リーフ②
仕打ち
短いです
慰霊碑はスレイプニルの馬車ですぐだ。
「すみません」
リーフはペコリと頭を下げて、慰霊碑に向かう。
沢山の花が捧げられている。
名前も刻まれている、沢山刻まれている。
「儂も祈りを捧げていいか? 知り合いの名前が刻まれておるはずだから」
アルフさんも慰霊碑に向かう。私達も続いた。刻まれている名前の中に、やっと見つけたようだ。
我らが 真の友 マダルバカラの騎士達
アルフさんが刻まれた名前に触れる。
祈りを捧げるように、膝を付くアルフさん。
私も膝を付く。皆も習って膝を付く。
静かに祈りを捧げるアルフさん。
しばらくして立ち上がる。
「すまんな、付き合わせてしまって」
「いいえ」
そこに杖をついた老女が花を持った中年女性に付き添われて来る。
「ずいぶんと熱心に祈りを捧げてくださいましたな」
老女がアルフさんに声をかけてくる。
「ええ、知り合いの名がありましたので」
「そうですか。マダルバカラの騎士達のお知り合いですか。わざわざ遠い場所から」
老女は曲がった背中を更に曲げて頭を下げる。
いえいえ、とアルフさんも会釈する。
背中をなんとか伸ばした老女。穏やかな老女の眉が次の瞬間釣り上げる。
杖を激しく付きながら、向かった先に膝をついて静かに祈りを捧げているリーフの姿。
「この疫病神がッ、穢らわしいッ」
顔を上げたリーフの表情は、諦めた表情だ。
振りかざした杖が、リーフの頭に直撃する。
リーフは避けない。打たれたままだ。
助けに行こうとするマリ先輩を、私が止める。リツさんはアルフさんが止める。
「この疫病神ッ、お前の愚かな姉のせいで、私の孫が死んだんだッ、よくも孫を殺したなッ、お前も死ねッ」
ああ、あのレイチェルという赤髪エルフの無謀な突撃で、無駄死にした騎士の家族か。マリ先輩が行こうとするが、私は首を振る。
罵声を浴びせる老女、杖がリーフをうち据えていくが、途中で止まる。
ナリミヤ氏が無言で、リーフと老女の間に立ち、杖がナリミヤ氏に直撃する。驚いた老女が杖を落とし、リーフも顔を上げる。
「だ、誰だい?」
「僕はナリミヤです」
老女の問いにナリミヤ氏が答える。
「僕は、ナリミヤです。あの加護を持つ、レイチェルの夫です」
そう言って、ナリミヤ氏が膝を付き、両手を付く、額を地面につける。
「慰霊碑に祈りを捧げに行くように何度もリーフ君から、聞いていたのに、遅くなりました。申し訳ありません。申し訳ありません。もっと、リーフ君の言葉に耳を傾けるべきでした。本当に申し訳ありません」
申し訳ありません、と繰り返すナリミヤ氏。
「ちょっと、やめてくださいナリミヤさん、悪いのは、あいつなんだから」
こめかみから血を流すリーフが、ナリミヤ氏の肩に手をかける。
「いいや、僕のせいだよ。レイチェルの言うことを尊重したばかりに。もっと、リーフ君の言葉を深く考えるべきだったんだ」
老女は毒気が抜けたように、よろける。花を持った中年女性に支えられる。
「もう、やめましょう。あの子、関係ありませんよ」
中年女性が老女に言う。
「何を言っているんだい? 死んだのは、お前の息子だろう?」
「あの子が死んだのは、彼のせいではありませんよ。もう、やめましょう。こんなことしても、あの子は帰って来ないの」
中年女性が手を引き、老女を連れて行く。
最後まで、リーフに罵声を浴びさせていたけどね。
私達とすれ違う前に、中年女性が軽く会釈して、去っていった。
私はようやくマリ先輩を解放。
駆け寄るマリ先輩とリツさん。
「大丈夫リーフ君?」
マリ先輩がヒールをリーフにかける。
「ナリミヤ先輩、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。ごめんねリーフ君、本当にごめんねリーフ君」
小さく謝るナリミヤ氏。
きっと、これがリーフが受け続けた仕打ちだろう。
実際にレイチェルのせいで、死んだ騎士達の家族の恨みが弟のリーフに向かった。オルティナだってずいぶん肩身の狭い思いをしていた。何度も何度もオーディスに来ていたレイチェルが、なんで慰霊碑に行かなかったが分からないが。そのせいで、リーフがどんな目にあっているかなんて思わなかったのだろうか? 恐らく、リーフはずっと似たような仕打ちを受けていたのだろう、ずっと、だから、あんなに諦めた顔で、抵抗もせずにただ受けて。
ナリミヤ氏は、レイチェルの言うことを信じた。なんだかんだと自分に尽くしてくれ、自分の子供を生んだ女性の言葉を信じた。その結果が、これだ。
「本当にごめんね、リーフ君。本当に、お詫びの言葉もありません。そのせいで、オルティナさんも、そのせいで」
たった一度だけでも、慰霊碑に花を手向けて祈りを捧げさえいたら。結果は違っていたかもしれない。リーフの姉オルティナが死ぬ、いや、殺されなくてもすんだかもしれない。リーフだって、騎士隊での待遇も変わっていたかもしれない。
「本当に、申し訳ありません」
ナリミヤ氏は、ひたすら謝り続けた。
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