空④
言葉
寂しい場所だな。
空に浮かぶ島に降りて、最初の感想だ。
「皆さん、ここは今、高度2000メートルくらいになっています。走ったりしたらすぐに酸欠になります。はじめはゆっくり行動してください。気分が悪くなったらすぐに言ってください。頭痛や吐き気、倦怠感が出ると思います」
ナリミヤ氏が説明してくれる。
温度調整されたグレイキルスパイダーのマントを纏って下船する。
何にもない。草もない。
カサカサの大地にぽつん、と白い建物。
「皆さん、建物内の方が息が楽になりますから、行きましょう」
ナリミヤ氏を先頭に建物内部へ。
綺麗な建物内部だけど、殺風景、人の気配がない。寂しい場所だ、内部もそうだ。
「見たことのない金属だな」
アルフさんが興味深く見ているが、安易に触らない。
「メエ~」
ノゾミが不安そうにマリ先輩に足元に寄り添うように歩いている。ショウも落ち着きなくキョロキョロしながらついている。
「こちらがコントロールルームです」
しばらく歩いて、ナリミヤ氏が壁の一部を触ると、壁が動く。
「さあ、どうぞ」
促されるまま、中に入る。
「わあ、すごい」
マリ先輩が声を上げる。
広い部屋だ。ナリミヤ氏のアポロンの操縦室によく似ている。大きな窓のような壁には、見たことのない文字や数字が並ぶ。いくつもの魔法陣のような図式を並ぶ。いくつも椅子と複雑なパネルが並ぶ。
「ナリミヤ先輩、明らかに人工的ですね」
「そうだね。誰が何の目的でこれを作ったか分からないけどね。さて、とりあえずの修復は終わったけど、これからが問題だよ」
ナリミヤ氏は一つ息をつく。
「リリィ様が伝えたかったことですね」
「そう。この島が関係しているとは思うけど。まだ、探していない場所がたくさんあるからね。皆さんで手分けして探してもらえるかな? 僕はしばらく修復作業に入るから。施設内はある程度の解錠してあるし、迎撃システムは止めてあるから」
私達は手分けして施設内を探すことに。
私はリツさん、アーサー、アルフさんと回る。
「本当に殺風景ですね」
私がポツリ。
「そうね。でも、なんだか、私は不思議な気分」
リツさんがふわっと返事をする。
「不思議?」
「そう、不思議。初めて来た感じじゃないの。変よね、初めて来たのにね」
私はアルフさんと顔を見合わせる。
リツさんはすいすい歩いている。アーサーは何の疑いもなく着いていく。
「どうします?」
「着いて行こう」
「はい」
白い殺風景な通路が続く。ドアがいくつもあるけど、リツさんは無視して進む。
しばらくしてリツさんが止まる。一枚のドア前に。
「どうされました?」
アーサーがリツさんに声をかける。
「なんだか、気になるの」
リツさんがペタペタドアを触る。
「こじ開けるか?」
アルフさんが十文字槍を籠手から出す。
「いいえ、ちょっと待ってください」
ペタペタ、ペタペタ。
ペタペタ、ペタペタ。
プシュー。
あ、開いた。
「良かった、開いたわ。さ、入りましょ」
「大丈夫ですか?」
警戒なく開いたドアを抜けるリツさん。私はちょっと不安で声をかけるが、リツさんは抵抗なく入っていく。
「大丈夫よ」
リツさんに続くと、殺風景な部屋に、椅子に壁のパネル。そして、崩れた白骨死体。
立ち尽くすリツさん。壁を見て、呆然としている。
「どうしましたリツ様?」
心配そうに聞くアーサー。
私も心配で覗き込む。
壁にはびっしり見たことのない文字が刻まれている。
「アーサー君、ナリミヤ先輩とマリちゃん呼んで来て」
「え、あ、はい」
アーサーは部屋から出ていく。
「どうしましたリツさん」
「この文字、知ってる。私の世界の文字よ。英語って言うの」
「なら、読めます?」
「私はちょっと英語は苦手なの。しかもこれ達筆だし、うーん、ちょっと無理かも」
リツさんはお悩みモード。
「所々、読めそうだけど、えーっと、えーっと、これはヘルプよね。後はチャイルドかしら?」
お悩みモードのリツさん。
「ダメだわ、分からない」
リツさん、ギブアップ。
そこにマリ先輩とナリミヤ氏がやって来た。
「あ、私、英語の成績2なの」
マリ先輩はすぐにお手上げ。
「ちょっと、待ってね」
本当に万能な人だね。
うーん、うーん、と悩み出すナリミヤ氏。
しばらくして解読したようだ。
「えーっとね、内容なね」
この文字を読める人に全てを託します。
私は日本の大学に留学している時に、友人達と共にこの世界に召喚されました。いろんな事がありました、楽しいこと、つらいこと。その中で私は子供を宿すことができた。だけど、産んで上げられなかった。その寂しさを埋めようと、私は友人達を拒絶してある研究に没頭した。何年も外界から隔離された部屋に閉じ籠り、何年も何年も過ぎた頃。隔離していたドアを無理やりこじ開けて、かつての友人達が雪崩れ込んできた。はじめは、自分を心配して来たかと思ってが違った。かつての優しい友人達の形相が変わり果てていました。彼らはこう言って来ました、お前が作ったゴーレムコアを寄越せと。
彼らは、私が閉じ籠りっている間に、何かが起きていたが、私には分からない。ただ、女神を空から引きずりおろす為、尖兵のゴーレム軍隊を作るから、そのコアを渡せと。
私は拒否しました。単なるコアと思われるかもしるないでしょう。でも、私にとっては大事な子供達。ドアは特殊ロックをしました。私には、守護天使リリィ様の加護があります。鍵は加護です。どうか、新たに加護を持つ人よ、私の大事な子供達を守ってください。あの子達を、たくさんのものに触れて、聞いて、学んで、成長します。だから、どうか、子供達を助けてください。暖かく見守ってください。どうか、子供達を守ってください。
どうか、どうか、お願いします。同郷の人よ。
「この白骨死体は、この文字を刻んで力尽きたようだね」
「そうですか」
リツさんは白骨死体のそばにしゃがみこむ。
「あなたが、私を呼んだの?」
優しく話しかけるリツさん。そっと触れると、白骨死体はぼろぼろと崩れ落ちる。
「お墓、作ってあげましょう」
リツさんは布を出して、白骨死体を入れる。アーサーと私も手伝う。全てを入れて、リツさんは腰を上げる。
「ナリミヤ先輩、話の内容からゴーレムコアがありますよね?」
「そうだね。奪われてなければ、この室内かな」
リツさんは布を抱き締めて、部屋を回る。
壁をペタペタ、ペタペタ。
「ゴーレムコアって、やっぱり、ゴーレムの心臓部分ですかね」
マリ先輩がナリミヤ氏に聞いてる。
ゴーレム。
魔物だけど、普通の魔物と違って、木材や石、珍しいのは金属のボディを持つ。よく、古代遺跡のガーディアンなどで見かけるくらいだ。私は見たことはない。
「そうだろうね。だけど、ロストテクノロジーのゴーレムコアか、ちょっと興味あるかな」
まるで子供のように目を輝かせていりナリミヤ氏。
ペタペタしていたリツさんが、ふいに止まる。
壁にいくつも光の線が走り、音を立てて、動いた。
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