嗜好品④
流血表現あります。ご注意ください。
短いです。
予定日数、20日を過ぎて既に3日。
「もうちょっと延長する?」
ナリミヤ氏がチョコレートを齧りながら言う。
リツさんはお悩みモード。
「そうですね。最下層のボス部屋の香辛料、もう少し欲しいですけど」
そう、最下層のボス部屋の宝箱は、必ず香辛料が入っている。
カレーの材料の香辛料が出たり、バニラビーンズというのが出た時はマリ先輩が発狂せんばかりの喜びようだ。お菓子の材料らしい。
まあ、カレーや美味しいお菓子になるなら、精一杯戦いますよ。
バニラビーンズ、と繰り返すマリ先輩。
「ホリィさんには1週間くらいはずれ込むって言ってありますし。皆、あと3日くらい大丈夫かしら?」
もちろん異論はない。
食料が尽きてかけているが、新たに手に入れたお肉をリツさんやマリ先輩が調理している。
「おにぎりはないけど、ご飯があるわね。パンは食パンとコッペパン、バケットが残っているし。卵もたくさん、チーズ、マヨネーズもケチャップも大丈夫。お味噌も醤油、オリーブオイル、塩も大丈夫。十分あるわね。野菜もまずまず、魚はなくなっちゃったけど」
食糧担当のマリ先輩がチェック。
延長決定だ。
「さて、カカオ部屋行こうか」
ナリミヤ氏が腰を上げる。この人昨日呟いたんだよね、越えたって。
レベルよね。300越えたのよね。
なんなのこの人。
私はアルフさんと思わず、顔を見合わせたよ。
あら、ここ、リツ邸だ。いつ帰って来たんだろう。玄関ホールだよ。
おかしいなあ、さっきカカオ部屋から出て、最下層のボス部屋前で休憩していたのに。
私は玄関ホールに入る。
「リーフ? どうしたの、こんな所に寝て」
玄関ホールの真正面には二階に繋がる階段がある。その下で、金髪を広げたリーフが階段に寄りかかるように座っている。長い睫毛の瞼は降りている。
「リーフ?」
私は肩を軽く触れる。
ぱた
「え?」
リーフが横に倒れる。
「え?」
血が、金髪の下から流れ出る。
「嘘、嘘、リーフ、リーフッ」
私は慌ててリーフのそばに座り込み回りを見る。リツさんかマリ先輩を呼ばないと。
「え? 嘘、嘘」
探そうと視線を上げた瞬間、台所に続く廊下に、小さな銀髪が見えた。耳が力なくへたっている。
「ミーシャッ、ミーシャッ」
駆け寄ると、ミーシャとすぐ近くにアーシャとサーシャが重なるように倒れている。二人の下には、血の海だ。ミーシャを抱えると、小さな手がだらりと下がる。サーシャもアーシャの顔に血の気がない。
「ミーシャッ、ねえ、ミーシャッ」
嘘、嘘、嘘。
私は訳が分からず、叫ぶしかできない。
なんで、どうして?
リツさんは? マリ先輩は? ローズさんは? アーサーは? アルフさんは?
なんで、いないの?
まさか、まさか。
私はミーシャを横たえて、震える足で台所に向かう。
「嘘………嘘………」
まず、目に入って来たのは、真っ白な毛並みを真っ赤に染めたショウが、だらしなく力なく翼を広げている。そのすぐそこで、ノゾミを抱えたマリ先輩と、そのマリ先輩を抱えたローズさんが倒れている。もうその顔に生気はない。
「マリ先輩? ローズさん? 嘘、嘘………」
私は首を左右に振る、ダメだ、頭がついてこない。
「アーサー? リツさん?」
奥の使用人部屋に続くドアの前に、リツさんが、そのリツさんを抱き締めてアーサーが倒れている。アーサーの白いシャツは真っ赤に染まっている。
「嘘だあぁ………」
私は膝を着く。
なんで、どうして?
ガタンッ
物音がする。
誰か、いる?
私はまるで促されるように、物音の方に向かう。使用人部屋に続くドアを開ける。
「アルフさん? アルフさんッ」
そこには、まさかとは思っていたが、アルフさんが倒れている。駆け寄ってアルフさんの顔を抱えると、私は息が詰まる。
額から右目にかけて、走っているのは刀傷。おびただしい血が、抱えた私の腕に流れ落ちる。もう、誰の血がついているかなんて分からない。
「嘘、嘘、アルフさん、アルフさん………」
涙が噴き出して来た。
嘘だ。嘘だ。
「きゃぁぁぁぁぁぁッ」
悲鳴が上がる。
ホリィさんの悲鳴だ。
「お母さんッ」
「きゃぁぁぁッ」
「うわぁぁんっ」
泣き叫ぶ、アンナ、クララ、ルドルフの声に弾かれたように私は立ち上がる。
奥の使用人部屋のドアを開けると、うつ伏せに倒れたホリィさん。壁際にルドルフを抱き締めたクララ、その二人が抱き締めているアンナ。
「お姉ちゃんッ、怖いようッ」
「お母さんッ」
「うわぁぁんっ」
泣き叫ぶ三人の前に、立ち塞がるのは、ライドエルの騎士の鎧を来た青年。手には血を滴らせた剣。
「やめて、やめて、やめてッ」
私は叫ぶ。
振り返った青年の口が動く。
おまえのせいだ。
「やめて、やめてッ」
私は飛び出すが、剣は無情にも、振りかざされる。
「やめてッ。お願いやめてッ」
剣は血を撒き散らしながら、振り払われる。
「うわぁぁんっ」
泣き叫ぶルドルフ。
アンナとクララはもう叫ばない。
「やめて、お願いッ」
飛びかかる私は、あっけなく振り払われる。
「やめて、お願い」
私は手を伸ばす。
狂った様に泣き叫ぶルドルフに、青年は再び剣を振りかざす。
「やめて、お願い、ローグッ」
私は小さな体から噴き出した血に、私は、絶叫した。
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