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一旦休息④

特殊依頼

 ミュートには夕方到着した。

 グリフォンのショウの牽く馬車には、案の定警戒されたか、なんとか入れた。

 私とアルフさん、アーサー、三兄妹以外は初めてのミュートだ。

 ショウやノゾミも大丈夫な宿をギルドで聞いていると、見知った顔が駆け込んでくる。

「お久しぶりですっ、アルフレッドさん、皆さん」

 ビルツさんだ。息を切らせてやって来た。

「グリフォンと聞いて、まさかと思って来てました」

 私達もご挨拶。

「まさか皆さんも新しいダンジョンに?」

「まあ、そんな所か。明日には帰るがな」

「そうだったんですね。あの、良かったら、ヴェルサス隊長がお会いしたいと」

「儂に?」

「はい」

 何だろう、やな予感。

 まさか、指名依頼か? また、だだ捏ねないと。あ、いかん、私成人してる。アウトだ。

 アルフさんはちょっと考える。

「鍛治師としてか?」

「はい、そうです」

 なんだ、そっちの指名依頼か。安心。

「ちょっと考えさせてくれ。ヴェルサス殿にはどこに行けばいい?」

「隊長は今日遅くに戻った来ます。明日の朝まで騎士隊の詰所に詰めるそうたので、待っているそうです」

「承知した」

 ビルツさんは、私達に再び挨拶して帰って行った。

 アルフさんは、ちょっと息をついて振り返る。

「リツ。ちょっと後で相談に乗ってもらえんか?」

「構いませんよ」

 何だろう?


 宿が決まり、移動する。

 夕食はブラッディグリズリーの肉と野菜を炒めて、ご飯にのせたどんぶりだ。たまごとゴマのスープ付きだ。

 いただきます、キリッ。

「それで相談って何ですか?」

 リツさんが切り出す。

「恐らく、ヴェルサス殿から儂に指名依頼が来るだろうが、ちょっと問題があってな」

「問題?」

「鍛治師ギルドの魔道炉が壊れてな。今、儂の指名依頼を断っている状態なんだ」

 え?

 アルフさんの鍛治は魔道炉を併用してのものだ。それで他の鍛治師に比べて早く、上質に出来上がる。そしてアダマンタイトを使った物はどうしても魔道炉ではないと、アルフさんは扱えない。

 アルフさんと言えばアダマンタイト、それを作り出す大事な魔道炉の故障。あれ、大丈夫なの?

 魔道炉とは、魔力を操り鍛治を行うが、鍛治師自身に魔力が必要だし、操作能力が高くないとうまく使えない。アルフさんのように、レベルが高く、魔力保有量があり、魔力操作できる鍛治師には持ってこい。普通の炉でも出来ない訳ではないが、魔力の燃費が悪い。ただ、魔道炉は最近の技術のため、頑固気質のドワーフは使えない。

「いつまでもアルフに負担を掛けられん」

 と、ギルドマスターのバルハさんとおじいちゃんドワーフダビデさんが、声をあげた。

 アダマンタイトを扱える鍛治師が増えれば、アルフさんの負担が減る。それでアルフさんが魔道炉を使って指導をしていた。手を上げたのはバルハさんと若手二人。だが、なかなかうまく行かず。アルフさん自身も手探り状態で、アダマンタイトを扱えるようになっていた。ドワーフの鍛治は基礎以上は、見て覚える。なので、アルフさんはフル稼働で魔道炉を使って見せていたが、もともと新しくもない魔道炉で、アルフさんが使うまで埃を被っていた魔道炉は、一気に負荷がかかり先日破損。只今修理できる技師が来るのを待っている状態と。

「恐らく、3ヶ月以上かかる。ヴェルサス殿の依頼をうけれないんだ。ただな、実はナリミヤ殿からも、ちょっと頼まれてな。出来ればヴェルサス殿の依頼を受けてほしいと」

 ナリミヤ氏にとって、ヴェルサスさんは恩人。こちらに巻き込まれ召喚されて、レベルか1のときに、角ウサギに追いかけ回されていた際に助けてくれたのが、当時小隊長のヴェルサスさん。ヴェルサスさんはてっきり村の口減らしで追い出されたか、奴隷として売られるのが嫌で逃げ出して子どもと勘違いしていろいろ助けてくれたと。自分が依頼を受けれたらいいのだが、大陸最高ランクの冒険者で、とんでもないコネと人脈を持つナリミヤ氏が、たった一人の中隊長の依頼を受けることができないそうだ。なんでも、あちこちの国の上層部から釘をあちこち刺されているらしい。

 ナリミヤ氏は今回のダンジョンの整備に当たって、久しぶりにヴェルサスさんと再会。楽しい食事をしたそうだ。その中でアルフさんに指名依頼したいが、冒険者と兼務しているため、中々受けてもらえないと話が出た。しかも魔道炉は故障し更に依頼できない状況。

 実は野良ダンジョン周囲の整備が済んだ後に、ミュートの騎士隊と冒険者パーティーがダンジョンの調査に数回に分けて入ることになり、第一陣の騎士隊からはヴェルサスさん含めた精鋭5名。ほとんど解明されていない、野良ダンジョンだ、装備を揃えて挑みたいと。

 その話を聞いて、ナリミヤ氏はどうにかならないかと悩んで、整備中にアルフさんに相談してきたと。ヴェルサスさんは大事な恩人。だが、自分は依頼を受けれないからと。

「儂に工房があれば話は早いが、リツの魔道炉だからな」

「あら、そんな事なら構いませんよ」

 リツさんが軽く答える。

「話はそれでは収まらんのだ。一緒に潜る冒険者パーティーがおるだろう、バーンのおる『ハーベの光』とフレナの『紅の波』も同行する。ナリミヤ殿は駆け出しの頃に、この二人にずいぶん世話になっとるから二人の依頼もなんとかならないかと。そうなると儂一人では、ちょっときついんだ、リツ達に手伝ってもらう必要が」

「あら、全然構いませんよ。ねえ、皆」

 リツさんがマリ先輩とローズさんに振り返る。

「そうね、皆さんにはお世話になったし。久しぶりに錬金術師らしいことできるわ」

「問題ありません」

 二人ともヤル気満々。

「はいはい、アルフさん質問」

「なんだマリ?」

「今回はマルコフさんの時と同じ特殊依頼になるんですか?」

「そうだな、そうなる。リツの魔道炉を借りんといかんからな。儂が個人的に受けたとなると、ちょっと厄介でな。鍛治師ギルドに迷惑がかかる恐れがあるから。リツのパーティーに特殊依頼を出して受けたとしたほうがいいんだ」

「分かりました。なら、後で騎士隊の詰所に私も行った方がいいですよね」

「頼めるか?」

「もちろんですよ、皆さんにはお世話になってますから」

「感謝する。後で携帯電話でナリミヤ氏に、受けることを知らせて貰えるか? ずいぶん気にされておったからな」

「分かりました」

 夕食後、アルフさんと錬金術チームとヴェルサスさんに会うために、詰所に出掛けた。

 ずいぶん待って帰って来た二人。

「お帰りなさい、ずいぶん遅くなりましたね」

 ちょっと疲れたようなアルフさんに、私がそっと聞く。

 何故かテンションが高い錬金術チーム。

「ちょっとな、皆が張り切ってな。ダンジョンに潜る騎士隊の装備を手掛けることになった」

 え?

「まあ、フル装備とまではいかんが、明日の昼に全員ここに採寸やらのために来るそうだ」

「だ、大丈夫なんですか? なんか嫌な予感するんですけど、リツさん『ハーベの光』や『紅の波』の装備も揃えるっていいそう」

「お前もそう思うかあ」

 アルフさんは肩を落とした。

「さあ、明日から忙しくなるわよ」

 ルンルンなリツさん。

「皆さんの希望聞かなきゃ。リーフ君、皮の付与手伝ってくれる」

「はい、マリ様」

 ウキウキなマリ先輩。

「サイズを測らなくてはなりません。後、材料の在庫確認を」

 ワクワクなローズさん。

 あ、これ、止まらなそうよ。

 次のダンジョンアタックまで、ご飯作って待ちましょうなんて、ミュートに来るまでの間に話してたのに。

 忙しくなるなあ。

読んでいただきありがとうございます

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