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リーフ①

見習い

 私達はスレイプニルの馬車に乗る。結局リツさんも心配と行くことに。あのリーフも、赤髪エルフの犠牲者だ。

 冒険者ギルドに、屋敷を守るホリィさんに数日長くなると連絡をお願いした。

 半日でオーディスの首都、ラル・ファナリ到着。さすがに森林国、見上げるように高い大木に囲まれ、空には枝が張り出してみどりの光が、差し込んでいる。

 ナリミヤ氏はまっすぐある所に向かう。2階建ての建物だ。その一室から、憔悴したリーフ少年が出てきた。背中に大きな荷物。

「リーフ君、リーフ君ッ」

 必死に手を振るナリミヤ氏が駆け寄る。

「良かった間に合った」

 リーフ少年は表情を固くして無視する。ただ、リツさんの姿に驚いていた。

「リーフ君、これからどうするの? 家には戻らないよね? しばらくうちに来ないかい? ちょっと落ち着くまでさ、ね」

「うるさいッ」

 リーフ少年は癇癪を起こした子供のように叫ぶ。

「誰のせいだよッ」

 叫んで、リーフ少年は走る。慌てて追いかけるナリミヤ氏。ただ、荷物が大きすぎて、上手く走れない。あ、転けてる。

「ねえ、リーフ君、君が怒っているのは分かるよ。確かに僕のせいだ。僕がもっとちゃんとしていたらこんなことには、ならなかったよ」

 ナリミヤ氏が助け起こそうとしたが、リーフ少年は手を払う。

「大丈夫? リーフ君」

 リツさんが優しく声をかけると、リーフ少年は少し泣きそうな顔になる。

「痛いでしょう? さあ、手当てしましょうね」

 優しくリツさんが声をかけ、膝の汚れを払ってあげている。

 リーフ少年は泣きそうだった。

 

 小さなベンチで、リーフ少年とリツさんが並ぶ。

「僕、騎士隊、やめたんです」

「そう」

 風当たり強かったらしかったしね。よく、我慢したよ。

「あと、1ヶ月で、見習いが終わるはずだったんです」

 でも。

 リーフに下されたのは三度目の騎士見習いだった。

 抗議した。リーフは必死に抗議した。かつて、一緒に騎士見習い時代を共にした同期達も抗議してくれた。

 二度目は、とばっちりだった。

 三度目は、完全に私情だ。

 今の上層部はリーフの姉レイチェルに対して、いい感情は全くない。中にはレイチェルの判断ミスの突撃で死んだ騎士の家族が上層部にいて、弟のリーフを目の敵にしていた。さも、当然のように処遇を下した。三度目の騎士見習いを。多分、この上層部が変わらない限りリーフの待遇は変わらない。相手が相手だ、リーフに同情していた騎士達も、何も言えない。

 エルフは長命だ、レイチェルの悪評はずっと続くし、リーフはずっととばっちりだ。

 丸10年、我慢したリーフの心は耐えきらなくなった。大好きな姉オルティナの死も、大きな要因だった。いつか、騎士のマントを、姉オルティナに見せたい、その一心で、リーフは耐えて来たのに。

「僕、もう、疲れちゃって」

「そう。じゃあ、これからどうするの?」

 リツさんが聞く。

「僕の居場所、ここにはないから。だから、国を出ようって思って」

「どうやって?」

「馬車、少しだけど、蓄えあるし」

 リーフ少年の蓄えって、あの腹立つ両親が、ナリミヤ氏達をもてなすワイン代になり、それから貯めたのだろうな。でも、見習いの給料って安いから、あんまりないんじゃない?

「そう、じゃあ、どうやって生活するの?」

「僕、戦闘はからきしだけど、いろいろ出来るんです。料理に解体、裁縫だって得意だし、裾あげだってできる。染み抜きもできる。散髪も出来るし、付与も出来るし」

 おお、結構いろいろ出来るね。

「だから、なんとか」

「ローズの助手にどう?」

 黙って聞いていたマリ先輩がポツリ。

 一斉に視線が集まる。

 マリ先輩がちらっとローズさんを見る。ローズさんの表情はおまかせします、だ。

「私ね、マリーフレア・クレイハートっていうの」

「はあ」

 突然の登場に、リーフ少年は戸惑いの表情。

「クレイハートって、あのクレイハート?」

「そう、クレイハートよ」

「………え?」

 マリ先輩が説明する。

「ちょっと訳あってマリって名前で冒険者してるの。今はクリスタムを拠点にしてるの。こっちはローズ。私の専属メイドで、私に付き合って冒険者してくれているんだけど、最近忙しくて、優秀な助手がいたらなって思っていたの」

 マリ先輩が息をつく。

「リーフ君、これから先のことなんて、あんまり決めてないでしょ? なら、一回うちのフットマンしない? 向き不向きあるだろうし、うちのフットマンしながらしたいこと見つけたら?」

「でも、そんなご厚意に甘えるわけには」

 リーフ少年が遠慮の姿勢。

「クレイハートはね、ナリミヤ様と関係があるのよ。我がクレイハートの魔道具のアドバイザーはナリミヤ様でね、アドバイザーとしてライドエルにいた頃に、あのレイチェルって人を見出だした見たいで。でも、あの件でナリミヤ様はクレイハートと共同で持っていた特許を放棄したのよ。でも、ナリミヤ様、いろいろな事をしてくれて、ちょっと申し訳なくて。だから、リーフ君、うちに来ない? 君がどう思っているかわからならいけど、ナリミヤ様は大事な弟だって思っているわ。私達の所にいたら、ナリミヤ様も安心するし。私も君を放っておけないし。ローズの助けになってほしいし」

 どうかな?

 マリ先輩の言葉に、リーフ少年は悩む。

「あの、いいんですか? 本当にいいんですか?」

「いいわ、ね、ローズ」

「はい、マリ様」

 リーフ少年は悩む。悩んで、ベンチから立ち上がる。

「あの、僕で良ければお願いします」

 こうして、エルフ少年、リーフがリツ邸に来ることに。

 部屋は使用人部屋が1つ空いていたので、そこになり。

 しばらく見習いフットマンとして、ローズさんに付くことになる。家賃はマリ先輩が持つ代わりに、給料は少なめだが、衣食住は完全に保証される。

「いいんですか?」

 リツさんに心配そうに聞く。

「構わないわ。後ね、うちにはホリィさんっていうメイドさんとその子供が三人いるから」

 リツさんが、ホリィ一家の説明し、リーフ少年は難しい顔で頷く。

「じゃあ、皆を紹介するわね。ルナちゃん、うちのアタッカーよ。アルフさん、鍛治師としてアドバイザー兼タンクよ」

 どうも、と頭を下げる。

「庭師兼バランサーのアーサー君」

 ペコリ、とアーサー。リーフも奴隷紋に気が付いているが、ペコリ。

「斥候のアレクサンドル君、後衛のアーシャちゃんとミーシャちゃん」

 ペコリ。ペコリ。

「で、マリちゃんとローズさん。最後に」

「ピィ」

「メエ~」

「グリフォンのショウ君、カラーシープのノゾミちゃん」

 え、みたいな顔のリーフ少年。

 まあ、仕方ないよね。

「じゃあ、とりあえず、マリベールに移動しましょう」

 ナリミヤ氏が提案したきた。

「あの、ちょっと寄りたい所が」

 リーフ少年が手を上げる。

「慰霊碑に祈りを捧げたいんです」

読んでいただきありがとうございます

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