年末③
アルフぅぅッ
私はアルフさんと冒険者ギルドに向かう。マダルバガラの冒険者ギルドの連絡用の魔道具と繋がっていて、まだ、そのままだと。シェラさんが来たのは、そのためだ。一国の王子からの帰国命令だ。ギルドマスターが出てくる。
「あの、アルフさん、バーミリアン様って、あのバーミリアン様ですか?」
そう聞きたいが、アルフさんの横顔を見て、飲み込む。少し思い詰めたというか、混乱しているような顔だ。
冒険者ギルドの一室に通される。
大きな水晶がある。クレイハートの魔道具だ。
「アルフレッド、この水晶に向かって話して。くぐもって聞こえるから、はっきり、しゃべって」
「分かった」
アルフさんは水晶の前に座る。
「いいよ」
「ああ、アルフレッドだ」
少し緊張して話しをしている。
『アルフかあぁぁッ』
声、でかい。
「ガガンの兄貴か?」
『アルフかあぁぁ。久しぶりだなあぁぁ』
『儂もおるぞうぅぅッ』
「ザザンの兄貴か?」
また、でかい声だ。だけど似てるから、どっちがどっちか分からない。アルフさんには分かるみたい。アルフさんの兄弟子さんよね。見えないだろうけど、きちんと立ってよう。
「ああ、久しぶりだな」
アルフさんの顔が、優しく綻ぶ。
『すまんなあ、アルフぅぅ、今回の事、儂らではどうにもならんかったぁぁ』
「いや、迷惑をかけた。一体殿下はなぜ儂に帰国命令など」
『それがなあぁぁ。親父が殿下宛に手紙を出しとったようなんだがぁぁ、誰かが隠しておってなあぁぁ』
響くでかい声。
内容はこうだ。
アルフさんの養父で師匠でもエディロールさんの手紙が、王宮で見つかった。たまたま年末の大掃除の最中にぽろっと出てきたそうだ。誰かが隠していたのだろうが、それは分からなかった。
手紙は無事に王子に渡ったその日に、アルフさんの兄弟子ガガンさんとザザンさんが呼び出された。
『多分、手紙の中に、お前の事が書いてあるはじゃぁぁぁ、だがなあ、王子は儂らに教えてくれんのじゃぁぁぁ、お前の居場所を教えろの一点張りでなあぁぁぁ』
兄弟子さんの2人はかなり抵抗したそうだ。トウラで安定した生活をしているアルフさんを、今さら帰国させられないと。うん、仲間意識高い、ドワーフらしい。兄弟子さん達は、アルフさんを守ろうとしてくれたんだ。
で、結局、王子直々に帰国命令が下り、兄弟子さん達は仕方なく従ったが、条件をつけたそうだ。
アルフさんに連絡は兄弟子さん達がつけることになり。費用は国に負担すること、帰国の時期はアルフさんの都合に合わせる。その帰国費用は、国が負担することに。
『手紙の内容は多分なぁぁ、お前がどこも受け入れて貰えんかった時の為の処遇だと思うんじぁぁぁ、お前は魔法スキルがあるから引き立てて貰おうとしたんじゃないかと思うんじぁぁぁ』
なるほど。だけど、今頃? 手紙が見つかったからって、他所の国で安定した生活をしているアルフさんに帰国命令って。そもそも、アルフさんが国を出る理由って、アルフさんのせいじゃないのに。たまに騎士団の遠征に引っ張り出しといて、行き場のないアルフさんを、そのままにしておいて。
「分かった、とにかく一度帰国する」
『そうかぁぁ、すまんなあアルフぅぅ。だが、久しぶりにお前に会えるのは嬉しいぞうぅぅ』
「儂もだ。それからな、儂、目が治ってな。片目ではないから、驚かんでくれ」
『なんとぉぉ、そうか良かったなぁぁぁ』
「それとな、兄貴達に会わせたい娘がおる」
あ、急に緊張してきた。しゃべる訳じゃないのに、緊張してきた。
だけど、向かうから、返事がない。まさか、時間切れじゃないよね?
「兄貴?」
『『どんな娘じゃぁぁぁぁぁぁぁッ』』
声、でかいって。
『ドワーフかぁぁッ』
『いくつじゃぁぁぁッ』
『どこまでいっとるぅぅッ』
『安産型かぁぁぁッ』
「これ、どうしたら切れる?」
アルフさんがシェラさんに聞いてる。
何だろう、顔が赤くなってきた。
『待て待てアルフぅぅッ』
『とにかくぅぅ、めでたいなぁぁ』
『アルフやぁぁ、親父やお袋がいたらぁぁ、どれだけ喜んだろうなあぁぁ』
『お前と一緒に来るのかぁぁ?』
アルフさんはちらっと振り返る。赤いままの私は小さく頷く。
「ああ、一緒に行く」
『そうかぁぁ。嬉しいぞうぅぅ、名前くらい教えてくれんかぁぁぁ?』
振り返るアルフさん。頷く私。
「あの、挨拶した方がいいですかね?」
「いいか? 兄貴、挨拶したいそうだ」
『『そこにおるのかぁぁぁぁッ』』
声、でかいって。魔道具越しなのに、アルフさんの前髪がひらひらしてる。ちょっと引く私。
「切るぞ」
『『すまんアルフぅぅッ』』
「はあ、いいかルナ」
「はい」
うわあ、緊張する。
「初めまして、ルミナス・コードウェルと申します」
これでいいかな?
『………うん、めんこい感じじゃぁぁ』
『若い感じじゃなあぁぁ、お嬢さんやぁぁ、アルフのどこが好きじぁぁ?』
ダイレクトッ
「え、えっと、ぜ、全部………」
ちょっと混乱してぽろり、と思わず言ってしまって。私は、はた、と恥ずかしくなる。
アルフさんの全部、優しい所とか、強い所とか、鍛治がすごい所とか、すごく優しい所とか、いつも優しく包んでくれる所とか、なんかいろいろいろいろ。視界の端で、アルフさんがちょっと赤い顔で、はにかんでいる。
『『そうかぁぁぁ』』
でかいけど、底抜けに優しい声。
『アルフやぁぁぁ』
『いい娘だなぁぁぁ』
『会えるのが楽しみだなあぁぁぁ』
『儂らはアルフと兄弟子のガガンとザザンじぁぁぁ、会える日を楽しみにしておるぞうぅぅ、お嬢さん、歓迎するぞうぅぅ』
あ、なんだか嬉しい。
「はい、ありがとうございます」
私は嬉しくて、嬉しくて、優しくて。
「兄貴、とにかく帰るが、今から移動が厳しいから時期を見て移動する」
『分かったぞうぅぅ、待っとるぞぅぅ』
こうして、通信は切れた。
読んでいただきありがとうございます




