リーフ③
友達
謝るナリミヤ氏を立たせる。
とにかく今日中にマリベールに帰りたい。ナリミヤ氏にしかスレイプニルは従えない。
慰霊碑にもう一度リーフとナリミヤ氏が祈りを捧げる。
二人が落ち着き、やっと馬車に乗り込むが、リーフと同年代の少年が駆け寄って来た。
馬車に乗り込もうとしたリーフが慌てて降りる。
「リーフ、リーフッ」
「キラス、どうして?」
「リーフ、騎士隊辞めたって聞いて、やっぱり、ここに来たな」
キラスは息を切らしてやって来た。
「辞めることないよ。俺、お前の隊長に言ってやるから、だからさ」
「キラス、ありがとう、でももう、いいんだ」
どうやら騎士学校時代からの友人で、あのレイチェルの暴力から守るために、リーフを匿っていた友人だ。
「なあ、リーフ、ダグラスさんが掛け合ってくれるって、なあ、リーフ」
必死に言うキラス少年は、リーフの手を握る。
「ありがとう、キラス、本当にありがとう。でも、僕は、もう」
キラスの手を握りしめて、リーフは静かに答える。
「もう、疲れちゃった」
「リーフ……」
「僕ね、ちょっと、忘れたいんだ。あいつから、守ってくれてありがとうキラス」
「リーフ……」
「ありがとうキラス、さよならキラス。みんなにも、ありがとうって、伝えて」
みんなとは、リーフが苦労した騎士学校時代と見習い時代の友人達だろう。
「じゃあ、僕、行くね」
さよなら、と、リーフがキラスの手を離し馬車に。
「お待たせしました」
「大丈夫かいリーフ君?」
ナリミヤ氏が心配そうな顔で聞くが、リーフは大丈夫と。
スレイプニルの馬車が、走り出す。
キラスが必死に追いかける。
「リーフッ、リーフッ」
追いかけるキラスの声に馬車の窓に張り付くリーフ。
「俺、偉くなって、リーフが帰って来れるように、偉くなるからッ」
「キラスッ」
「絶対に偉くなるから、ダグラスさんより、強くなって、みせるからッ」
キラスが必死に走るが、見えなくなる。
グイッと目元を拭うリーフ。
「エルフにも、いい人いるんだね」
ミーシャが呟く。
なんだろう、何か、思い出しそう。
ずきずき、頭がずきずきする。
「どうしたルナ?」
アルフさんが顔を覗きこんで来た。
「大丈夫です」
私は軽く頭を振る。
窓に張り付き、肩を震わすリーフを、優しくリツさんとマリ先輩がさすっていた。
いざ、転移門で移動する前に、リーフがナリミヤ氏に何か頼んでいる。
姉オルティナの生んだ二人の子供、リーフにとっては姪と甥だ。もし、後妻が跡取りを生んだら、言葉は悪いが体裁の為に始末されるのではと。
なんとか、この二人を守りたいが、リーフはここにいたら一生騎士見習いのままだ。姉オルティナの死の真相だって、相手は財力と権力を持つ伯爵だ、リーフが訴えたとしても、一蹴される。リーフはオルティナの件で、伯爵家を訪ねたが、門前払いだ。オルティナの墓にも、花すら手向けらずにいた。リーフがうだつの上がらない騎士見習いで、伯爵家の霊廟に近づけるわけにはいかないと。実の弟であるリーフを追い返したらしい。どうしても、と、リーフはいい募ろうとしたが、止めたのはナリミヤ氏の蜘蛛達だった。
「分かっているよ、大丈夫。僕の知り合いに二人の事を頼んであるからね。心配しなくても大丈夫だから」
「本当ですか?」
「うん、大丈夫だよ。心配しないで、まず、後妻さんには子供は生まれないから」
はい?
「後妻さんね、若い頃随分男遊びがひどくて、相手が分からない子を妊娠しただけど、堕胎してね。それがきっかけで子供産めないんだ」
どっからその情報を得たの?
「もしかしたら、侯爵家から養子を取るかもしれないけど、その点も大丈夫だよ。知り合いに頼んで許可が出来ないようにしたからね。オルティナさんの死に関してはもうちょっと待ってね」
この残念金髪美形の人脈って本当にどうなっているんだろう?
「敵に回したくない御仁だな」
「そうですね」
アルフさんと二人で囁きあった。
「それから二人には松美達の子供を影から護衛してもらうからね。暗殺の心配はないよ」
「そうですか、ありがとうございます」
リーフはほっとした表情だ。
そのリーフの足元に何匹かの蜘蛛が集まる。
「なんか、いろいろ迷惑かけたね、ごめんね」
ああ、リーフが自棄にならないように見張っていた蜘蛛達か。蜘蛛達は脚を振ってから散らばっていった。
「さあ、皆さん、マリベールへ帰りましょう」
ナリミヤ氏の誘導で、転移の魔法陣に乗る。
「では、行きます」
ナリミヤ氏が魔力を流すと、景色が変わり、マリベールの豪邸の地下になっていた。
それからナリミヤ氏は宿の手配をしてくれる。
「ありがとうございました、ナリミヤ先輩」
「いいよ。コーヒーに頂いていいのかい?」
「はい、もちろんです」
ダンジョンの中で焙煎の済んだコーヒーはすべてナリミヤ氏に渡される。未焙煎のものは、リツさんのアイテムボックス内だ。
「もうちょっと、時間とかを調整したいので」
「わかった、任せるよ。あ、僕が作った焙煎の魔道具預けるね。必要なら使って」
「では、お借りします」
「次のダンジョンアタックはそうだね。ちょっと休息挟んで10日後でいいかな? 松美達は引き継ぎ調査してもらうからね」
「はい、大丈夫です」
10日後、また、ダンジョンアタックかあ。
「じゃあリーフ君をお願いします。リーフ君、何か困ったことがあったらいつでも言ってね」
「ありがとうございます、ナリミヤさん」
リーフがペコリ、金糸のような髪が流れ落ちる。
「さあ、みんな、宿に行きましょう」
リツさんの号令で、ナリミヤ氏の豪邸を後にした。
宿に付き、ほっと一息つく。
「リーフ君、大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫です」
暗い顔のリーフに、心配そうに声をかけるマリ先輩。
「あの、僕はなんとお呼びすればいいですか? やっぱりマリーフレア様ですか?」
「あ、そうね、本名はちょっとごめん。マリって呼んで」
「はい、マリ様」
早速夕飯の準備に取りかかり、リーフもお手伝い。まあ、微妙にいろいろ残った作りおきを皿に並べただけだけど。リーフはどれも美味しいと感動していた。
食後、ローズさんにお茶の淹れ方を習い、念のためにステータスをチェックする。せっかくのエルフだ、魔力系スキルがあるだろうし、固有スキルもあるはず。
リーフ・ヴェルデ レベル16
40才 エルフ族 主夫 テーラー
スキル・火魔法(12/100)・水魔法(13/100)・風魔法(14/100)・無属性魔法(13/100)・魔力感知(29/100)・魔力操作(6/100)・剣術(13/100)・槍術(11/100)・短剣術(19/100)・盾術(9/100)・弓術(20/100)・体術(18/100)・気配感知(23/100)
固有スキル・暗視(3/10)・感覚特化(視力)(3/100)・スコープ(2/100)
突っ込みたいけど、やめよう。うん、騎士見習いだもんね。全体的に低め。だが、やはり種族的に魔法スキルが多い。年齢的にはアルフさんより上だが、どうみても15、6才だ。さすが長命種。
と、いうか、主夫とかテーラーとは初めて見たよ。付与もできるそうだが、皮や布系しか出来ないと。それでたまの休みに副業で付与をしてなんとか生活し貯蓄していたと。
エルフの騎士隊って、副業いいんだ。
だが、せっかくの暗視やスコープがあるから、役に立ちたいとリーフが訴える。
トウラで身分証代わりに冒険者ギルドに登録することになった。
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