
「いただきます」
きたきた、何より楽しみなランチタイム。
食パンを焼いて具材が挟んでいるが、ボリュームがすごい。
葉野菜、レタスだね。あとトマト、あと何だろう、蒸した様な肉が薄く切って何層にも重なってる。あ、薄く焼いた目玉焼きまで、ソースも入ってる。分厚いなあ。食べごたえありそう。しかし、食パンを焼くなんて発想がすごいね。わざわざ柔らかい食パン焼くなんて。ローズさんが温かい紅茶を出してくれる。いつもすみません。
では。いただきます。
がぶっ
「ん~」
食パン焼くとこんなに香ばしいの? しゃきしゃきレタスもトマトも、何の肉か分からないけどこれ柔らかい、目玉焼きはまだ黄身に行き着かないが、ソースが合うのなんの。
よし、待ってろ目玉焼き。
がぶっ
くう、まだたどり着かない。
「ルナさん、ソース付いてますよ」
リツさんが私の口元はぬぐってかれる。
あ、クラブサンドイッチに夢中で気づかなかった。恥ずかしい。
「ありがとうございます、リツさん、って大丈夫ですか?」
私がお礼を言った瞬間、リツさんの瑠璃色の目からポロポロと涙が落ちる。マリ先輩も心配そうにこちらを見ている。
「あ、ごめんなさい。ちょっと甥っ子と姪っ子を思い出しちゃって」
涙を手で拭うリツさん。
ああ、向こうに残してきた、家族か。
「会えないって分かっているけど、どうしても思い出しちゃって。今頃どうしてるかなって」
なんでもリツさん自身は独身だが、兄夫婦の間に生まれた7才の甥っ子と、5才の姪っ子を可愛がっていたと。二人もリツさんを慕っていたし、兄夫婦とも良好な関係だった。リツさんの両親も元気だった。リツさんも充実した日々を送っていたが、一年前の巻き込まれ召喚だ。しかもはじめはあの姿にあの加護だ。やっと普通に生きられる。そう思えるようになってほっとしている所に、私が我を忘れて口元を汚していた姿に、可愛がっていた、甥っ子と姪っ子を重ねたようだ。
…7才児と5才児と同じなの? 私?
「でも、くよくよしてても始まらない。せっかく若返って、前より可愛い顔になったし。異世界だし、これから少しでも楽しく生きないとね」
「そうよ、リツちゃん。私達がいるわ、大丈夫よ」
「ありがとうマリさん」
可愛い二人が手にてを取ってる。わぁ、お花がぱぁっと咲き誇る。
まあ、リツさんがいいならいいか。
私は再びクラブサンドイッチにかぶりつく。あ、黄身にやっとたどり着いた。うーん、美味しい。
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