表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
228/386

休憩①

ダンジョン症?

 瞼が、重い。

 なんとかこじ開ける。

 見慣れた天井だ。トウラのリツ邸の私の部屋だ。

 嘘? まさか? まさか?

「ルナちゃん。起きた? 大丈夫?」

 心配そうな声。マリ先輩だ。

「マ、リ先輩……」

「分かる? ルナちゃんのお部屋よ」

 私はからからして上手く声が出ないけど、なんとか頷く。

 私の返事に心底安心した顔をするマリ先輩。

 違う、安心したのは私だ。マリ先輩がいる。マリ先輩がいる。嬉しくて涙が浮かびそうだ。

「ルナちゃん、喉渇いてない? お水飲める?」

「は、い」

 私は起き上がろうともがく。ダメだ、上手く体が動かない。マリ先輩が背中に手を入れて、支えてくれる。

「すみ、ません」

「いいのよ。ゆっくりね」

 マリ先輩はカップを私の口に当てて、ゆっくり傾ける。

 冷たい水が、からからの喉を流れていく。

「ルナちゃん、もう少し休む?」

「は、い」

「分かった。ルナちゃんが寝るまでいるね。何かあったら呼び鈴鳴らしてね。たまに見には来るけど。動く時は必ず呼んでよ」

 私は頷く。

 確か、ダンジョンのボス部屋前にいたけど。あれは夢かな? いや、こっちが夢? 分からない。

「マリ、先輩。皆、いますか?」

「いるわよ、もちろんいるわよ。リツちゃんはプリン作ってるわ。ルナちゃんに食べて欲しいって。アーサー君は畑で野菜たくさん収穫してる。新鮮野菜、食べて欲しいって。サーシャ君達手伝っているのよ、ローズとリーフ君はリツちゃんのお手伝いよ」

 ああ、あれが夢か。悪夢だ。最悪の悪夢だ。でも、なんで、あんな夢を見たんだろう? あら、マリ先輩の話の中で出てこなかった人がいる。

「アル、フさんは?」

「いるわ。ずっと近くにいるわ」

 マリ先輩は立ち上がる。

「変わるね」

 ドアに向かう。

「じゃあアルフさん、お願いしますね」

「分かった」

 アルフさんの声だ。なんだろう、視界が歪む。

 いつものラフな格好のアルフさん。マリ先輩の代わりに部屋に入って来た。ドアの近くいたんだ。

「ルナ、具合、どうだ?」

 アルフさんの顔に、傷はない。ああ、良かった。

「どうした? ルナ?」

「だって、だって………」

 私の声、涙声じゃないよね?

 アルフさんはベッドに膝を着き、私の頬をゴツゴツした手で包み込む。

「何も心配いらん。皆、ここにおる。大丈夫だルナ。大丈夫」

 優しい声で、大丈夫と繰り返すアルフさん。


 儂を、頼れ。


 私は、アルフさんにすがり付く。

 怖い、怖い、怖い。

 いつか、私の存在が皆に、災いになるのではないだろうか? あんな悪夢を見たのだ、もしかしたら予知夢なんてことないよね? 私はそれだけが怖かった。

「大丈夫だ、大丈夫だルナ。大丈夫」

 優しく抱き締めて、私の頭を撫でるアルフさん。

「ルナ、大丈夫だ。儂はここにおる。皆、おる」

 何度も何度も、大丈夫だと言ってくれるアルフさん。

 私はそれでも不安で不安で。

 あれは、まさか、前世の記憶に関連したものだと思う。コードウェルであまりにもあの悪夢を見て、いつか、本当になるんではないかと悩んで。最終的な決定打は、学園でかけられた暴行の冤罪だけど、無実が証明された事だ。あの時、全く関係ない女子生徒が犠牲になって、あれでもうダメなんだと思って。その女子生徒はちゃんと治療を受けたと聞いたが、学園から姿を消した。

 私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。

 私がいたからだ、女子生徒は暴行されたのだ、私に罪を着せるために、女子生徒が犠牲になったのだ。

 もう、潮時だ。

 あまりにもコードウェルの家が居心地よくて、だらだらいたけど、もう、限界だ。いつ、私を理由に優しい両親や、かわいいエリックとジェシカに災いが降りかかるか分からない。

 だから、学園の寮に中退の旨を書いた手紙と、コードウェルへの手紙を残して、私はライドエルを出た。

 だが、今度は、リツさんやマリ先輩達だ。

 まさか、まさか、とは思う。ここはライドエルではない、クリスタムだ。夢の中で、彼はあの時のままだ。前世で最後、私に駆け寄ってくれた友人。今の私に加護を譲渡してくるた彼。生きていたら、80近い高齢者なのだ。夢の中だ、だから、あのままなんだろうけど。

 ダメだ、頭、回らない。

 最近、あの頃の夢は見なかったから油断していたのか? 忘れるなって、警告するために、彼が出てきて、皆を殺したのか?


 おまえのせいだ。


 おまえのせいで、こじいんのみんな、ころされた。


 おまえのせいで、いまのみんな、ころされた。


「怖い………私、怖い…………」

「ルナ」

 ガタガタ震える私を、アルフさんは何度も何度も頭を撫でて落ち着かせようとしてくれる。でも、私の震えは止まらない。涙もぼろぼろ零れる。

「大丈夫だ、ルナ、ここおる。大丈夫だ」

 アルフさんが、ずっと、抱き締めて、頭を優しく撫でてくれる。

 いつの間にか、私は再び眠っていた。


「あら、ルナちゃん寝ちゃった?」

 ボス部屋前で、休憩していた時にルナがアルフに寄りかかり眠っていた。年相応の寝顔で。

「疲れているんだね。彼女が起きるまで待とう」

 ナリミヤもそう言って再び腰を下ろす。

「ナリミヤ先輩、コーヒーいかがですか?」

「頂くよ、ありがとう斎藤君」

 リツとマリが手分けしてコーヒー配布。ナリミヤとアルフ、アーサーはブラック、リツとローズは砂糖とミルクを少し、リーフはたっぷりのミルク、マリと三兄妹はたっぷりのミルクと砂糖だ。

 しばらくのんびりしていると、眠っていたルナがうなり声を上げだした。

 それが、尋常ではないことになっていった。

 うわ言のように、何かを口走りだしてから、異変が起きた。

 アルフがルナを軽く揺すって起こそとした、明らかに悪夢にうなさるているようだったからだ。だが、ルナは一向に目を覚まさない、身をよじり、うわ言を繰り返す。

「ルナちゃん、ルナちゃん、どうしたの?」

 リツもマリも心配そうに覗き込むが、ルナは起きない。

 それどころか、うわ言ははっきりし始める。

 やめて、やめて、嘘、やめて。

 繰り返す言葉に、アルフの顔から血の気が引く。

「ルナ、しっかりしろッ」

 アルフが軽く頬を叩く。

 やっと、目を開けたルナに一堂が安心したのもつかの間。

 ルナと発狂したように悲鳴を上げた。

「やめてッ、やめてッ、やめてッ」

 明らかに正気を失ったようなルナは、四肢を狂ったように振り回す。

「どうしたルナッ」

「ルナちゃんッ」

 アルフが暴れるルナを抱き締め。それでもルナは叫ぶ。

「やめてッ、やめてッ、やめてッ、ウグウッ」

 ルナが体を丸めて、激しく嘔吐する。何度も、嘔吐する。

「やめて……やめて………」

 騒然となる中で、ルナはうわ言を繰り返す。

「もう、殺さないで、ローグ」

 そう呟いて、ルナは意識を失う。

 ナリミヤが、ルナの頭に何かの魔法をかけた。

「ルナに何をかけたッ」

 アルフがナリミヤに食って掛かる。

 いつも冷静なアルフが。だが、誰も気にしない、いや、できない状況だ。

「眠っただけだよ。夢も見ないくらいに深くね。さあ、ダンジョンを出よう。松美達と合流したらすぐに」

 ナリミヤはアルフにも魔法、浄化をかける。ルナが激しく嘔吐し、アルフのマントと鎧が吐瀉物だらけだ。きれいになったマントと鎧に、やっと、アルフはいつもの冷静さを取り戻す。

「申し訳ない。取り乱してしまって」

「いいや、僕も配慮が足りなかったんだ。彼女、きっとストレスたまっていたんだよ。平気そうにしてて、うっかりしてたよ。もしかしたらダンジョン症かもしれない。すぐに出よう。これでダンジョンアタック終わるけど、いいかい?」

 ナリミヤの言葉に、真っ青になったリツは頷いた。

 それから、グレイキルスパイダー三姉妹と合流。最下層のボス部屋はナリミヤが一瞬で敵を消滅。ボス部屋の奥に出現した脱出用魔法陣で、地上に戻った。

 こうして、二回目のダンジョンアタックは終了した。

読んでいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ