奪還④
「メエメエ~」
ノゾミに続く冒険者一団。
端から見たら異常だろうけど、構っていられない。
匂いをくんくんしながら進むノゾミ。途中で屋敷前で待機していたキャリーやエレ、空を駆けていたショウも合流する。
気配関知を全開にして進む。
ノゾミはどんどん路地裏に進む。崩れかけの木箱を押し退けて、今にも外れそうな木製のドアを開けると、何もない空き家だ。
「メエメエ~」
ノゾミが壁の前で可愛く鳴く。
「ノゾミ、ここに何かあるの?」
「メエメエ~」
「よし、アーサー、闇を展開しろ。サーシャ、仕掛けが有るかもしれん」
「「はい」」
「あ、僕もやる」
罠感知のあるサーシャ、そしてバーンが周囲を調べる。
アーサーは籠手から薙刀を出す。
「闇よ、敵の腸の見よ、我に伝えよ」
闇魔法の罠感知と同等の魔法。
「侵入」
コツン、と着いた地面から闇がするすると触手を伸ばし、壁の僅かな隙間に入り込む。
「これが、侵入か、始めてみた」
マルコフさんが感心した声を上げる。
しばらくして、三人が顔を上げる。
「隠し扉だと思う」
「僕も同感。どこかに開けるからくりがあると思う」
「そこの右手の壁にあります。古い鎖みたいのに繋がってます」
「よくやった」
アルフさんは、アーサーの示した壁をチェック、直ぐにレバーが見つかる。一旦全員外に出る。レバーに紐を着けて、アルフさんが引くと、小さな音と共に床が一部が移動。ノゾミが教えてくれた場所だ。
「気配関知、索敵のあるやつは全開にしろ」
「分かった、しかし、これは地下闘技場への隠し通路じゃないか?」
なにそれ?
「昔な、違法な賭博場があって、それを当時の騎士団と冒険者達で摘発したんだ。今は有事の際の住人の避難所になってる」
そして月に一度のメンテナンス以外は閉鎖されていると。
うわあ、隠れ家にうってつけ。
「ララ、キャリー、冒険者ギルドに言って報告してちょうだい」
「ちょっと待った」
フレナさんに待ったをかけるサーシャ。
「話し声が聞こえる」
ああ、さすが優れた聴覚を持つ。サーシャは空いた穴の前に座り、しばらくピクピク耳をさせている。
「アンナとクララの泣き声が聞こえる。他にも女、まだ、子供が複数。後は男が複数、いや多数。西口に馬車を待たせているみたいです。それで朝イチに街を出ると」
「西口か」
ここは何口だろう。
てか、女の子ってまさか、行方が分からない子達までいるんじゃないよね。
「確か、当時の冒険者達の指揮を取ったのはギルドマスターのシェラさんのはずだ」
マルコフさんが思い出したように言う。
「ならその事を伝えて」
フレナさんがキャリーとララに指示。駆けていく二人。
「さて、儂らは、アンナとクララ達の奪還だ」
アルフさんはフル装備。みんなそうだ。
念のため、リツさんとマリ先輩、ローズさん、サリナ、イレイサーが入口で残る。
「行くぞ。奴等に朝日なんぞ拝めんことを叩き込むぞ」
分かってますよ。
私は二代目を確認。
ホリィさん、待っててね。
必ず連れて帰るからね。
アンナ、クララ、待っててね。
今、助けに行くからね。
マルコフさんの簡単な説明を聞く。
地下闘技場は円形で、いくつも通路があり、牢屋がある。
トウラの非常用避難所だ。メンテナンス以外にも、半年に一回は街の顔役や、ブロック毎の代表者が見学、確認しているし、子供は必ず訪れる事が義務づけされている。トウラ生まれのマルコフさん、フレナさん、バーンにバラック、イレイサーは来たことがある。因みにエレはミーナ出身。
「恐らく隠し通路のはずだ。入口は各ブロックの顔役が管理しているからな」
「そうか、アンナ達が捕らえられておる場所の検討はつくか?」
「確か、非常時の武器庫があったはず。今は空のはずだが、檻だった」
サーシャとバーンが先頭で進む。
通路の出口で止まる二人。
身を低く、手で合図。
覗くと、円形のすり鉢状の闘技場だ。周りをぐるりと囲む石の観客席。あ、ボックス席あり。身なり汚い男達があちこちでたむろしている。薄暗い中で、小さな明かりに浮かび上がる姿。
「サーシャ、アンナ達の声は?」
アルフさんが聞くと、サーシャの指先は二人見張りらしき男が通路の入口に座っている。
「武器庫へ続いている」
マルコフさんが小声でいう。
「アーサー」
「はい」
「お前の闇魔法が頼りだ。あの二人を眠らせろ」
「了解しました」
まだ、アンナやクララは向こうの手の中だ、とにかく救出が最優先だ。まず、知られずに助けだす。盾にされたらもとも子もない。
アーサーは胸元に手を置く。アーサーのおばあさんの形見の指輪の力を借りて、魔法を発動。
「闇を、奪え意識を、引きずり込め、奈落の夜へ」
続いて時空間魔法発動。
「スリープ、リード」
薙刀の穂先がぶれたように見えた瞬間、瞼が落ちる男。うわあ、大したことない。これは魔力がそこそこ高かったり、緊張状態にはあまり効かないのだ。ただ、座っていただけなんだろう。もちろんアーサーは魔法の精度が高いこともあるだろうけど。
「よし、よくやった」
アルフさんに言われ、ほっとしているアーサー。
「すごいよアーサー君」
「本当ね、フリーだったら勧誘したいわ」
「後でお姉さんとお話しない」
「やめてくれ、うちのバランサーだ」
バーン、フレナさん、エレに突っ込むアルフさん。
「さて、ショウはここにいろ、フレナ退路確保頼めるか?」
「いいや、私達が行くよ。捕らえられている子の中に孤児院の子がいるかも知れないし。こういった場合は、女の私達が必要だからね」
「なら、マルコフさん、退路確保を」
「任せておけ」
私達は身を低くして、移動する。薄暗くて助かる。
眠りこけている二人をすり抜け、通路の奥へ。
「お母さん、お母さんッ」
「うわあぁぁん、リツ様ぁぁ」
アルフとクララの泣き声。
このやろう、二人を泣かせやがって。
男が二人、一人は向こうを向き、考え事。
アルフさんがそっと近づいて、もう一人の首を絞めて気絶させる。
「朝日なんぞ拝めると思うなよ」
向こうを向いていた男が振り返り、アルフさんの拳が容赦なく顔面にめり込んだ。
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