奪還③
短いです
「お母さん、お母さんッ」
「うわああぁぁぁん、リツ様ぁぁぁ」
泣きじゃくる幼い子供二人。
かび臭い地下室に、何人もの若い娘達が足に枷をつけられて、壁に繋がれている。
「うるせいぞ、ガキを、誰か黙らせろッ」
イライラした男が檻の鉄格子を蹴り、更に泣き声が上がる。
ホリィの元夫を引き込んだ男は、人拐い集団、闇ギルドの頭だ、つい最近なったばかりだ。
もともとワイバックを中心にやっていたが、ワイバックが分裂。その際に行政の介入が入り、闇ギルドは壊滅状態。構成員のほとんどは捕らえられて、犯罪奴隷となった。僅かに残った構成員をかき集めて逃げたのはミュートだ。そこで、今回のようなことをしようとしたが、地理的に無理だった。新しい街で人口増加に住居が追い付かず、拠点となる場所が見つけられず、恐喝やスリ、窃盗を繰り返すと、あっという間に目をつけられ、現場を警戒していた騎士団に見つかり更に構成員が減った。
ミュートを統治しているのはトウラ辺境伯だが、そのトウラ辺境伯が民を思う人物であり、こういった輩に容赦ない人物でもある。それを知らない闇ギルド達、何時ものようにやってこの様だ。直ぐにミュートから逃げ出してた。その時に、うだつのあがらなそうな男を引き入れた、必要時に使い捨てにするためだ。そしてトウラに移動。民を思う辺境伯が納めるトウラに。
ただ、闇ギルド達には好機だった。以前トウラ出身のじいさんから聞いた、地下の闘技場の存在だ。これは、かつて奴隷や魔物を戦わせていた、ギャンブル場だった。しかし、先代のトウラ辺境伯が閉鎖した。当然命をかけたギャンブルなど、もとより違法だった、騎士団を投入し、元締めを始め多くの権力者を捕らえらた、大捕物だった。その闘技場は、今でもある。いざと言うときに市民を避難させる場所として、月に一度のメンテナンス以外は、誰も入れない様になっていた。
そう、メンテナンスが入れば、次のメンテナンスまで、誰も入らない。好都合な場所を手に入れた。そして、使い捨てとして連れてきた男だ。娘が奴隷となって、豪邸に入って行ったと。
チャンスだ。
すでに資金などほとんどない。
直ぐに金になるのは、窃盗や人身売買だ。
孤児や低階層の若い娘を、裏で売れば金になる。簡単に金になる。トウラ出身のじいさんの話を元に、何とか販売ルートが手に入った。向こうは喜んだ、最近、取り締まりが厳しくなかなか若い娘が手に入らないと。そこで10才以下の幼い子供の需要があることを聞いた。
トウラ辺境伯が納めていても、ホリィの元夫のような連中ははいて捨てるほどいる。そして、貧しさで違法と分かっていても、未成年の子供を売る親は少なくない。まだ、トウラは厳しく取り締まっているほうだ。
闇ギルドの頭は直ぐに男の娘達を売り払うことを決意。買い主を調べてたが、若い女性と言うことしか分からず。ただ、その周囲を固める人物だけが異常に浮かび上がる。
鍛治師なのに、短期間でBランクの冒険者になり、トウラ最高ランクの冒険者と懇意にしている大男。
天地の王者と呼ばれるグリフォン。
奴隷の癖に、身分不相応な鎧と槍を持ち、高い魔法スキルを持つ少年。
奴隷狩りの被害にあったが、縁があり身を寄せている銀狼少年は、種族特有能力が高い。
まだ、成人したばかりだが、高い剣術スキルで、すでに高ランクの美しい少女。
だが、美しい少女だ。
残りの少女達も粒ぞろいだ。
男はどうでもいいが、何とかこの粒ぞろいの少女達を手に入れられないか。
闇ギルドは、とにかく金がなかった。とにかく金がなかった。
まず、引き入れた男の娘達、そして、貧しそうな若い娘を適当に拐った。貧しい娘や孤児がいなくなるなんて、日常茶飯事だ。トウラでも、聞かない話ではないが、闇ギルド連中は少し焦り過ぎた。トウラの孤児院は辺境伯の意向が反映され、きちんと管理されていた。一人行方が分からなくなり大騒ぎになっていた。職人ギルド見習いも二人。低階層の若い娘も四人拐った。短期間でだ。そして特殊奴隷の少女二人。
民を思う辺境伯が動かない分けない。
闇ギルド連中は焦った。あと何人か、できれば粒ぞろいの少女達を手にいれたかった。だが、時間がない。
「おい、馬車の手配は?」
「一時間後に、西の出口に」
「よし、女を売って、明日の朝イチにはこの街を出るぞ。次のカラーラまで我慢しろ、そうすれば、好きなだけ女を買わせてやる」
今回の件は、まさに渡りに船だ。
構成員は減ったが、ミュートやトウラのごろつき、チンピラが数人仲間に引き入れた。捕らえた娘に手をだそうとしたので、仕方なく娘達は檻に入れて、鍵は自分が持っている。傷物とそうでないのでは、価格が変わる。少しでも資金が欲しいためだ。
騎士団が動き出している。見つかるのも時間の問題だが、仕方ない。
残念なのは、粒ぞろいの少女達だ。それに上手いことその豪邸に入れれば、宝飾品があるだろうが。
そんなことを考えていたが、鈍い音に顔を上げる。
足元で馬車の報告をさせた男が転がっている。
「明日の朝日なんぞ、拝めると思うな」
見上げるような男が、左右違う色の蔑んだ目で見下していた。
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