スキル②
チート?
スキルに火魔法が加わっている。加護も天使バートル様の名前がある。
「俺の加護は、戦闘時自身と共闘関係のものの、物理・魔法防御が上がるぞ。ただ、ちゃんと俺に祈りを捧げること」
私はこぼれ出しそうな嗚咽を飲み込む。
「毎日、祈りを捧げます。我が守護天使バートル様」
騎士の礼をする。
「すごいね、チートだよルナちゃん」
マリ先輩、そのチートって何? ニホンってところの言葉? 涙、引っ込んだよ。
「あの、リリィ様の加護は?」
リツさんがおずおず聞くと。
「私の加護はスキルの経験値補助よ。少しだけど、スキルが上がりやすくなるわ。もちろん共闘関係にあれば、その人もね」
「あ、チートですね」
リツさんまで。
「そういえば、私にも加護ありますか? ここにいるってことは、誰かの加護があるってことですよね?」
マリ先輩がリリィ様に聞いている。確かに、ナリミヤ氏はここには加護がないと入れない的なことを言っていた。
「貴方は女神様の加護よ。貴方、前世の記憶あるでしょう?」
前世と言われて私までドキリとするが、マリ先輩が見ただけで分かるように狼狽する。
「貴方は向こうの世界で事故死して魂だけの存在になり、こちらの世界に流れてきた。本来、魂はそれぞれの世界を管理する神により、洗われる。記憶が消えることね。だけどたまに残ることがあって、大体は夢で少し見るくらいだけど、貴方の場合はばっちりあるでしょう? 女神様がわざとしたのよ。貴方がこの世界にいい影響が出るかもって。もちろん、すべてを全部始めから思い出せないようにしてあって、あとは本人の意思に任せたの。きっかけと貴方自身が思い出したいと思った時に、前世の記憶が甦るようにして」
あぁ~と、なんとも言えない返事のマリ先輩。
「貴方の加護は『女神から見出だされたもの』よ」
「ちなみに効果は?」
「精神の安定、異常状態の軽減よ。リツさんに付いていた『女神から見放されたもの』を拮抗するの」
成る程。だから、私やローズさんはリツさんに初めに感じていた嫌悪感が、時間をおいて減っていったのか。
一人で納得していると、マリ先輩が私を振り返る。
「ねえルナちゃん。これってすごい加護?」
そう来たか。
「凄い加護ですよ。混乱や精神減退、恐慌から身を守る術は限られているし、異常状態は毒や麻痺、呪いにもおそらく即死を避けられるはず」
正解とリリィ様とバートル様が拍手をくれる。守護天使に拍手してもらったよ。
「凄いの?」
「そうです。凄い加護ですよ」
「やった、私にもチートあった」
だからチートって何? まあいいか、マリ先輩、喜んでいるし、かわいいし。
そう思っていると、ずしずしと猪のハバリー様が頭に鷹のファルコ様を乗せて近付いて来た。
ハバリー様、デカイな、私の背丈よりデカイ。凄い迫力だが、小さな目が、なんとなくかわいい。
「私の加護を与えたものが、お前達を傷つけた、申し訳ないな」
若い男性の声が響く。え、人の言葉話せるの? あ、守護天使で、ここは神界。何でもありだね。声の感じからしてファルコ様かな?
「えっとファルコ様ですか?」
「そうだ」
ファルコ様の加護を持っているのは、まさか。
「赤い髪のエルフだよ」
「あ、やっぱり」
マリ先輩とリツさんが渋い顔をしている。
「本来は女神の加護と相性は悪くないのだか、あれは悪い方に拗らせたな。女の気性は恐ろしい」
ファルコ様が首をぷるぷる振る。もともとナリミヤ氏がリツさんにいろいろ気にかけたのが、癪に触っていたそうだ。リツさんが現れた一年前、なんとあのエルフはナリミヤ氏との間に女の子を出産して間もなく、気が張りつめていたと。それが拍車をかけた。しかもファルコ様の加護は、精神の鼓舞らしい。それで他の女達を煽って今日の行動に出たのか。わざわざ出先から戻って。どうやら、リツさんが客人を招くことを知った上で、あの強行に走った。私達を巻き込んでも、顔を潰して死体を森の奥にでも捨てたら証拠残らないしね。
本当に最悪だなあのエルフ。
エルフ達がいないのに気がついたナリミヤ氏が、戻って来てくれたからいいものの。少しでも遅れたらどうなっていたか。
「加護はつけた以上、本人が放棄するか、死ぬまで、そのままだ。あの『見放されたもの』が外れたから、これ以上何かあるとは思わないが、女の嫉妬は恐ろしい。しかも向こうは長命種だからな」
「ずっと、恨まれるってことですか?」
リツさんが沈んだ声で聞く。
「サイトウ君、彼女には僕からよく言って聞かせるから」
「はあ…」
あんまり期待してないよ、ナリミヤ氏、あなた日頃尻にしかれているんでしょ。
「それと、バートルの加護を持つ娘よ」
渋い男性の声。きっとハバリー様だね。
「はい、ハバリー様」
「我ら天使の加護を持つものは引かれ会うことがある。我の加護を与えし者と再び巡り会うやもしれん」
その言い方だと、すでにどこかで会っているのか。
「我の加護に気付いておらんから、また出会うことがあれば、ちょっと手を差し出しておくれ、まるで迷子のようにさ迷っておるから」
天使の加護持つ迷子ですか。
「分かりました、ハバリー様」
守護天使様のお願いを無下になんてできませんよ。めちゃくちゃなお願いでもないし。
「頼んだぞ、バートルの加護を持つ娘よ」
ハバリー様の目、つぶらな感じ。体はデカイが、声は優しいし。
そんなことを思っていると、白い霧が辺りに立ち込める。
「時間ね」
リリィ様が言う。
「皆、僕に近づいて」
ナリミヤ氏が慌てて私達を呼び集める。
「だからマリ先輩、兎と狼は連れて帰れないから、守護天使ですよ」
「えー、ダメ?」
「ダメです。そんな顔してもダメ」
「ぶー」
ダメですからね。仕方なく腕に抱いていたハーゼ様を下ろし、ヴォルフ様の首に巻き付けてた腕を離す。いや、あのね、守護天使なんだからちょっと抵抗してよ、逃げるとか。
ナリミヤ氏の腕をそれぞれ掴む。
「リツさん、いろいろごめんなさい。貴方の人生に幸福を祈るわ」
優しいリリィ様の声。
白い霧はすでに守護天使様達を隠し、ほとんど見えない。
「それから今日がこの世界での誕生日よ。おめでとうリツ、また、会いましょう」
思わぬ言葉にリツは一瞬返事に詰まるが、完全にリリィ様が見えなくなる直前に声を上げる。
あ、よく見たらリリィ様とリツさん似てる。もしかしたらリツさんはリリィ様をモデルにしたのかも。綺麗な瑠璃色の目の色、同じだ。
「ありがとうございます、リリィ様」
リツ・サイトウ レベル1
人族 16歳 魔法使い
スキル・火魔法(1/100)・水魔法(1/100)・風魔法(1/100)・土魔法(1/100)・光魔法(1/100)・闇魔法(1/100)・時空間魔法(1/100)・魔力感知(1/100)
固有スキル・鑑定(1/10)・アイテムボックス
加護・天使リリィの加護




