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二人のフレデリック③

嫌だい

 ルミナスは六才になった時に、自分に聞いてきた。何十年も前の、バーナード王子の凶行だ。今でも色褪せず、語り継がれている凶行だ。

「守ろうとした若い牧師に、年老いたシスター。幼い孤児達、まだ、乳飲み子もいたそうだよ。ひどい話だよね」

 それを聞いて、ルミナスは発狂したように叫んび、気絶した。ルミナスが変わった日だ。

 あれからルミナスは何かに怯え、笑わず、迫られているように木刀を振り、家族と一線を引いた。だが、ルミナスはジェシカを身籠っていた母フェガリの手伝いを必死にしていた。弟のエリックの面倒もだ。周りの皆はこういう、ルミナスはお手伝いを率先してするいい子だと。

 違う、違う、違う。まるで、何かに怯えているルミナス。心配で堪らない。

「だから、それがなんだ?」

 病床に伏せていた父エルランドが、にべもなく言う。

「ルミナスは宝、そう言っていたのはお前であろう? 違うか?」

「いいえ、お父様」

「なら、愛してあげなさい。そうすれば、きっとルミナスも答えてくれる。それまで、ただ、じっと待てばいい。お前達がルミナスが振り返った時に、両手を広げて、待っていてあげなさい」

 それから、エルランドの病床は停滞した。ウェルダン領から届く薬のおかげだった。

 末娘のジェシカが誕生後、ルミナスはジェシカをそれは可愛がった。背中に背負い。あやし、オムツを変える。皆が言う、ルミナスはいいお姉ちゃんだと。そう思う。ジェシカをあやしたルミナスの笑顔は、これが、ルミナスの本当の笑顔だと。それから、ルミナスは更にわがままも言わない、欲しがらない、出る言葉は、

「私はいりません。エリックとジェシカに」

 だけだ。

 ただ、一度だけ、欲しがったのは、剣だ。

「お父様、これが欲しいです」

「え、これかい?」

「はい」

 普通。お菓子とか、きれいな服とかじゃないのかな? と、思ったが、結局買ってやると、ルミナスは嬉しそうに笑った。ああ、買ってやって良かっと思った。その後、その剣は初代と名付けられることになる。

 それから、たまに角ウサギを狩り、驚かせられた。けがをした時には、肝が冷えた。そんな生活で、ルミナスは学園も入学。入学2年で、秋の学園祭での武術の部で優勝した。異例だ、低学年の女学生なのに、ほかの貴族子息を打ち倒して。それから、学園で何かあり、ルミナスは姿を消した。数ヶ月後に、エリックも入学した。驚いたことに、エリックは授業料の寮費が免除されていた。ルミナスが武術大会での優勝した景品として望んだのは、エリックの学費と寮費の免除だった。

 なんて、できた娘だろう、と思った。

 だが、ルミナスはライドエルにはすでにいない。

 クレイハート伯爵様から伝えてもらえるわずかな情報に、一喜一憂していた。

 そんな生活の中で、時折送られてくる大金。一度大金貨が30枚に、引き付けを起こしそうになった。一体何をしているのだろう。

 やっと、やっと、携帯電話越しにルミナスの声を聞いた。ルミナスの抱えていた闇の深さに言葉が出なかった。だが、それが、なんだ。ルミナスは大事な娘、何が変わらない。ずいぶん話して、やっと言えた。

「帰っておいで、ルナ、みんなお前の帰りを待っているよ」

 それから、妻フェガリ、息子エリック、末娘ジェシカとも話をして、最後に出たのはこの言葉だ。

「会って欲しい人がいるんです」

 ……………………………………………

「何だって?」

 聞こえない。

「会って欲しい人がいるんです」

 聞こえない。頭が拒否。

 会って欲しい人? え、つまり、あれだよね、え、一年以上音信不通だったのに、何? 何が起きてるの? え? 会って欲しい人?

 え? ルミナスが男連れてくるの?

 混乱していると、フェガリに携帯電話を取られた。

「ええ、もちろんお会いするわ」

 ちょっと、待ってよ。

 ごねると、息子エリックが呆れ、フェガリに一発入れられる。

 嫌だい、嫌だい、ルミナスはまだお嫁に出さないッ。

「失礼ですがおいくつですの? まあ、そうですの。お仕事は鍛治師。まあ、付与もされるのですね。娘とはどこで? まあ、そうですの」

 フェガリが絶好調で聞いている。

 結局、最後はルミナスと話が出来なかった。

「ねえ、どんな人?」

 エリックが聞いている。

「名前はアルフレッド様。年はま40歳。感じのいい方よ。真面目な方。いいえ、ドワーフなら、きっと真面目な方ね。しっかり手に職があるから、ルミナスを養えるわ。付与もできるようですし。冒険者も兼務しているそうよ、なんとランクBですって。まだ、冒険者になって一年なのに、大した方。しかもあのバーミリアン様から、直々に帰国命令ですって」

「な、じゃあ、録な………」

「亡くなったアルフレッド様のお父様のお手紙が出てきて、それで帰国命令みたいよ。なんとアルフレッド様は神匠と呼ばれた鍛治師の方に師事していたって」

 神匠とは、ランクでは計れない程の腕を持つものに与えられる称号。マダルバカル以外にも、そう呼ばれるものはいるが、ごくごく少数だ。そんな人物に師事に、冒険者としてもランクが高いのに、なぜ遠いクリスタムに?

「じゃあ、なんでマダルバカルから出たんだ?」

「アルフレッド様、ドワーフだけどお酒が飲めないそうよ。他にもあるようだけど、この言葉を濁されたわ。とにかくあなた」

「はい」

「ルミナスは帰って来ます。お義父様の言葉、忘れてないですよね」

 フェガリの顔見て、絶対にルミナスはフェガリに似たんだと思った。

「も、もちろんだよ」

 両手を広げて、待っていてあげなさい。忘れていない。

「アルフレッド様の要件が先です? お分かりですよね? 亡くなった方からの手紙。そして、あの西大陸三勇のバーミリアン様からの帰国命令」

 貧乏男爵がどう逆立ちしても、敵わない人物だ。

 それにここでごねて、ルミナスに嫌われるのは、絶対に避けなくては。

「分かったよ。そのアルフレッドと言うのの、帰国か先だな」

 ぶすう、と言う。

 エリックが大人げない、と呟く。

 だが、分かってくれた人もいる。フレデリック・クレイハートだ。

「お気持ち痛いほど分かりますよ」

 そう言って、がっしり手を取り合った。

 クレイハート夫人のマーガレット様は、少し呆れている。

 どちらにしても、ルミナスが帰って来る。それだけでいい。そのドワーフは、まあ、考えないようにしよう。

 だが、次の日の夜会で、予想外な事が起きることとなる。

読んでいただきありがとうございます

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