奪還①
不明?
トウラに戻って来たのは更に5日後。雨に降られたりしたりして、スレイプニルのスウちゃんが走るのを拒否したのだ。
でも、この短期間で移動できたのはスウちゃんのお陰だしね。
「ナリミヤ先輩、いろいろありがとうございました」
「いやいや、僕もたくさん頂いたしね」
リツさんは、焙煎したコーヒーや板状にしたチョコレート、瓶詰めにした粒マスタードをナリミヤ氏に渡している。
「キムチが上手くいったらまた連絡します」
「ありがとうサイトウ君、ゴーレムのボディの事で分からないことがあったら、いつでも聞いてね」
「ありがとうございました」
ナリミヤ氏は爽やかな笑顔を残して去って行った。
さて、まず、冒険者ギルドと戻って来たことの報告に向かう。
ギルドに入ると何故か顔面蒼白のホリィさんがいた。回りには心配そうなフレナさん達『紅の波』がいる。
「リツ様ッ、リツ様ッ」
「どうしました?」
ホリィさんはリツ様の足元に崩れ落ちる。
なんだ、なんだか尋常じゃない感じだけど。
リツさんがホリィさんの前に膝をつき、肩に触れる。
「どうしましたホリィさん?」
もう一度聞くリツさん。
「娘が、アンナとクララが帰って来ないんです」
え、無料教室は午前中までよね?
「友達のお家に遊びに行ったとかは?」
「勝手に行かないように言ってあります。必ず私に言うように。教室に通う子供達の家には行っていなんです」
そうだね。クララはちょっと危なっかしいが、アンナは長女気質でしっかりしてるし。
「あちこち探したんですが、お屋敷にも戻って来ないし、それに」
ホリィさんが言葉に詰まる。
「途中まで一緒に帰っていたお友だちに聞いたら、知らないおじさんに声をかけられていて、二人とも戸惑っていたらしいんです」
二人とも知っているが、会ったら戸惑うおじさん。
まさか。
「もしかして、元旦那さん?」
「かも知れません。知らない人について行かないように言ってありますし。戸惑っていたのなら、尚更疑わしくて、でも、どこにいるか分からなくて」
ホリィさんはガタガタ震える。
「リツ様、リツ様、アンナとクララは私の宝物なんです。どうかどうか」
「リツさん、バラックが二人の顔を知っているから、今、最後に見かけた場所で探してくれているんだよ。すれ違ったらいけないからお屋敷前でエレとキャリーが待機してるから」
フレナさんが説明。バラックの一番下の妹がクララと同い年で、何度か顔を合わせているらしい。ルドルフはギルド内でサリナとララと遊んでいる。
「ありがとうございます皆さん、とにかく私達も探しましょう。ホリィさん、屋敷に一旦戻ってください。アーシャちゃんとミーシャちゃんはここにいて。アーサー君はホリィさんと屋敷に」
「リツさん、僕が屋敷に戻ります。屋根からあちこち見てみますから」
リーフが手を上げる。
「なら、お願いしてもいいかしらマリちゃん」
「いいわ、リーフ君、お願いね」
「はい、マリ様。ホリィさん、行きましょう」
リーフがホリィさんを支え、ルドルフを抱えてギルドから出ていく。
私達はそれを見送り、ギルドを出た。
「ショウ、空から探してくれる?」
「ピィッ」
マリ先輩がショウに指示、空に駆け上がるショウ。
出た途端に鍛治師ギルドからバルハさんが出てきた。まあ、アルフさんね。
「すまんギルドマスター、あとにしてくれ。必ず後で行くから」
アルフさんが簡単に説明すると、バルハさんの顔が厳しくなる。
「なんてことだ、職人ギルドの見習いの娘が二人も行方が分からんのだ、何か関係はなければいいが」
どういう事だろう?
「念のため、ダビデ爺にギルドに待機してもらうぞ。儂もおる。何事もなければいいが」
「すまんギルドマスター」
バラック達と合流するために移動中に、フレナさんが説明してくれる。
「実はね、私とサリナがお世話になっていた孤児院の子も行方が分からなくて」
歩きながら早口で説明してくれる。
「人拐いか?」
「分からないわ。ただ、勝手にいなくなるような子じゃないらしいの。職人ギルドも真面目に働く子が立て続けにいなくなったから、トウラ閣下も動いてくれているけど、まだ分かってなくて。今回は、関係ないと思いたいけど、ホリィさんの話を聞いたらそう思えなくて」
ホリィさんの元夫はろくな男ではなかったはず。ホリィさんの稼ぎで食べて、終いにはホリィさんを娼館に売ろうとした男だ。今頃アンナ達に接触してきたということは、ホリィさん達を売った金がなくなったとかじゃないだろうか? 単に、自分の子供に会いたいだけでの接触でも、主人であるリツさんの許可がないのだ、罪に問われる。特殊奴隷の紋があるから、分からないわけないだろうに。
ただ、いろいろ重なりすぎだ。
「アンナ達に接触してきた男が、元夫がどうか分からん。今回の人拐いと関係があるが分からんが。アンナ達が他人の奴隷と承知の上で接触なら達が悪いかもしれん」
「とにかく、アンナちゃんとクララちゃんを見つけ出さなくちゃ。怖い思いをしてなければいいけど」
リツさんが硬い表情で呟く。
しばらく歩くと、バラックとバーンが駆けよって来た。
「バラックさん、バーンさん、ありがとうございます。アンナちゃん達は?」
「すまない、まだ、見つからないんだ」
「辺りを聞いて回ったけど、それらしい子を見た人を見つけられなくて」
バラックとバーンがすまなそうに答える。
「そうですか………」
リツさんの顔が曇る。
「ねえ、サーシャ、耳で分からない?」
「やっているけど、分からない」
しばらくサーシャが集中しているが、首を横に振る。
マルコフさんやイレイサーも来て、私達も手分けして探す。路地裏などにはアルフさん達男性陣が探しに向かう。
もう夕暮れだ。
まだ、見つからない。
アンナは9才、クララはもうすぐ7才だ。まだ、子供だ、こんな時間まで帰って来ないし、見つからないなんて。不安で、不安で胸が締め付けられる。私がこれなら、ホリィさんはもっと苦しいはずだ。
今なら、分かる。あの時の母の気持ちが。遅くまで角ウサギを探して怒られたけど、私は怒られた理由が分からなかった。ただ、あの時、エリックとジェシカにお肉を食べさせたかっただけだったけど。こんな思いだったんだ。
ああ、ごめんなさい、お母様。
「皆、皆、来てッ」
マリ先輩の声。
「ノゾミがアンナちゃん達の匂いを見つけたわッ」
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