ドレスアップ②
談笑
父は、いつも自領の管理で忙しくしていた。
私は古い書斎に籠っている父に、お茶を運んだ。ターニャ特製のブレンドティーだ。母はターニャと共に裁縫している。たまに呼ばれて断れない夜会に着ていく、父と母の衣装をリメイクしていた。エリックは勉強して、ジェシカはお昼寝、マイクは庭仕事をしていた。
「お父様、お茶です」
「ああ、ありがとう、ルナ」
私が危なっかしい手つきでお茶を出すと、父が優しい顔で見ている。
「ふふ、いつもそうやってくれると、嬉しいんだけどなあ」
「何でです?」
「毎日、木刀振り回しているのを、知らないと?」
「うっ」
私は詰まる。
「別にするなとは言わないよ。護身用や嗜みとしてする分はいいさ。だけど」
父は私の手を取る。
「こんなに胝作って、いいかい、お前は女の子なんだよ」
「……はい、お父様」
優しい父、優しい母、優しい弟と妹。
優しい家族。私の大好きな家族。
「ルナちゃん、ルナちゃん、着いたわよ」
マリ先輩の声で目を覚ます。
「あ、はい」
短い間に寝てしまった。
懐かしいコードウェルの家だ。
皆、元気かな。
私は軽く頭を振る。
馬車が止まり、ドアが開く。
ぞろぞろと降りる。
堅牢な屋敷だ。
執事さんに案内されて続く。シェラさんを先頭に続く。
「メエメエ~」
ノゾミが絶好調だ。マリ先輩が、しっ、と言ってる。
「こちらでございます」
執事さんが一枚のドアの前で止まる。
うん、ちょっと緊張してきた。
「自分、入ってもいいんですかね?」
アーサーが心配しているけど、ここまで来て何も言われなかったから大丈夫じゃない。
「大丈夫よ、アーサー、礼の方は?」
「は、はい、大丈夫かと」
ちょっと自信なさそう。
一応、私とリーフで指導で騎士の礼を練習したアーサーとサーシャ。
「トウラ辺境伯様、ご案内いたしました」
『通せ』
「はい。皆様、どうぞ」
執事さんが合図して、控えていた騎士がドアを開ける。
シェラさんが、目で合図。
本日のシェラさんは、白いブラウスにロングスカートだ。なんだか、貴族の家庭教師みたいだ。
広間の奥は一段高く、三人の男性。うわあ、武人って感じだあ。
一礼して、す、と進むシェラさんに続く。カーテシーをするシェラさん。私達も続いてそれぞれ礼の姿勢。私はカーテシーです。ショウもノゾミもお座りの姿勢。
「久しいなシェラ、相変わらず美しい」
「お戯れを」
真ん中の人、うん、品のいい軍服みたいなスーツを来た人が多分、トウラ辺境伯様かな。がっちりとして、まさに武人のような人だ。左右の人は、騎士の偉い人かな。
「『ハーベの光』『紅の波』『ラピスラズリ・リリィ』でございます」
『ハーベの光』はマルコフさんが、『紅の人』はフレナさん、『ラピスラズリ・リリィ』はリツさんが一番前だ。
「今回の働きを含め、ゴブリンの巣、奴隷狩り壊滅、オークの巣の掃討、そなた達のおかげで、救われる民も多かろう。感謝するぞ」
おお、潔い人だね。普通はダラダラ話すのに。
「堅苦しい挨拶はこれでいいか?」
ちらっと、右の騎士を見るトウラ辺境伯様。肩を竦める騎士さん。
壇上からトウラ辺境伯様が降り、シェラさんの手を取る。
「私はこういった堅苦しいのは苦手でな。奥に茶の準備をしてある。そなた達に会いたいと、ミュートから来ておるぞ」
「お久し振りです。皆さん」
ヴェルサスさん達が、それぞれカチッとした格好でいた。ビルツさんにゴーディさん、ヨゼフさんに、ネエラさんもいる。
「アルフレッドさん、皆さん、お久し振りです」
ビルツさんがにこやかに挨拶してきた。
私達もご挨拶。
「いやあ、こんなに美しいお嬢さん達が冒険者とは信じがたいですなあ」
辺境伯様の左にいた人がフレナさん達に話しかけてる。誰だろう?
「ミュートの騎士隊の総隊長のフリオル殿だ」
アルフさんが教えてくれる。
トウラ辺境伯様は、シェラさんと談笑している。どういった関係なの? その後ろで呆れた顔の右の騎士さん。
「ビルツさん、あの辺境伯様の後ろの人は?」
「あの方はトウラの騎士総隊長のエクエス様です。冒険者ギルドマスターシェラさんの弟様です」
へー。
「気になります?」
「ものすごく」
「僕もですよ」
知らんのかい。
仕方ない、振る舞われるお茶を頂こう。ずー。
「メエメエ~」
ノゾミもゴーディさんに撫で撫でされてご満悦。ショウはひなたぼっこしてる。
「でも、今日の皆さんいつもと感じが違いますね。ルミナスさん、本物のお嬢様みたいですね」
「服がいいだけですよ。ビルツさんもいつもと違いますよ」
「はは、一張羅を引っ張り出してきました。慣れません。鎧の方がいいです」
ビルツさんは頬をかく。
「アーサー君もよく似合ってるよ。どこかの貴族の子息みたいだ」
「あ、ありがとうございます。でも、自分がここにいていいのか」
「何を言ってるんだい? 奴隷狩りの時も、オークの巣の時も大活躍だったじゃないか。本当に奴隷じゃなかったら、同じ隊に入ってほしいよ」
照れるアーサー。
和やかに話がすすみ、ビルツさんから、例の野良ダンジョンの話を聞く。
「本当に装備に助けられたよ。ヴェルサス隊長とマルコフさんがもう凄くてね」
ビルツさんがやや興奮して教えてくれる。
「僕の鎧も皆から羨ましいって言われるんですよ。ああ、予算と都合がつけば、アルフレッドさんに剣もお願いしたいですよ」
アルフさんは相変わらず人気のようだが、いろいろ諸事情で、指名依頼を制限している。理由はアルフさんの鍛治師のランクだ。未だにCランクから上がっていない。わざと上げていないのだ。トウラ所属になればトントン拍子とランクは上がるらしいが、冒険者と兼務もしているために、アルフさんはランクを上げない。鍛治師ギルドもそうだが、ランクでできる、または受けられる仕事が変わる。ランクを上げたら、指名依頼が増加するため、アルフさんはランクを上げずにいる。バルハさんから、所属するように言われているらしい。
「アルフさん、工房を持つ気はないんですかね?」
マルコフさん、ヴェルサスさん、エクエス様と談笑しているアルフさん。
「さあ、自分には工房の維持は向いていないって、言ってました」
「そうですかあ。経営の人員がいれば、ミュートでも工房が持てませんかね? いっそ、騎士団所属になってくれれば」
「アルフさんは、うちのタンクですよ。最高戦力なんですから」
武器、装備品関連の管理に、戦闘スキルに関しては最高数値を持っている。ダメですよ。
「はは、やっぱりダメですよね」
「そうですよ。鍛治師ギルドの皆さんだって手放しませんよ」
「ですよね~」
私達も談笑した。
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