空⑥
離脱
「世界構造変わるって?」
あれから更に2日。
ナリミヤ氏がコントロールルームにこもり、厳しい顔で作業している。私達はナリミヤ氏の指示に従い、作業している。とは、言っても錬金術チームのお手伝いだ。そのお手伝いの最中に、気になっていたことを聞いてみた。
「あれはね。魔物に対して使うならかなり有効かもしれないけど、あれがもし対人、国家間の戦争に用いられたら圧倒的な戦略になるの。そうね、一台で小さな村くらいなら、時間かけずに壊滅できるわ。あれだけの台数なら、トウラだって長く持たない」
「そ、そうなんですか?」
結構な戦力だね。
リツさんの説明から、あの筒みたいのから発射されるのは、アポロンのガトリング並みの威力。時間はあるが連発できり。何台かで、時間差を置いて攻撃されたら、防ぎようがない。
「多分、まともにあの戦車に対応できるのは、ナリミヤ先輩か、従魔のスウちゃんか、松美さんたちくらいよ」
うわあ、敵わない。絶対に敵わない。あれ、何台あったっけ。
よく、考えたら恐ろしい。
「魔物を迎撃するためならば問題はないけれど。もし、変な人達に渡ったら、国なんて簡単には転覆するわ。例えば、戦争なんかにね。一台で一気に各国間のパワーバランスが崩れるわ。南ワイバックや今は落ち着いているけど、ガイスラーなんかに渡ったら大変なことになる」
今は私達がいる西大陸は、クリスタムとライドエルのこの2国の和平条約で、比較的穏やかだ。小さな周辺諸国ともうまくやっている。ワイバックは内乱寸前だったけど、もし、こんな技術が渡ったら、ワイバックだけではない、クリスタムもライドエルにも戦火に見舞われる。ライドエルの両親、エリック、ジェシカの顔が浮かぶ。
「ナリミヤ氏はどうやってこの島を落とすんですか?」
「確か、今は風の流れに従って動いているけど、それに細工するって。ゆっくり時間をかけて、近くに人がいる場所がない海面に落として沈めるそうよ。そうすれば津波も起きないし」
「そうですか」
「ルナちゃん、ワイヤー、ここ支えてくれる?」
「はい」
私はリツさんの指示に従い、お手伝いを続けた。
更に三日後。
私達はアポロンに乗船した。
その三日間で更に変な馬車を発見した。頭に長くて細い板を着けていた。
「ヘリまで作っていたのか」
ナリミヤ氏はそれをみて愕然とした。
「これ、何ですか?」
分からずリツさんに聞いてみた。
「これはね、空を飛ぶの。アポロンの小型版かな。救助作業なんかに使われるけど、おそらく目的は違うでしょうね。小さなガトリング付いてるし」
アポロンの発射したガトリングよりも威力は低いが、こんなのに襲われたら、町なんて一発で終わる。
この島だけで、いくつの国が滅ぶのだろう。
ナリミヤ氏は島の施設内にあちこち細工する。
「では、皆さん。離脱します」
隈のできたナリミヤ氏が舵を握る。
アポロンが浮き上がる。
ゆっくり、上昇。
「光学迷彩、結界展開」
「はい」
ローズさんが操作。
主砲の席にはリツさん。その膝にはゴーレムコアが入った篭だ。
島はゆっくり移動している。
「ナリミヤ様、爆破はいつですか?」
「着水と同時にだよ」
そっか。
皆神妙な顔で島を見る。
リツさんは篭をそっと抱き締める。
アポロンが離れると、島が見えなくなる。島の結界が展開したんだ。
「島は三年かけて、ゆっくり下降するよ。島の結界機能は細工してバージョンアップしてあるから、見つかることはないから」
ナリミヤ氏は舵を回す。
「さあ、帰りましょう。カラーラの出発地点に戻ります」
隈のできたナリミヤ氏は、舵のボタンを押して、一旦休憩。ほぼ不眠不休で作業していたからだ。
こうして一週間に及んだ浮かぶ島の探索、作業が終わった。
「リツさん、リリィ様の伝えたかった事って、ゴーレムコアの事で合ってますかね?」
「そうね。かつて加護を与えた女性の最後の願いを聞き入れたのね。でも、ナリミヤ先輩が一緒で良かったわ。私達ではどうにもできなかったはずだし。カラーラも結果的には助かるしね」
「そうですね」
なんだかんだですごい人だね、あの人。
「さて、今日はナリミヤ先輩の希望の夕飯にするわよ。下拵えしましょう。手伝ってくれる」
「はい」
きりっ
「ルナちゃん、お鍋よろしくね」
「はい」
細かく刻まれた野菜が入ったフライパンを私はかき回す。
玉ねぎ、ニンジン、セロリを炒める。
「さて、私は付け合わせの野菜ね」
リツさんは茄子、ズッキーニ、赤パプリカ、黄色パプリカ、ブロッコリーの素揚げしたり、蒸したりしている。
「リツさん、今日はなんですか?」
「ドライキーマカレーよ。ちょっと辛いけどね」
リツさんは付け合わせの野菜を準備をして、私のフライパンに刻んだトマト、いろんな香辛料を混ぜる。
「水分が飛ぶまでお願いね」
「はい」
私はせっせとかき回す。
リツさんは皆は指示を出しながら料理を作る。マリ先輩とローズさんはデザートを作っている。チョコレートを使ったケーキらしい。それと小豆を使ったどら焼、パイナップルとココナッツのケーキだ。うん、食べたい。
「ドライキーマカレーは辛いから、アーシャちゃんとミーシャちゃんにはオムライスにするからね」
「ありがとうございます」
「ありがとうリツお姉ちゃん」
嬉しそうな二人。く、オムライスか、私も食べたいけど、我慢我慢。ドライキーマカレーが気になる。
次々に出来上がる料理。
大皿に出来上がった料理が並べられていく。
「ナリミヤ氏は何のリクエストを?」
私が聞くと、リツさんは笑う。
「大人のお子さまランチだって」
なんだそれ?
「ふふふ、まあ、いろいろ食べたいんだと思うの。だから、いろいろ少しずつ盛ろうと思ってね」
「へえ」
次々に出来上がる料理。
エビとイカたっぷりの春巻き、ミニハンバーグ、醤油とウサギの角(リツさん曰く生姜)に漬け込んだ唐揚、ロールキャベツ、リツさん特製腸詰め、ポテトサラダ、ラタトゥイユ、オニオンフライ。スープはカボチャのポタージュ。うわあ、豪華だあ。
それから何とか出来上がったドライキーマカレー。いい匂い。ちょっぴり味見。あ、熱い、あ、香りが、あ、辛い、でもバターチキンカレーと違うけど美味しい。
せっせとリツさん指導で皿に盛る。
ご飯のお椀に入れてお皿にひっくり返す。きれいな半球になる。キーマドライカレーを添うようにかけて、付け合わせの野菜をのせる。さすがアーサーが端正込めた野菜だ、彩り豊かだ。他の料理も載せられる。
うわあ、豪華だあ。
出来上がった頃にナリミヤ氏が、金髪を爆発させて起きてきた。
「うわあ、豪華な大人のお子さまランチだあ」
「ちょうど出来上がったんですよ。ナリミヤ先輩、こんな感じですが、よろしいですか?」
「もちろんだよッ」
ナリミヤ氏も席に着き、いただきます。
「ああ、キーマカレーだあ、辛っ、でも美味しい」
まあ、いい食べっぷり。
どれどれドライキーマカレー、ぱくり。あ、辛い、でも、クセになる。ぱくりぱくり、あ、辛い。
あ、アーシャとミーシャのオムライスも美味しそうだけど、次回たね、ぱくりぱくり。ローズさんのアイスティーを一口。エビとイカの春巻きもぱくり。あ、あっつうっ。よし、次はポテトサラダだ。オニオンフライも捨てがたいなあ。
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