嗜好品①
トロピカル
やって来ましたフィーラ・クライエ。
リーフの実家は当然無視。
元気にスレイプニルが爆走。グレイキルスパイダー三姉妹も着いてきてる。お世話になります。
問題なくフィーラ・クライエ到着。例の警備兵はまたポーションと煙玉をくれた。
15階がセーフティゾーンまでワープストーンで移動。
「一応、松美達の子供達に潜ってもらったけど。25階のボス部屋前まで調査済んでるけどね。カカオは見つかってないんだ」
ふーん。
ダンジョンに入って僅か4日で25階まで到着。
ボス部屋前で一泊。
リーフがぶつぶつ。
「ダンジョンアタックだよね? ダンジョンアタックしているんだよね?」
分かるよリーフ。
一応戦闘してる。もちろんグレイキルスパイダーの接待戦闘だ。ただ、レベルの低いミーシャとノゾミと一緒に後方に控えるようにしている。護衛についた梅代が、魔物をぐるぐる巻きにして転がしている。戸惑いながらも、止めを刺している。
「はい、ルナちゃん。サンドイッチとコーンスープよ」
「いただきます」
きりっ
次の日。25階のボス部屋突入だ。
「では、開けます」
ナリミヤ氏が押し開ける。
中には今までで一番広い空間だ。小型のトレントが並んでいる。種類様々だ。
「アボカドッ、キウイッ、ココナッツッ」
「ライチッ、バナナッ、マンゴーッ」
マリ先輩とリツさんが叫ぶ。
「パイナップルッ」
ナリミヤ氏も叫ぶ。
「殲滅ッ」
ロングソードを振りかざし、ナリミヤ氏が叫ぶ。
「「イエッサーッ」」
蹂躙劇です。
私はリツさん、ローズさんはマリ先輩を押さえる。残りのメンバーはドロップ品を必死に拾っている。
最後のトレントを倒して出てきた宝箱。竹子に見守られて、サーシャが開ける。
くたびれた袋と、ルビーの指輪とイヤリングが入っていた。くたびれた袋はマジックバックだ、容量は私のマジックバックの半分、時間停止だ。マジックバックだけ、リツさんがもらっている。ホリィさんに預けると。アーサーの畑の作物を入れるためだ。贅沢な使い方だ。
「うふふ、アボカド」
「うふふ、マンゴー、キウイ、バナナ、ライチ、パパイヤ」
「サイトウ君ッ、パイナップルってどうやって切るんだっけ?」
やめて、そのロングソードでその見たことない、ボサボサの野菜みたいなの切らないで。
「こっちにください。真っ二つにはしませんよ」
リツさんが手際よく包丁で、スパスパ切っていく。刺々しい中身は黄色の果肉だ。リツさんの手で台形の黄色の果肉になっていく。
「甘そうね。さ、ナリミヤ先輩どうぞ」
「ありがとうサイトウ君ッ」
ばくばく食べる大富豪ナリミヤ氏。
私も頂いた。ちょっと繊維が多い感じだけど甘酸っぱくて美味しい。
ドロップ品はすべて果物だ。
マジックバックが出たのにも納得。ドロップ品の果物の為にだね。良くできている。
マンゴーやキウイ、パパイヤ、ライチ、バナナを少しずつ頂いた。みんな美味しい。マリ先輩がお菓子にしてくれると。
「ナリミヤ様、しばらくこのボス部屋で往復できません?」
マリ先輩がキウイ片手に訴える。
「そうだね。下層には松美達にお願いしよう」
賛成です。さ、ボス部屋復活時間はどれくらいかな? ボス部屋は一旦魔物を排除すると、復活するまで時間がかかる。一時間で復活することもあるけど、数日かかる場合もある。下の階からボス部屋に入っても、ボス部屋は空だ。これがダンジョンの不思議だ。
結局、グレイキルスパイダー三姉妹が潜り、私達はこのボス部屋の往復となる。
数日後。
「飽きた」
ミーシャが訴える。アーシャが、しっ、とたしなめる。
確かに私もそうだけどね。
リツさんとマリ先輩が止まらない。
「トロピカル、トロピカル」
言いながら。まあ、リツさんが喜ぶからアーサーが気合いが入り、マリ先輩が喜ぶからローズさんとショウが張り切る。たまに別の階に行ったりして気分転換。
アルフさんの様子がちょっとおかしい。いい意味で。もともと土魔法と槍術のスキルレベルが50を越えて達人レベルに達しているアルフさん。スキルレベルは50を越えると更に補正がかかり、戦闘スキルだと、武器、アルフさんの場合槍は動きが洗練され、土魔法だと常に補助付きで発動する。ただ、スキルレベルが50を越えて、鍛練とか怠るとレベルが下がるのだ。なので、常に油断できないため、スキルレベルが50を越えると「壁を越える」と言う。そして自身のレベルが20を越えると少しずつ基礎能力に補助がかかり、ある数値を越えると一度だけ、一気に補助が加わる。
ある数値とは、レベル100。
熊の群れを遭遇した時に、急にアルフさんの動きが加速した。小型の斧で瞬く間に制圧。
ああ、あれは越えたな。
「アルフさん」
「ん、なんだルナ」
「越えましたね」
「そのようだ」
アルフさんは斧に付いた血を払う。あ
「これくらいにならんとな。やっと鎧に見合うレベルだな」
ステータスチェックはダンジョンアタックの後だ。どれくらい上がったか気になるが、私も追い付かないと。
ドロップ品の肉や毛皮、肝等を拾いながら、気合いを入れる。
あの赤髪エルフは200越え、私では手も足も出ない。せめて、斬り結ぶだけのレベルにならないと。レベル100では足りない。少なくとも150は最低限レベルだ。今の倍だ。後二年弱。
「ルナ、どうした? 難しい顔をして」
アルフさんが毛皮を抱えて止まっていた私を覗き込む。
「いえ、何でもないです。アルフさんとレベルの差が広がるなって思って」
「儂はもともと80越えとったしな。ルナ、いいな、焦るな。分かるな?」
「……はい」
顔に出てたかな? 私が内心焦っていたの、気づかれてしまった。
「ルナちゃん、アルフさん、行きますよ」
リツさんの声。
「分かった。さあ、ルナ行くぞ」
もう一度アルフさんが言う。
「焦るなルナ。儂がおる。儂を頼れ、いいな?」
「はい」
相変わらず優しいアルフさん。
腕に抱えていた毛皮を持ってくれた。
嬉しい反面、罪悪感が沸く。アルフさんの『惚れた女』さんにだ。本当にどんな人なんだろう?
罪悪感を悟られまいと、私は必死に隠してアルフさんとリツさんの元に向かった。
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