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カラーラ①

無限の可能性

「じゃあ、いってきますね。ホリィさん、留守をお願いします」

「はい、リツ様。お気を付けてください」

「リツ様、早く帰って来てね」

 アンナとクララがリツさんにすがり付く。

「いい子にしててね。お母さんの言うことよく聞いてね」

 ホリィ一家に見送られて城門から出る。今回は鍛治師ギルドから快く送り出されたアルフさん。

「帰ったら嫌な予感がする」

 呟いていました。

「皆さーん。こちらでーす」

 残念金髪美形が手を振ってる。紫の目には小豆の文字が。

 嫌がるショウをのせて爆走開始。

 途中のお昼ご飯で、ナリミヤ氏は柄があり、鉄製で長方形の型のような道具を出す。

「サイトウ君、僕、たい焼きの型作ったんだ」

 た、たい焼き? よく見たら片方には魚の型の溝がある。

「マリ先輩、あれ、なんです?」

「あれ? ああ、私達がいたところでお菓子を作る道具よ。そうだわ。中身にこだわらなければいろいろできるわよね」

 マリ先輩がお悩みモード。

「ナリミヤ様、それ貸して頂けませんか? あんこに拘らなければ、いろいろできます」

「もちろん」

 ナリミヤ氏は嬉々として渡している。

 午後の時間は馬車のミニキッチンで、リツさんとマリ先輩がたい焼きを焼いてくれた。めっちゃいい匂い。

「はい、出来たわよ」

 わーい。

「これが、ハムとキャベツとマヨネーズ。これがマッシュポテトとミートソース、これがチョリソーとキャベツとマヨネーズ、これがカスタードとブルーベリージャム、これがリンゴの甘煮とカスタード、で、生クリームとバナナとチョコレートよ」

 うわあ、魚の形してる。魚の形のパンケーキだ。かわいい。

「お菓子なのに、ハムとか入っているんですね」

「そうよ、バリエーションはまだまだたくさんあるんだから、無限にあるのよ。面白いでしょう? ルナちゃん何がいい?」

 マリ先輩がえっへん。かわいいんだから。

「えっと、みんな美味しそう」

 迷う。

 リツさんは次々に焼き上げている。

 ナリミヤ氏も馬車の馭者台から這い出してくる。こわっ。てか、爆走しているなか、よく出てきたね。手綱は?

「スウちゃんなら、心配ないよ」

 そう言って早速リンゴの甘煮入りを食べている。

「たい焼きだあ」

 だから、涙流さないで大富豪。

「錬金術で作れないんですか?」

 前から気になっていたから、聞いてみた。この人なら一発でいろいろできそうだけど。

「錬金術はね、万能ではないんだよ」

 ナリミヤ氏はたい焼きをぺろり。次のハム入りに手を伸ばす。

「僕はね、物理が好きでね。こういった金属加工については得意だし、野良ダンジョンや街道の整備とか土木関係も好きだから突き詰めていろいろ試してやれたけど。料理は別なんだ。このたい焼きの皮にしてもそうだけど、粉や水、そういった配合が一切分からないんだ。それからどれくらいの火加減でどのくらいの時間で焼くとか、中に入れる具材をどのタイミングで入れるとかもね。錬金術はその知識がないと失敗してしまうんだよ」

 ハム入りを平らげて、ブルーベリー入りに手を伸ばす。

「錬金術にはとにかく知識が必要だし、何より経験が必要なんだ。僕には料理の知識や経験が皆無だからね。サイトウ君に頼ってしまうんだよ」

「へえ」

「それにね、ルナちゃん。錬金術で料理を作るのは確かに時短かもしれないけど、こうやってちょっと手間と愛情かけた方が美味しいでしょ?」

 リツさんが焼きたてのたい焼きを並べる。

 なるほど。

 ブルーベリー完食。次にチョリソーに手を伸ばすナリミヤ氏。

 あ、私も食べないとなくなる。

「マリ先輩、私、チョコレートのがいいです」

「はい、どうぞ」

 マリ先輩が笑って、チョコレート入りを渡してくれる。温かい。いただきます。きりっ

 ぱくり。

 皮、温かいのに、中身の生クリームやバナナやチョコレートが冷たい。あ、甘い。うわ、美味しい。バナナとチョコレートが絶妙。パクパク。

「ルナちゃん、美味しい?」

「はい、バナナとチョコレートって、とっても相性いいんですね」

「そうよ、王道でしょ」

 たい焼きは大好評だ。

 リツさんとマリ先輩がたくさん焼いてくれた。私はマッシュポテトとミートソース入りも食べた。うん、中身は拘らなければ何でもいいんだ。

 ただ、途中でたい焼きがどれがどれか分からなくなり、辛いのが苦手なミーシャがチョリソーを食べてちょっと騒ぎになったけど、楽しいおやつタイムだった。

「小さなハンバーグとか、小型の卵もいいかも」

「チーズもいいわ。せっかく魚介類を手に入れるんだから、たこ焼きとかも作れないかしら」

「サイトウ君ッ、僕いか焼き食べたいッ」

「縁日みたいになって来たわね」

「いいじゃない。縁日。ねえ、リツちゃん、新年のお祭りに出店してみない?」

「サイトウ君ッ、綿あめの道具作ろうかッ、あと、りんご飴ッ」

「落ち着いてください、ナリミヤ先輩」

 興奮するナリミヤ氏を、リツさんがあきれて制していた。

「本当によく分からん御仁だな」

 チョリソー入りを食べていたアルフさんがぽつり。

 レベル300越えで、とんでもないコネを持つ大富豪が、必死に訴えている。どちらかというと、庶民の味だけど、やっぱり故郷の味なんだろうなあ。

 私はハム入りのたい焼きにかぶりついた。


 マリベールに到着し、宿に入る。夕食後、錬金術チームが何か書き出した。なんだろう?

「何を書いているんですか?」

「たい焼きの屋台の道具よ」

 見せてくれた。

 テーブルの台にあのナリミヤ氏の型が、並んでいる。

 ん? たい焼きと回転饅頭の型が10個ならび、一列につき、五個焼けるみたい。一回で五十個焼けるのか。

「火はどこに?」

「火はないわよ、直接型に熱を通す仕組みよ」

「はい?」

「だからね、火は使わないの。構造は難しくないけど、使わない型には熱が通らないようにしたくて」

 はい、わかりません。

 途中でアルフさんも参加。

「出来ます?」

「出来るわ出来るが、魔石がかなりいるぞ。それに、これはなあ」

 歯切れ悪いアルフさん。

「これは、特許取った方がいいぞ。下手に真似されて、下手な構造で模倣されたら事故に繋がるぞ」

「「「あ」」」

 慌てて構造を練りだす。

「そんなに急がなくても」

 私が言うと、マリ先輩は顔を上げる。

「新年の屋台に出したいの」

 いえね、あなた、ライドエル屈指の財力を持ち伯爵令嬢ですよ。

 まあ、楽しそうだから、いいかあ。

読んでいただきありがとうございます

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