表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/386

スキルアップ③

槍術講座?

 先手必勝。

 合図と共に私は槍を繰り出す。

 身体強化され、勢いのある突出を白髪おじさんはギリギリで避ける。その顔は余裕綽々だ。

 く、悔しい。

 繰り出される槍を年齢をまったく感じさせない動きで避けられる。時折私の槍を、白髪おじさんは手に持つ槍で弾く。

「なかなかッ」

 何度も避けられ、弾かれ、当たる気配がない。

 短い気合いと共に、右足を軸に回転。槍の柄で攻撃するが、これも弾かれる。

 反射能力が高過ぎだぞこの白髪おじさん。

 嬉しそうな顔され、私はちょっと意地を張る。

 しかし、当たらない。当たらないと意味がない。しかも、白髪おじさんの攻撃がちょいちょい当たる。何度目か、繰り出した私の槍を白髪おじさんが掴んだ。

 よしッ

 私は掴まれた所を支点にして、地を蹴り体を浮かす。

「はッ」

 蹴り出した足先は白髪おじさんの顔を掠める。

「足癖悪いぞッ」

 なんとでも、と言うかおじさんデコピンしてたよね。思わず私の槍から手を離す。そのまま空中で槍に腕を巻き付けるようにして回転。肩を狙うが素晴らしい反射で弾かれる。

「お返しだッ」

 強烈な蹴りが放たれる。咄嗟に槍で受けるが、呆気なく私は吹き飛ばされる。

 訓練場の床を転がる。

 息が詰まるが、まだやれる。

「姐さん、もう止めなよ」

 だからその姐さんはやめてって。

 どうやら少年達の近くに転がったようだ。素早く起き上がり、槍を構える。

 その槍に違和感。

 ひびが入ったと直感した瞬間に私は槍を太ももで二つに割る。

 よし、これなら行ける。

 槍ではなく、木刀になったそれを両手に持ち、一気に距離を縮める。

 白髪おじさんはそれを見て楽しそうに笑う。

 初めて白髪おじさんが槍を構える。恐ろしい速度で右手を突かれる。

 激痛が走る。右手の木刀を突かれた。なんて正確なんだ。衝撃で木刀がぶっ飛ぶ。

 だけど、懐、までとはいかないが、接近できた。

 左手の木刀を振るう、よし、行ける。

 白髪おじさんの脇を捉える直前で、蹴りが飛ぶ。

「ぐわっ」

 押し潰された声が出る。まともに蹴りが入り、再び吹き飛ばされる。

 ああ、いかん。左手と木刀も届かないところに転がっている。

「そこまで」

 教官の声が響く。

 ああ、悔しい、一撃も当たらなかった。身体強化してもだ。

 悔しい、悔しい。

「姐さん、大丈夫?」

 悔しすぎで、突っ込み返せない。なんとか体を起こす。身体中痛い。少年が背中を支えてくれる。痛む体に活を入れ、立ち上がり、白髪おじさんに向かって頭を下げる。

「ありがとうございました」

「うんうん、根性があるな。しかもその状況判断は一品だな。槍に剣、体術も悪くな…」

「何をしているんですか? ギルドマスター?」

 饒舌の白髪おじさんの顔がみるみる青くなる。

 後ろにいつの間にかグラウスさんの姿。なんだろう、笑顔なのにすごく怒っている。

 白髪おじさんは青い顔して、ぎぎぎっと振り返る。

「グラウス、やあ、お早いお帰りで…」

「何をしているんですか? ギルドマスター?」

 同じ事を聞く。グラウスさんの凄みが増していく。

「いや、あのね…」

 たじたじとたじろぐ白髪おじさん、いや、ギルドマスター。

 強い訳だ、現場の叩き上げ見たいな人なんだろう。クリスタム王国の冒険者ギルド本部ギルドマスター、弱いわけないよね。

 ゴニョゴニョと、言い訳していたが、グラウスさんの言葉が容赦なくうち据えていく。

「マスター室にいないと思ったら、未処理の書類だけではないんですよ。今日中にあれ片付けて、と言いましたよね」

「分かってるよ、ちょっと息抜きをね。新人の、ほら、激励に」

「新人の槍術講座に体術使って何を言っているんですか? そもそも、ギルドマスター直々にする必要ありますか? 何のための教官ですか? 何のための報告書ですか? ここはクリスタムの冒険者本部ですよ。そのギルドマスターが油売ってていい訳ないでしょう。今から討伐系の依頼が増えるんですよ。その対策案、いくつ私が出していると思っているんですか? 全部ギルドマスターの決済待ちなんですよ」

「あ、あのね」

 言葉と見えない威圧でギルドマスターが劣勢。

 身体中痛いから、座っていいかな、そう思っているとマリ先輩が駆け寄ってきてヒールをかけてくれる。

 あぁ、温かい。痛みがすっと引いていく。

「大丈夫ルナちゃん?」

「はい、痛みが引きました」

 なんて会話をしていると、ギルドマスターはしょぼんとして訓練場の階段を上がって行った。グラウスさんが無慈悲に「駆け足」と言葉を突き刺し、ギルドマスターは文字通り駆け足で去って行った。

「まったく」

 グラウスさんはため息をつき、こちらを向く。

「貴方でしたか、うちのギルドマスターがすみませんね」

「いえいえ、いい経験になりましたから」

 これは本当。槍術講座だったけど、ギルドマスターは最後だけ槍を使った。槍が無くても私を制圧出来たはず。

「さすがギルドマスターですね、手も足も出ませんでした」

「あれでも、元はSランクですからね」

 通りで、強いわけだ。

 グラウスさんは再びため息。

「貴方はいろんな意味で目立ちます。トラブルは、避けてください」

「はぁ」

 気のない返事の私。今回はギルドマスターが悪いんじゃないかな? 目立つな言われてもね。

「貴方には改めてお話をしたいのですが、夕方時間を頂けますか? また、お送りしますから」

 えぇまた? 渋い顔をする。

 結局、了承した。

 グラウスさんも訓練場を去り、丁度昼頃になったため、私達も訓練場を出た。四人組少年冒険者達が整列して、

「「「「お疲れ様です姐さん」」」」

 と、言うのを無視して階段を上がった。


「ギルドマスター、仕事進んでます?」

「ちゃんとやってる」

 あの少女に釘を指し、マスター室に顔を出したグラウス。大量の書類をてきぱきと裁くギルドマスターはかつてパーティーを組んだ仲だった。付き合いは長い。書類が減っていく。脳筋でギルドマスターは勤まらない、ここはクリスタム王国の本部なのだ。たまに有能な新人にちょっかいをかける癖だけはどうしようもないが。

「ところでギルドマスターのお眼鏡にかなうものはいましたか?」

「分かっとるだろう? あの娘。スキルは高いが体が追い付いてない。状況判断もいいが、とても新人とは思えん。足りないものを身体強化で補っている、ちぐはぐな感じがするがなにより」

「なにより?」

「あれは人を斬ってるぞ。とても未成年が出せる闘気じゃない。まるで歴戦の剣士だ」

 闘気とは剣士や戦士などが出す力の流れで、レベルが高ければ流れる量は多くなる。それを感知できるのは、そういった戦士系の上級者である。ギルドマスターはもちろん上級者。魔法職メインだったグラウスは辛うじて見える位だが、今日久しぶりに見えた。

 グラウスは息を吐き出す。

「やはり、ギルドマスターもそう思いますか」

「お前さんもか」

 あの三人組の男達に絡まれた時の蹂躙劇を、途中からグラウスは見ていた。確かにあの少女の動きは異常だ。明らかに身体強化をして、模擬刀を振り回す少女の動きは、素人ではなかった。模擬刀を振るっているときの顔は、とても未成年の見せる表情ではなく、まるで卓越した戦士の顔だった。グラウス自身、冒険者を長くしていたため、何度も似たような剣士を見てきた。一体どこで、あれほどの戦闘スキルを得たのだろう。

「今日の夕方、会うことにしました」

「よし、これを」

 ギルドマスターは一枚の書類を差し出す。

『Jランク 登録書 保証人 クリスタム王国冒険者本部副ギルドマスター・グラウス・ハッカー』

「人を斬っているだろうが、あの娘は快楽でそのようなことはしとらんだろう。犯罪予備軍なら、わざわざ基礎講座を受けてスキルアップを測るようなことはせん。今日、斬りあったから分かる。闘気がなんだか気になるが、あれは逸材だ。手放すのは惜しい」

 他の国の冒険者ギルドに渡したくない。それがありありと分かるような顔のギルドマスター。拳を交えたら人となりが分かる、昔からそんなことを言うが、グラウスにしてみたら脳筋発想だ。だが、外れたことはない。

「まあ、確かにガイスの件も、ここで絡まれた件を見てもそう思います。やや先走りなかんはありますが、彼女の後ろには必ず守る対象がありますから」

「そういう事だ、あとは適当に言ってサインもらってくれ」

「承知しました」

 ギルドマスターは訓練場から上がった真っ先に書き上げた書類を、グラウスに渡した。グラウス自身、あれは確かに惜しい逸材だと思っていた。引っ掛かることはあるが、一緒にいる少女達と良好な関係のようだし、慕っているあの少年達も邪険に徹する事が出来ない甘さもある。有能な後見人さえいれば、と思うがそう簡単にはいかない。

 グラウスは書類を受取りマスター室を出た。

 さて、この書類を出してあの娘がどう反応するか。すぐに返事はしないだろうと踏んでいる。持ち帰らせ、あの少女達に説得される方がトラブルがないような気がした。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ