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スキルアップ①

宿にて。

「前世ですか?」

「うん、そう」

 神界から帰ると、時間はまったく時間が過ぎていない。置いてきぼりのローズさんは、姿の変わったリツさんに随分驚いていたが、マリ先輩の説明?を聞き納得。

 その際加護の話になり、マリ先輩は恐る恐る前世の話をローズさんにした。

 マリ先輩から出てきたアイディアは、すべてニホンにいた時の記憶だそうだ。魔道具もコロッケもすべて。

「ローズ、やっぱり、私のこと変で気持ち悪い?」

「何言っているんですか? はあ、今までおかしいおかしいとは思っていましたが、前世の記憶ですね。合点がいきましたよ。マリ様が令嬢らしからない言動はそこからなんですね。胸のもやもやが無くなりましたよ」

「うっ、それで私の事は?」

「何も変わりません。マリ様はマリ様ですから」

「ローズ…大好き」

 ひしっとローズさんの腕にすがり付くマリ先輩。やはり前世の記憶持ちと、気味悪がられるのを恐れていたのだろう。変わらないローズさんに、マリ先輩は嬉しそうだし、ローズさんも嬉しそう。

 宿に帰りがてらそんな話をしている。美人に可愛い少女がすがり付いている。

 ナリミヤ氏が心配で宿まで付いてきてくれてよかった。絶対絡まれる。しかも、フードを被っているが、これまた可愛いリツさんもついてるし。

「で、ルナちゃんの前世は?」

 あ、やっぱり来た。

 バートル様との話、聞かれてたか。

 誤魔化し効かないだろう。一息ついて、私は話し出す。

「確かに前世の記憶ありますよ。でも断片的です。私の戦闘スキルはその影響です。まあ、詳しくはお話できません、前世に関わっている人に迷惑がかかる恐れがありますから」

「そうなんだね」

「秘密でお願いします。確実な記憶は無いんです。迷惑をかけたくないので」

「分かったルナちゃん」

 よかった、マリ先輩納得してくれた。嘘ついてないし、彼の話はできるだけ避けたい。絶対に迷惑かかる。

 ローズさんは「だからあんなに強いんですね」と呟いている。もしかしたら私のレベルの高さはバートル様の加護があるかもしれない。最近戦闘してないから、まったく上がってないけど、今日のエルフとの戦闘で風魔法、気配感知、魔力感知、索敵のスキル上がっていた。やはり強者との戦闘のあとはスキルが上がる。

 なんとあのエルフ、レベル200超え。敵うわけない。あの一撃加えられたのは、ひとえにエルフが動揺しただけで、私の実力じゃない。ナリミヤ氏に見つかったくらいで動揺するならヤらなきゃいいのに。ナリミヤ氏は更に高いとな。しかもなんとナリミヤ氏はクレイハート製の魔道具のアドバイザーで、マリ先輩と顔見知りだった。ローズさんが言ってた『ある方』だ。何年も前にライドエル王国で一度会っていた。その時にお互いにニホンから転生したことに気がついたらしいが、沈黙を守ることにしたと。それからナリミヤ氏はクレイハートの魔道具に関わるようになり、発展に拍車をかけたそうだ。ローズさんが持っているマジックバックもナリミヤ氏製、マリ先輩の成人のお祝いで贈ったそうだ。まあ、多分使い方を間違えないようにローズさんが管理しているんだろう。マリ先輩はローズさんを全面的に信頼しているから。

 まあ、今回の件はあの『携帯電話』でローズさんからクレイハート家に連絡が行ったようだ。

 クレイハート家、どう出るかな? 無傷とはいえ、マリ先輩に剣を向けたし、ローズさんは軽傷とはいえ傷を負った。明らかな殺意を持っていたし、ナリミヤ氏の家人が起こしたことだ、知らないでは済まされない。

 春風亭までナリミヤ氏が送ってくれ、帰りしな当面の生活費としてリツさんに小袋を渡した。

「じゃあ、3日後に来るけど、いいかなサイトウ君?」

「はい」

 慰謝料的な話ね。リツさんはまだ考え付かないようで、時間をナリミヤ氏からもらった。

「僕のできることはします。だけど娘達は…」

「そこまでしませんよ。私は鬼じゃあありませんから」

 ナリミヤ氏が頭を下げ帰って行った。

 リツさんの宿泊手続きをし、その日私達は夕食も取らずに泥のように眠った。


 夢も見ないで朝を迎える。

 昨日は色々あったなあ。

 起き上がると、リツさんも起きていた。ローズさんがタオルを渡してくれる。マリ先輩は携帯電話に向かって話している。私、寝坊したかな。

 ローズさんにお礼を言って洗面終了。戻って来ると、携帯電話片手のマリ先輩に手招きされる。

「あ、ルナちゃん、ちょっと代わってもらえる?」

「シュタム様ですか?」

「ううん、お父様」

 クレイハート当主キター。

「わ、私にですか?」

「うん、昨日のお礼を言いたいって」

 昨日? 何かしたっけ?

 マリ先輩に携帯電話を渡され、反射的に受け取ってしまう。

 あ、昨日、マリ先輩とローズさんを守り切れなかった。どうしよう、コードウェル家のピンチかも。

「あ、おはようございます。はじめましてルミナス・コードウェルです」

『ああ、はじめましてルミナス嬢。クレイハート家当主、フレデリック・クレイハートです。娘のマリーフレアのわがままに付き合ってもらって本当にありがとう』

「いいえ、私は何もしておりません」

『…娘から話を聞いたよ。昨日、娘とローズを身を呈して守ってくれたそうだね。本当にありがとう、守ってくれて』

 あ、昨日のあれか。

「伯爵様、私は何もしておりません。それどころか私の力不足でローズさんはけがをしました。すべては私の力不足です」

『君は謙虚だね。エクストラヒールでも意識が戻らない程の大怪我をしたと聞いたよ。大丈夫なのかい?』

「はい、大丈夫です」

『すまないね。娘に関わったから』

「いいえ、本当に私の力不足ですので」

 そうです。私の力不足なので、でないでコードウェル家の名前。

『しかし、向こうはとんでもなく高レベルだったんだろう? それに無事なことをご実家に』

「両親には言わないで下さい。心配しますから」

 出てしまったよコードウェル家。

『そうかい?』

「はい、ちょっと事情がありまして」

 家出中だし、何より自分という存在が災いになりそうだ。

『なら、ご実家には伝えないが、いいのかい?』

「はい、お願いします」

『しかし、同じ親として、きっと心配されていると思うよ』

「はい、その、時期が来たら連絡します」

『そうした方がいいよ。ルミナス嬢、本当に娘を守ってくれてありがとう、本当にありがとう。きっと娘も今回の事で懲りたと思うんだよ。国に帰る時、近くまで付き合ってもらえないかな?』

 確かに私もそう思う。しかし、マリ先輩のことだからなぁ。諦めてくれたらもちろん国境くらいまではお供しますけど。

「それはもちろんです。伯爵様」

『では、娘と代わってもらえるかな?』

 やった、よかった、コードウェル家に慰謝料なんて要求されたら夜逃げしないといけないよ。

「マリ先輩、伯爵様です」

「うん、ありがとうルナちゃん。あ、お父様」

 ホッとあまりない胸を撫で下ろす。

「え、帰りませんよ。私、実感したんです、もっと魔法を極めて役に立ちたいし、あのエクストラヒールを使えて、どんなけがでも治せるようになりたいのです」

 あれ? マリ先輩? やっぱり懲りてない。

「だから、エクストラヒール。無理? そんなことないわ、ライドエル王国にも使える人がいるでしょ? 大丈夫、絶対に使えるようになって、最高の後衛を目指します」

 最後の方、めちゃくちゃテンション上がっている。最高の後衛って、貴方は伯爵令嬢なのよ。ローズさんに視線を移すと額を押さえて天を仰ぎ見ている。

 あ、なんとなく流れを感知。

 しばらく携帯電話越しに押し問答。

 引かないマリ先輩、何としても国に戻ってほしい伯爵様。

「そうだ。婚約者候補外れました? え、まだ? なら尚更帰りません。まず候補から外れないと帰りません」

 そんな話でしたね。まだ、婚約者候補なのね。

 あ、ローズさん、悟りの表情。

「え、ルナちゃん? ちょっと待ってください。ルナちゃん、もう一度話して貰える?」

「あ、はい、ルミナスです」

 携帯電話を受け取り、耳に当てる。

『ルミナス嬢、話聞こえていたかな?』

「はい、だいたい理解しております」

『ローズは?』

「悟りの境地のような感じになってます」

 向こうで、あぁ、と声が漏れる。見えないけど、先ほどのローズさんの様に天を仰ぎ見ているのが分かる。

『すまない、もう少し、娘の力になってもらえるかい?』

「はい、私のできることはすべて」

『本当にすまないね。ローズに代わってもらえるかい?』

「はい」

 ローズさんに携帯電話を渡す。

「ねえルナちゃん」

「何です?」

 携帯電話で伯爵様と話しているローズさんを見ていると、マリ先輩が声をかけてくる。

「エクストラヒールってどのくらいの光魔法レベルがいる?」

「さあ、かなりレベルが高くないと無理ですよ。国に何人も使える術者がいるわけではないですしね。レベルは高くなるにつれ、上がりにくくなりますから、長い時間と鍛練が必要ですよ」

「そっか、分かった。よし、一杯鍛練して、頑張ってレベル上げよう。どんなけがでも私が治してあげるからね、ルナちゃん」

 う、眩しい、笑顔が眩しい。

 多分、そう簡単じゃあないのよマリ先輩。まあ、時期を見て一度帰国を促してみよう。エクストラヒール使えるまで待ったら、マリ先輩のご両親は天寿を全うしそうだし。

 しかし、スキルアップか。

 せっかくクリスタム冒険者ギルド本部があるんだか、無料講座受けてみようかな。きっと模擬戦もあるだろうし、体術は微妙に低いし、スキルアップはけして悪くない。基礎をもう一度習うのもいいかも。

 うん、しばらくスキルアップに勤しもう。

 ローズさんが携帯電話を耳に宛ながら何度もお辞儀するのを見ながら、私は今後しばらくの計画を立てた。

読んだいただきありがとうございます。

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