二人のフレデリック④
女傑
「え、帰国を延期?」
野営の後片付けをしていたら、マリ先輩の携帯電話がなる。
どうやら、父からのようで、代わるとこれだ。
『すまないルナ、すまない』
話を聞いたら、私はため息が出る。
『とにかく、ウェルダン領の春祭りまで、お前は帰って来ないことになったから』
「分かりましたお父様」
『詳しい事が決まったら、また連絡するが。その、あの、アルフレッド、君? には、出てもらわないといけなくてね』
なぜ、疑問系。
「はあ、お願いしますので」
私は携帯電話をマリ先輩に返す。
「ルナちゃん、どうしたの?」
リツさんが心配そうに聞いてきた。
「トラブルです、はあ、なんでこんなことに」
私は頭を抱える。
結局、片付けて、馬車の中で話すことに。
まず、私に失礼な獣人に求められたことから始まると、いろいろ何かが溢れ出す。
「なんて失礼なの」
「かわいいルナちゃんを渡すものですか。クレイハートの全力を持って阻止するわ」
リツさんとマリ先輩が怖い。ローズさんまで、殺気立つし。
アーサーも厳しい顔だし、サーシャも分かりにくいが耳ピクピク、怒っているんだよね。あれ、どんな仕組みなんだろう? アーシャもミーシャもぷりぷりしてる。
「ルナっち、先に進んで、アルフが怖い怖い」
リーフが話を促す。
アルフさん、うん、すごい笑顔だ。
「それで、ウェルダンの大奥様がバックに着いてくれたから、それから要求はなかったそうです。向こうも、従者の方が丁寧にお詫びに来たみたいだし。ただ、昨日のウェルダンの夜会で」
例の獣人がまた突っかかって来たそうだ。
内容を簡単にすると、バックに着いたウェルダン領の伝統に従い、私をかけて決闘を申し込んできたと。
「決闘? 今時?」
リーフが声を上げる。
「ウェルダン領でね、昔、領主を巡って女騎士が決闘したのが始まりで」
「逆でしょ普通」
リーフの突っ込み。
「ウェルダンは昔から強固な騎士団で守られていますからね。特に女騎士団は、オークも武器を捨てて逃げ出す程です」
ローズさんが説明。
「どんな女傑の集まりだよ」
「私にも、スカウト来てた」
流石ルナっち、と親指立てるリーフ。
「今では、ウェルダンの春祭りの名物です。もちろん殺傷不可。あちこちの騎士団が参加し、かけるのは、騎士団のプライドです」
ローズさんが追加説明。
「子供の部もある」
「ルナっち、優勝したりした?」
「12の時にね」
「流石ルナっち」
ぐ、と親指リーフ。
話を戻そう。
「父はそんなことに私をかけられないって、断ってそうです。でも、なんかいろいろあって売り言葉に買い言葉で、その、私がアルフさんに、その、アルフさんを連れて帰ることがばれて、なら、アルフさんにその」
「分かった、儂がその『決闘』に出ればいいんだな」
「すみません………」
本当に申し訳ない。
「心配するな、きちんとぶん殴ってやるからな」
いい笑顔のアルフさん。
「しかしルミナス様、確かウェルダンの春祭りの決闘は、団体戦でしたよね?」
「そう、今、何人制か決めているって。とりあえずアルフさんは出てくれるし、私も入れて」
「「「「「何を言ってるの?」」」」」
異口同音。
「ルナちゃんをかけてでしょうが」
「綺麗な格好で並んでないと」
「衣装の準備をいたしましょう」
「春祭りだから、薄い色だよね」
錬金術チームとリーフが何か考え出す。やめて、恥ずかしい事になる。
「あの、ルナさん。団体戦ならあと何人かいるって事ですよね?」
「ええ、そうよ。ウェルダン領の騎士を貸してくれるって」
「あの、自分も、お手伝いできないですかね? ルナさんにはお世話になっているし。奴隷はダメですかね?」
「アーサー、ありがとう気持ちだけでも十分だよ」
申し出が嬉しい。
「でも、ルナちゃんは私達がパーティーメンバーよね? 私達からメンバー出してはダメなのかしら?」
リツさんまで。
「ルイースお婆様が許してくれるなら、大丈夫ですけど。形式上、お婆様が私のバックに着いてくているから、ウェルダンの騎士を出さないといけないかも」
「そうですか……」
しゅん、とするアーサー。戦場なら騎士の隣で戦うことは出来るが、試合形式では基本奴隷は出場できない。
しばらく続いた錬金術チームの白熱した会議を終わらせて、出発する。
「ルナ、大丈夫だ、儂は負けん」
「はい」
窓の外を見ていると、アルフさんが声をかけてきてくれた。
心配はしてないけど、不安だ。
昼過ぎにマリ先輩の携帯電話から連絡がある。
「5体5ですね。はい、分かりました。あのメンバーって、アルフさん以外は」
『ウェルダン領の騎士になるだろうね』
「そうですか。あの、今所属しているパーティーメンバーが、出場してくれると」
マリ先輩、サーシャ、ミーシャ、リーフも自身を指している。あはは、マリ先輩は絶対にダメよ。ミーシャは論外よ。
『まあ、そうだね。おば様が許してくれるなら。出場メンバーは直前までに決めればいいはずだから。とにかく、お前は春祭り頃に帰ることになっているから。下手に帰って来たら狙われそうで怖いんだ。あの獣人、何かに迫られるようにお前を欲しているからな』
「はい、分かりましたお父様」
『それと、その、アルフレッド、君? いるかな? ちょっと、話したいかな? あ、いないならいいけど』
なぜ、疑問系なのよ。
「いますよ」
『くうっ、代わってもらえるかい?』
なぜ、悔しがる。
「あの、アルフさん、父がお話したいと」
「そうか、やっと挨拶が出来るな」
携帯電話を渡す。
「初めまして、鍛治師アルフレッドです。このような形での挨拶、お許しください。はい、そうです。そうです。え、あの、その、あ、どうされました?」
なんだなんだ?
「ああ、コードウェル夫人、今、打撃音がしましたが。いえ、問題ありません。誰が立ち塞がろうと、すべて粉砕致します。はい、はい。お任せください。はい。ルナ、代わってくれと」
「はい? あ、お母様?」
『ルナ、帰るのが先になったけど、待っているからね』
「お母様、お父様は?」
『けつまづいたのよ。でも、アルフレッド様って頼りになる方ね』
母の言葉が嬉しくて。
「はい、とても」
『………ふふ、あなたがそんな声を出すなんて。よほどアルフレッド様が好きなのね』
ぼわっ、と頭に血が昇る。
「あの、お母様、その」
『ふふ、あなたの帰りを待っているからね』
『ジェシカも話したいッ』
『はいはい、ルナ、いい?』
『ねえ様ッ、いつお婿さん連れて帰って来るのッ』
私は吹き出した。
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