空②
島?
空に登って二日目。
私は空間拡張された中の一室で、アーシャとミーシャ相手に模擬戦していた。
だって、することないもん。
さっきはリーフとしたから、次はローズさんだね。
よし、終了。
「まずまずだね」
「はあ、はあ、ありがとうございます」
「なん、で、はあ、ルナお姉ちゃん、あんなに強いの?」
「ミーシャ、別の、生き物よ」
アーシャまで失礼だね。
「あれ、ローズさんは?」
「リツさんと、マリ様と馬車いじってる」
休憩していたリーフが答えてくれる。
「馬車?」
「そう、馬車。なんか、空飛ぶ馬車だって」
まだ、諦めてなかったの?
「仕方ない、リーフ、模擬戦しよう」
「そんなあ」
「なんだリーフ、儂とがいいか?」
「ルナっち、お願い」
夕方になり、食堂に集合。
ナリミヤ氏が普通に座っているけど、舵、大丈夫なのかな?
「大丈夫だよ、目的地点までは設定しているから、アポロンが連れてってくれるから」
はい、分かりません。
「自動運行みたいな感じですか?」
リツさんがシーフードシチューをお皿によそいながら聞いてる。
「そうだよ。一応初めは船の予定だったんだけどね。やりだしたら止まらなくて」
何が?
いいや、聞いても分からない。
私も配膳お手伝い。
「今、時期的に気流が激しいからスピード出せないけど、明日の朝辺りには着くよ。まあ、予測だからあるとは限らないけどね」
ふーん。
「ナリミヤ様」
マリ先輩が挙手。
「なんだい?」
「フルスピードなら、どれくらいですか?」
「そうだね。例えるなら、そうだね、マリベールからダラバに半日あれば着くよ」
はいぃぃぃぃぃ?
魔法馬の馬車と魔道船で2ヶ月以上かかるのに? それも、道中なんのトラブルなくての日数よ。
「凄いですね」
マリ先輩があっけらかんに言うけど、大変なことよ。
私は目を剥く。ローズさんとアルフさんもだ。
「空なら一直線だしね」
そんな問題じゃないよ。
「ルナちゃん、サラダのお皿配ってくれる?」
「あ、はい、リツさん」
やめよう、考えるの。私は脳筋だ、残念な脳筋だ。
うん、シチュー、いい匂い。
次の日。
「うーん、ないねえ。レーダーの範囲広げようか」
ナリミヤ氏がレーダーの前でごそごそしてる。しばらくして、小さな反応あり。
「何かあるね。魔物にしてはおかしなスピードだし、雷雲でもなさそうだし」
何かあるらしい。
今日はレーダーの前にはマリ先輩。チャフ、結界展開の前にはローズさんだ。主砲前にはリツさん。あとは変わらず。
「結界は最高硬度で行こう。スピード落ちるけど、安全第一だからね」
「はい」
ナリミヤ氏はローズさんに指示し、舵を取る。
ゆっくり方向を変えて、進む船。
なんか、嫌な予感する。
私は手すりを握り締める。
一時間位して、けたたましい音が鳴り響く。
ビービービーッ
「皆さんッ、戦闘になりますッ、そのまま動かないでくださいッ。結界展開フルパワーッ、主砲充填ッ、チャフ、合図待てッ」
ナリミヤ氏が叫び、リツさん、マリ先輩、ローズさんがパネルやレバーを握る。
立っているのは私とアルフさん、アーサーとサーシャだ。アーサーとリツさんは椅子に掴まり、サーシャはアーシャの椅子に掴まる。
「前方より、エネルギー確認ッ」
マリ先輩が叫ぶ。
「衝撃に備えてッ」
ナリミヤ氏は舵を勢いよく回す、次の瞬間。
ガリガリッ
嫌な音を立てて、船体が激しく揺れる。大きく傾く。
「あ………」
掴まりかたが、甘かったのか、手すりを離してしまった。
離れた瞬間、ゴツゴツしたアルフさんの手が私の手首を掴んで、引き上げてくれる。お礼、言ってる暇ない。
ビービービー、とけたたましい音はまだ鳴ってる。
「ナリミヤ様、エネルギー元が戻って来ますッ」
はい? 戻って来るってなに?
「チャフ、発射ッ」
ローズさんがパネルを操作すると、船体の後方で爆発音が響く。
なんなの? なんなの? なんなの?
私は必死に手すりに掴まる。
「主砲充填はッ?」
「完了しましたッ、照準完了ッ」
「撃てーッ」
リツさんがレバーを操作。
船体前方から、真っ白な閃光が走り、まっすぐ伸びていく。
え、何もないよ、前方、何もないよ。
閃光は何もないのに、弾けいく。
あ、空に亀裂入った。亀裂は入ったが、消えていく。
「結界かッ」
私の横のアルフさんが呟く。
「主砲充填ッ、合図を」
「はいッ」
「エネルギー元、来ますッ」
ナリミヤ氏は舵を回す。
「うわあッ」
支えきれず、手すりを離してしまう。
「ルナッ、儂に掴まっとれッ」
アルフさんが、私を引き上げてくれる。
「メエメエ~」
「ピィ~」
ノゾミがマリ先輩の足元にすがり付き、それを必死に支えるマリ先輩。ショウは必死に爪を床に立てて踏ん張っている。
アーサーとサーシャはそれぞれ座席にしがみついている。
私は引き上げられて、言われるままアルフさんの首に腕を回す。
「チャフ、発射ッ」
「はいッ」
ローズさんがパネル操作し、後方で、爆発音、そして衝撃。
「リーフ君ッ、主砲発射後に、ガトリング発射ッ」
「え、あ、はいッ」
リーフが前のパネルに手を伸ばす。
「充填完了ッ」
「撃てーッ」
閃光が走る。
再び、空に亀裂が走る。
「ガトリング、発射しますッ」
「撃てーッ」
船体の横から、単発の光の塊が、連続して放たれ、亀裂に命中する。亀裂が一気に広がる。広がるが、徐々に消えていく。だが、明らかに先ほどより、遅い。
「エネルギー元、来ますッ」
マリ先輩が叫び、ナリミヤ氏が舵を操作。
傾く、船体が傾く。そして、船体に響く嫌な音。
怖い、怖い。
ここは空の上だ、もし、放り出されたら、絶対に助からない。
「ナリミヤ殿ッ、一時撤退をッ」
私を抱えてアルフさんが叫ぶ。
「大丈夫ッ、アポロンは負けないッ、僕の最高傑作だからッ、チャフ発射ッ」
ローズさんが操作。爆発音。衝撃。
私は声と音しか分からず、アルフさんにしがみつく。
「充填完了ッ」
リツさんが、ビービービー鳴る音に負けないように声を上げる。
「撃てーッ」
閃光が走り、亀裂が走る。
「ガトリング、充填完了ッ」
「撃てーッ」
光の塊が走り、亀裂が広がり、広がり、弾ける。
何度も繰り返す。
いつの間にか、衝撃がやみ、マリ先輩の「エネルギー元」が聞こえなくなる。
「よしやっぱり玉切れしたね、主砲充填は?」
「完了してます」
「では、発射ッ」
船体の前方から閃光が走る。
光は見えない壁に当たり、弾ける。
「島だッ」
リーフが叫ぶ。
私は視線を動かすと、確かに島だ。空に浮かぶ島だ。覆っていた結界か消えて、全貌が明らかになる。
え、本当に島だ。
むき出しの土と白い建物しかない、殺風景な島。
「結界全開ッ、着陸するよ、衝撃に備えて」
アルフさんが私に回している腕に力が入る。私も腕に力が入る。
衝撃音と共に、窓の景色が、一気に変わる。
怖い。
私はアルフさんにしがみついた。
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