休憩⑥
あずき
目を覚ます。
知らない天井だ。
「ピィピィ」
「あ、ルナさん、起きました?」
アーサーがあわてて来る。
「ここは?」
「鍛治師ギルドの仮眠室ですよ」
アーサーによると、あのあとやっぱりぶっ倒れた私は、血相変えたアルフさんにより運ばれたと。
しかし、つわりとな。
まあ、症状聞いただけなら、勘違いする内容だよね。だが、ないない、私がアルフさんの子供? ないない、あり得ない。
さみしい。
違う違う。
「あ、お弁当は?」
「ルナさん、今それどころじゃありませんよ」
アーサーがドアの外を指差す。
起き上がると、ショウが心配そうについてくれる。うん、賢い、優しい、さすが、マリ先輩が主人だ。
ドアから覗くと、鍛治師ギルドのドワーフ達が小さくなって座っている。ギルドマスターまで。おじいちゃんドワーフダビデさんは椅子だ。
その前に腕組みしたアルフさんと、銀色の髪をうねらせた、あれ、あれ?
「メデューサがいる」
「リツ様ですよ」
アーサーがツッコミ。
こんこんと説教してる。
まあ、内容はあれだ、つわりだ、アルフさんだ、婚前交渉だ、いろいろだ。
しばらくこんこんと説教が続くが、アルフさんが私に気づく。
「ルナ、大丈夫か?」
「あ、はい、大丈夫です。あの変なことになってすみません」
「勝手に勘違いしたほうが悪い。さて、帰るか。ということで、儂しばらく休む」
「そんなアルフっ」
バルハさんが悲鳴を上げる。
「しらん、せっかくここまで回復したルナを気絶させよって。最低でも魔道炉が治るまで来んからな」
ふん、みたいなアルフさん。
「「「「「アルフー」」」」」
野太い悲鳴。
「さあ、ルナちゃん帰りましょう。目眩とかない?」
「だ、大丈夫です」
後ろの絵面汚い。ゴツゴツドワーフがダクダク涙流してる。
なんだかなあ。
結局帰ったけど、私はアルフさんに抱えられる。そう久しぶりに魔の森の時みたいに、片手で。子供卒業しようって決心して一週間しか経ってないのに、早速迷惑かけてます。
「あ、歩けます」
「ならん、病み上がりにさっき気絶したのに、何を言っとる」
帰り際、おじいちゃんドワーフダビデさんが申し訳ない顔で、袋を差し出す。
「勘違いして悪かったなお嬢さん、さあ、豆だよ。アルフが前に聞いたものだ。持っておゆき。北のカラーラ産だよ」
「あ、ありがとうございます」
うん、ダビデさんはこうでなくては。マリ先輩に渡そう。
恥ずかしさて気絶したかったけど、気絶してら心配させるからね。我慢して意識を保つ。
帰ったら案の定心配されたけど、無事に豆はマリ先輩に。中身を確認したマリ先輩が狂喜乱舞。
「小豆ーッ」
ローズさんが無言で肩を押さえた。
次の日。
マリ先輩が満面の笑みでおやつを出してくれた。
小さなパンケーキが二段になってる。
間には黒っぽいペースト。
「さあ、どら焼よ。どうぞ召し上がれ」
マリ先輩の前世の故郷の味だね。
昨日ずいぶん豆をことこと煮ていたけど。時間かかるんだね。
いただきます、きりっ
ぱくり。
うん、ほんのり甘いけど、くどくない。初めての甘さだ。
「本日は緑茶でございます」
あ、いただきます、ずー。うん、合う。
小さいからぺろり。
「どうルナちゃん?」
「美味しいです。甘さが、なんというか、優しいというか」
「そう、良かった」
嬉しそうに笑うマリ先輩。うん、かわいい。
「ピィピィ」
ショウがもっと欲しいとマリ先輩にすり寄っている。
「ごめんね、もう、ないのよ。後はナリミヤ様のだけよ」
「ピィピィ」
「確かカラーラ産だったわよね? カラーラってここから近いのかしら?」
リツさんが聞いてくる。
「カラーラはここからならマリベールを経由して、20日程です」
ローズさんがさっと返答する。
「そう、確か水の日の魚もカラーラからのものよね? 港が大きいのかしら? 一度行ってみたいわ。牡蠣とか貝系か欲しいし」
お悩みリツさん。
「ダンジョンありましたよね。大陸最大の」
私がぽろっと言うとすごい視線が来る。
「ダンジョンはいいわ、しばらくいいわ」
「そうね、フィーラ・クライエで十分よ」
「しばらく、こちらを拠点といたしましょう」
リツさん、マリ先輩、ローズさんが必死に言ってくる。
いや、あの、あんなにダンジョン言ってたくせに。
「でも、この黒いの美味しいです」
「そ、そう?」
今度はマリ先輩がお悩みモード。
しばらくして、錬金術チームが相談している。
「貝って栄養いいわよね?」
「クラムチャウダーとかなら、ルナちゃんしっかり食べるかも」
「確かに、食事量は戻ってきましたが、まだ、半分程です」
「でも、20日よ。往復1ヶ月もかかるわ。ルナちゃんを置いていけない」
「アルフさんだって、その間に魔道炉の修理終了しゃうわ」
「あの方にご相談では? この豆もお渡しする予定でしたし」
「「そうね」」
話がまとまったようです。
リツさんが携帯電話で、あの方、残念金髪美形に連絡を取る。
「はい、小豆を手に入れたくて。はい。ちゃんとあんこになってますよ。はい、はい。あ、ルナちゃんですか? はい、先週くらいから。はい、そうです、ありがとうございます」
話がついたようだ。
「来月。皆でカラーラに行きましょう」
来ますか、残念金髪美形が、あの爆走スレイプニルで。
「カラーラって?」
ミーシャが聞いてくる。
「クリスタム第二都市だ。海に面して、大きな港がある。大陸最大のダンジョン、青龍の棲みかの入口の町だな」
アルフさんが説明している。
「海? 海に行くの? 初めて」
きらきらミーシャ。
私も初めてだ。アーサーとサーシャとミーシャ、もちろんアルフさんもだ。
「さて、食事の準備ね。まあ、小豆と貝の仕入れだけだから、そんなに長居はしない方向で」
リーダーリツさんが言う。はい、異論ございません。
「あ、そうそう、すっかり忘れていたわ。ルナちゃんに宝飾品の買い取り分渡さないと」
「い、いりませんよ。さんざん迷惑かけたのに」
私は首を振る。とんでもない、貰うわけにはいかない。
「ダメよ。こういうことはしっかりしないと」
必死に首を振るが、リツさんの押しの強い笑顔に負ける。
渡された大金額10枚に、私は気が遠くなりそうだった。
なんでも、二回目のダンジョンアタックで得た宝飾品は、ナリミヤ氏は受け取らなかった。私がダンジョン症になったのではないかと責任感じていたらしい。違うのに。
まあ、ダンジョンで得た香辛料や新しいメニュー出来たら、譲って頂けたらいいよ、くらいらしい。
本当に大富豪ね。
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