カラーラ⑥
夢
私はパジャマ姿で、波打つ水面の上に立っていた。
? ? ?
見渡す限りなにもない。
何? 何の夢?
「ルナ?」
呼ばれて振り返ると、こちらもパジャマ姿のアルフさん。
「え、アルフさん?」
何で、私の夢にパジャマ姿のアルフさんがいるの? 寝癖なんてリアルだし。何で?
「ここは夢か? まあ、いい」
アルフさんは波打つ水面の上を、道の様に歩いてくる。
「ルナがおるなら、何もいらんな」
そう言って、ゴツゴツの手が、私の両頬を包み込む。優しく私を見るのは、きれいなオッドアイ。ああ、私の顔が、写っている。
アルフさんの顔が近づいて来る。
あ、夢の中だから、いいか、そうか、夢だし、いいか。うん、セーフ。
いいよね。
私は、目を閉じる。
「はい、アウトー」
聞き慣れた声に、私はアルフさんの肩を咄嗟に押す。
「何でおる?」
恨みがましいアルフさんの声。
「ダメですよ。正式にお付き合いしてないのに」
「そうですよ、きちんとお付き合いしてからです」
そう言ったのは、リツさんとマリ先輩。お揃いで色ちがいのパジャマ姿だ。
「夢の中ならよかろう?」
「ダメですよ」
リツさんがバッサリ。
私は恥ずかしくて、必死に肩を押す。
「あのー、僕もいるんだけど」
は?
振り返ると、水色の水玉模様のナイトキャップを被ったナリミヤ氏。
何だ、何だ、何の夢だよ。
アルフさんや、リツさん、マリ先輩が出てくるならわかるけど、何でナリミヤ氏が出てくるの。
私は未だにアルフさんの腕から解放されず、もぞもぞしてる。
リツさんとナリミヤ氏が何か話しているけど、よくわからない。
「これ、何の夢でしょうか?」
「さあ、よく分からないけど、只の夢じゃないよね」
私は抵抗を諦めて、大人しく、アルフさんに抱き締められることにした。いいよね、夢だし。
しばらくして、マリ先輩が慌てて指差す。
「リツちゃん、あそこ」
マリ先輩の指先にいたのは、灰色の髪、瑠璃色の瞳の女性。
「リ、リリィ様」
私も慌てる。
「アルフさん、ちょっと離してください」
「仕方ないか」
皆で礼の姿勢を取る。
「リツさん、あそこを見て」
白い指先には、二又の特徴的な山頂を持つ、カラーラのダンジョン、青龍の棲みかの山だ。かなり、遠いけど。
と、言うことはここは海面か。
リリィ様は無言で指先を移動。私達も視線を移動させると、雲の隙間から、何か出てくる。
え、あれ、何?
空から、何か巨大な何かがゆっくり落ちてくる。
巨大も巨大。多分、トウラ位の面積と体積。
え、あれ、何?
巨大な物体は、ゆっくり、いや、ゆっくりじゃない。どんどんスピードを上げて落下してくる。
咄嗟に、アルフさんが私を庇うように動く。
「大丈夫よ、これは今じゃない」
リリィ様の声がする。
巨大な物体は、勢いよく着水。
激しい水飛沫が上がるが、全く冷たくないし、濡れない。アルフさんが庇ってくれたが、大丈夫だ。
恐る恐る目を開けると、リツさん、マリ先輩、ナリミヤ氏が真っ青な顔をしている。視線の先には、水の壁が、見上げるように高く唸りを上げて、カラーラに迫っている。
津波だ。
津波は勢いを落とさずに、カラーラに迫る。
「ナリミヤ先輩、何とかしないとッ」
「無理だよッ、あれだけの体積、いくらなんでもッ」
「カラーラがッ、ローズッ」
リツさんが叫び、ナリミヤ氏が絶望的な顔になり、マリ先輩が悲鳴を上げる。
巨大な津波は、カラーラの街を飲み込み、ダンジョンまでも激しく破壊する。
私は顔を覆う。
音がない、全く音がない。それがやけに非現実で、怖くて、私は震える。
カラーラは、恐らく壊滅だ。
あれだけの津波だ、逃げようがない。
カラーラにはアーサー達がいるのに。
私は膝をつく。
「リリィ様ッ、一体どういうことなんですかッ」
リツさんが、リリィ様に食って掛かる。
リリィ様は最後に指先たのは、オレンジ色の星。明け方に光る独特なオレンジ色の星だ。
私は飛び起きた。
同室のリツさんもだ。
「ルナちゃん、ねえ、今、津波の夢なんか見た?」
「はい、見ました」
ああ、やっぱり。と、言うことは。
私とリツさんはガーディアンを羽織り、部屋を出ると、マリ先輩も出てきた。アルフさんもだ。
無言で一階の居間に集合。
「確認だけど、津波の夢? リリィ様も出てきたわよね」
リツさんの言葉に、私達も頷く。
「と、すると、ナリミヤ先輩も見てる可能性があるわね。あの夢って、一体、どんな意味があるのかしら?」
空から何か巨大な物体が落ちて、それで津波が発生、カラーラを襲う。洒落にならない事態だ。
「最後にリリィ様が指した星、あれは『金木犀』ではないか? 今年はすでにもう見れんはずなのに」
アルフさんが、最後に見た場合を思い出すように言う。『金木犀』とは秋、ファルコの月始めに三日間しか現れない星で、今年の『金木犀』はすでに見れない時期だ。
「じゃあ、いつの『金木犀』かしら?」
リツさんが考える。
「リリィ様は『今じゃない』って、仰ったわ。なら、単純に考えて先のこと、つまり、未来予言じゃない?」
マリ先輩が考えた結果を言う。
私もそう思っていた。
「だが、そうなると、カラーラを守るための予言だな。だが、守護天使がそんな予言とは聞いたことないぞ」
「え、どうしてです?」
アルフさんの言葉に疑問で聞き返すリツさん。
「守護天使ってのは、基本的には見守る立場にあって、この世界は干渉はせん。スキルの管理と、まあ、加護を与えたものには、祈れば相応の力を与えてくれるがな。こういった街の崩壊等には、見守るだけのはずだ」
「そうなんですか。なら、どうして、あんな夢を?」
「さあなあ」
分からん、とアルフさんはお手上げ。
「何より。なんでこのメンバーなんでしょう?」
私が聞くと、マリ先輩が答えてくれる。
「『加護』持ちじゃないかしら? ナリミヤ様もガイア様の加護があるし。共通点はそれしかないような気がする」
なるほど。そうか、加護か。
「どちらにしても、きっとリリィ様は何か私達に伝えたかったはず。それが分かればいいんだけど。このままにしておけないわ、もし予知夢なら、何とか回避できないか考えないと」
「どうやって? カラーラの人口は10万を越すぞ。それを避難させるのか?」
アルフさんが、ほぼ不可能なことをいう。そうだ、カラーラはクリスタム第二都市。相応の人口がいるし、避難と言ってもどこが安全かなんて分からない。
「ねえ、あんな大きな物体、そもそもどこから来たのかしら? 隕石でもないようだし」
マリ先輩が初めて聞くワードを言う。説明してくれたけど、よく分からないが、世界の外から降ってくる石らしい。ただ、勢いとかの問題で、小さくても破壊力が凄いらしい。
「確かに、あれだけの物量が空にあること自体がおかしいし。実はちらっとしか見えんかったが、建物の様なものがあったんだが、関係あると思うか?」
「あ、アルフさんにも見えました?」
リツさんとアルフさんには、あの巨大な物体に、建物らしきものが見えたらしい。
「え、じゃあ、あれに人がいるの?」
「分からないわ、確かめようがないもの。はあ、考えが纏まらない。ナリミヤ先輩に相談しましょう。もしかしたら、同じ夢を見ているかもしれないし」
リツさんが、頭を振ってどうするか決めた。
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