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奪還②

男?

 女房が子供を連れて姿を消した。一年前の話だ。ちょっとした仕事のトラブルが嫌で、仕事をやめてからけちが着いた。何をやっても上手くいかない。せっかく見つけた仕事も永続きしない。周りの目や言葉が嫌でも耳に入り、男の下らない誇りが傷ついた。

「女房の稼ぎで食わせてもらっている」

「子供の世話もしないくせに」

「すぐに仕事をやめる根性なし」

 イライライライラ。

 女房や、幼いながらも下の弟の面倒を見る、小さな姉妹には近所の住人は優しかった。ただ、昼間から博打や酒に手を出す自分には、辛辣だった。

 子供の世話や、家のことは、女の仕事だ。そんな事を言い返すと、更に冷やかな言葉が帰ってくる。

「そう言う事は、女房、子供を十分食わせるだけの稼ぎがあるやつが言うことだ」

 返す言葉がない。

 イライライライラ。

 怒鳴る回数が増え、手を出す回数が増える。

 やめてと訴える女房に、更にイライラした。

 蓄えが底を着いた時に、博打で知り合った男が囁いた。

「なら、女房を売ればいい。周りには子供を残して逃げたって言えばいい」

 その金で生活して、そのうち、上の娘が成人したら働かせたらいい。そう囁かれて、なんて簡単な事なんだろう、何故、そんな事に気が付かなかったのだろと思った。

 男は女房を売る手続きを簡単にしたが、その前に女房が子供達を連れて姿を消した。近所の住人の目が更に冷たくなった。何も男には話さないし、目も会わせない。二、三日待ったが帰って来ない。たまりかねて、女房が通っていた職人ギルドの副ギルドマスターは家に行ったが、副ギルドマスターは氷の様に冷たい目で、男に金貨の詰まった袋を投げて寄越した。

「これは手切れ金だ、二度とホリィと子供達に会えると思うな。このくずが」

 訳がわからず、聞いたが答えてくれない。

 男には理解出来なかった。女房は、あくまで夫のため、家のためにいるものだという考えが、どれだけ女房を追い詰めていたかなんて考えが及ばない。

 分からずに時が過ぎ、冷たい住人達が、井戸端会議で笑顔で話していた。

「ホリィさん、いい主人に買われたそうよ」

「子供達の条件も全部飲んでくれたそうだ」

「良かった、良かった。これで安心して、ホリィさんも生きていけるなあ。あんな録でもない男の側にいるより、奴隷として、いい主人の庇護下にいたほうがいいよなあ」

 女房が奴隷に。金貨を渡された時に感づいていたが。副ギルドマスターの家に匿われている可能性もあり、周りの冷たい目に晒されながら、男は観察を続けた結果がこれだ。

 女房が、夫の許可なく自身と子供達を奴隷としと売られる事を望んだ。これが、男には許せなかった。

 どれだけホリィが追い詰められていたかなんて、理解もせず。もし、自分を娼館に売った後、そのお金だって長くもつわけない。そうなれば、次に犠牲になるのは、長女のアンナだ。なんとかしたかったホリィが頼れるのは、家政婦として通っていた副ギルドマスターだった。副ギルドマスターは前からホリィがアザを作っていると、自分の妻から聞いていたため、考えた末に、トウラで辺境伯の信頼もあるティラ奴隷商会に手紙を書き、その日にホリィと子供達はティラ商会に移った。

 男はそんな事情を知るわけない。なんとか探したいが、そんな簡単に行くわけなく、時間が過ぎ、金が底を尽いた。そこに、女房を娼館に売れば、とアドバイスをくれた男が仕事に誘ってくれた。渡りに船だ。男は飛び付いた。なんの仕事か分からずに。

 言われるまま僅かな荷物を持ち馬車に乗った。行き先はクリスタム第三都市、トウラだった。


「アンナちゃん、クララちゃん、バイバーイ」

 トウラに到着してすぐに子供の声に、男は振り返った。まさか、単なる同じ名前かと思った。気になって探すといた。

 顔色がよく、身綺麗な格好をした娘がいた。自分がいるときには決して見せなかった笑顔を浮かべ、首には奴隷紋。未成年の場合は特殊奴隷だが、おそらく女房と一緒に買われた相手に与えてもらった服なんだろうと思った。連れ帰る、一瞬考えたが、奴隷の主人の許可なく連れ去るのは、自身が奴隷落ちになる。それだけは嫌だった。娘達はとんでもない屋敷に入って行った。ただ、女房の姿は見えなかった。

 ああ、女房がきっとこの屋敷の主人をたらしこんで、服を与えてもらったんだと直感。

 働く口の話を持って来た男に相談した。

「そんな豪邸か?」

「ああ、ガードマン・ガーディアンが2体もあった」

「そうか……分かった、調べてみるから、それまで向こうに接触するな。お前は顔を知られている下手に動くな、いいな?」

「? ああ、分かった」

 言われるがまま、ぼろい宿で待機すること3日。

「おい、お前の女房と子供の買い主が分かったぞ。だが、まず仕事だ」

「なんの仕事だ?」

「子供達を連れてこい。娘二人ともだ。その手の金持ちに高く売れるからな」

「な、何を言っているんだ? アンナとクララはすでに奴隷だぞ」

 そう言うと、今までよくしてくれた男の顔が豹変した。

「いまさらぐずぐず言うんじゃねえッ、文無しのてめえを世話してやってんだぞッ、とっとと連れてこいッ。今なら主人連中は遠出している。いいな、キズ一つつけるなよ、買い叩かれるからなッ」

 厄介なのは鍛治師と冒険者を兼務している大男とグリフォン。そして、頭角を表してきたホリィと同じ時期に買われた奴隷少年、銀狼の少年、若いのにランクの高い黒髪の少女。

 だが、後は若い女ばかり。

 奴隷の子供を探しているときには、見かけたと声をかけて連れ込んで捕らえられれば、金になる。

 そう、若く、美しい女。

 男は悟った。

 人拐いの連中だ。

 とんでもないやつらに目をつけられたと思ったが、逆にこうも思った。女房が悪い。勝手に出ていった女房が悪い。娼館におとなしく売られれば、こうはならなかった。そう、全部、女房が悪いのだ。自分は悪くない。その女房に着いていった子供達が悪い。

「アンナ、クララ、探したぞ。さあ、お父さんと一緒に帰ろう」

 そう言うと、娘二人は首を横に振った。

 しっかりとアンナとクララは手を繋ぎ、後ずさる。

 あからさまに拒絶の姿勢だ。

 イライラした。いつもなら怒鳴り、叩いて、引きずっていくが、キズ一つつけるなと、言われていたため、我慢した。

「そうか、なら、そこのお菓子を買ってあげよう。それから帰ればいい。ああ、ホリィには内緒にしような。明日この街を出るから、もう、会わないから」

 そう言った。そう言えば着いてくると、教えられて、そのまま言ったら、二人は着いてきた。簡単に。

 本当に菓子を買って、渡した時に、笑った二人に、何故か決心がぐらついた。

「よくやった」

 頭から袋を被せられた二人の悲鳴は、かき消された。

読んでいただきありがとうございます

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