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赤髪エルフ④

体裁

 冒険者ギルドカードの停止。

 どうやって知ったかは、エルフはその種族的に魔力が高く、精霊を使い、調べあげたらしい。

 まあ、冒険者ギルドカードの停止なんて、穏やかじゃない事態だ。停止されられたのには、それだけの理由がある。精霊はダラバに押し込められた女達の、不満を拾い上げた。

 レイチェルが加護を使い、ナリミヤ氏の客人として滞在していたリツさんに、暴行を先導。自分は直接手は出さず、ナリミヤ氏が私達を迎え入れることを許可し訪れていた、私達まで、巻き込んで。それで冒険者ギルドカードの停止。北の大陸に追放されて。

 それが分かったのは、半年前。

 両親は何かの間違いで、悪いのは強行に走らせたリツさんと、たまたまいた私達だと、信じて疑わなかった。

 リーフはもう言葉が出なかった。

 とうとう、レイチェルは騎士隊から永久追放と、最も不名誉な判断が下された。まあ、当然だよね。

 それでも、両親はレイチェルの無実を叫び続けた。距離を置いていたリーフの騎士の寮に押し掛け、何度もレイチェルの永久追放を取り消しの進言をするように迫った。当然リーフは突っぱねた。そして第2子を妊娠していたオルティナにまで、そう迫った。

 エルフは妊婦には、とにかく優しい。それは、エルフ女性が出産で命を落とす率が、他の種族に比べて高いからだ。長命種の宿命か、受胎率も低い為、エルフは妊婦には優しいのだ。

 それなのに、両親は妊娠していたオルティナを、何度も尋ねた。まあ、会えたのは、初回のみ、次からは伯爵家が会わせなかった。

 そして、今から2カ月前に、オルティナは男児を出産。そう、跡取りだ。

「ですが、その後オルティナお姉ちゃんと、一切連絡が取れなくなったんです。さすがに心配で、会いに行っても、オルティナお姉ちゃんは体調が悪からと合わせ貰えず、手紙も渡して貰えず」

 リーフの緑の目に再び涙が浮かぶ。

「昨日、伯爵家で跡取りのお披露目があって、でも、僕達は呼ばれていませんでした。そこで、オルティナお姉ちゃんは出産時に亡くなって、すでに葬儀は済ませた、新しい伯爵夫人となる、女性を紹介したんです」

 ポロポロ涙を溢すリーフ。

 ああ、最悪のエルフのプライドだな。

 私ため息をつく。アルフさんもだ。

 ミーシャがどういう事かと聞いて来る。

「エルフはな、特に地位があるものは、体裁を何より大事にするんだ。その加護目的でオルティナを娶ったはいいが、その加護を持つ赤髪の評判が悪くなりすぎた。だが、それだけで離縁をすれば伯爵家の評判が落ちる。既に子供も一人おったしな。それに離縁したら、再婚するには、100年はできん。だが、死別は違う」

 アルフさんが説明。

「エルフの出産で死産だったり、母親が死ぬ率が高い。伯爵家はそれに目をつけたわけだ。出産時の死亡を2ヶ月も経って発表したのには、死亡原因を調べられないように、したためだろうな。既に再婚相手がおるなら、なお、計画的だ」

 つまり。

「評判がこれ以上落ちたくない伯爵家は、そのオルティナという女性をどんな手段を使ったか分からんが、体裁の為に殺したんだろうな」

「そんな、ひどい」

 ミーシャが呟く。

「オルティナお姉ちゃん……」

 咽び泣くリーフ。

 それで、あいつが殺した、か。

 リツさんはリーフの背中をさする。

「そんな、オルティナさんが……」

 振り返ると、今にも倒れそうなナリミヤ氏が立ち尽くしていた。


 結局、ナリミヤ氏がリーフと何か話していたが、リーフは聞く耳を持たず去って行った。

「リーフ君」

「ナリミヤ先輩、彼には時間が必要ですよ」

 リツさんが追いかけようとした、ナリミヤ氏を止める。

 あの非常識エルフ両親と会いたくないので、私達は馬車に乗り込む。

「エルフって、みんな、そんなにひどい人ばっかりなの?」

 ミーシャがアルフさんに聞いている。

「エルフみんながみんなではないさ。オルティナという女性が嫁いだ先が、悪いプライドの塊のようなところだったんだろうな。儂の国に来ていたエルフの騎士団は、気のいい連中だったぞ」

 しばらくして、ナリミヤ氏がやって来た。

「すみません皆さん、お待たせしました。出発します」

 少し憔悴した様子のナリミヤ氏。

「ナリミヤさん、どうか、レイチェルを救ってください。レイチェルはあなたの子供を産んでいるんですよ」

「あの子が、あの子が苦労するなんて、私達は耐えらません。あの子には加護が、加護があるんです」

 ああ、耳障り。

 ナリミヤ氏は硬い表情で、馬車を走らせた。

 フィーラ・クライエ近くで夜営。町には入れない。スレイプニルだけでも大騒ぎなのに、グレイキルスパイダーなんていたら、パニックだよ。

 ナリミヤ氏製の結界道具で囲み、グレイキルスパイダーは夜営で番をしてくれると、ありがたい。

 夕食の準備をしたが、ナリミヤ氏は受け付けなかった。落ち込んでいる。スレイプニルが心配そうに、金髪をはみはみしている。

 あのリーフ少年、これから、どうするんだろう? 自棄にならなきゃいいけど。

 しばらく考えて、ナリミヤ氏が手紙をしたためて、渡している。蜘蛛です。グレイキルスパイダーではないが、そこそこの大きさの蜘蛛は手紙を受け取り、するすると闇夜に消えて行った。

 誰に、届けるのかな? 気になるが、聞いたらいけない気がする。

 私達は、静かに夕食を済ませて、それぞれ寝床についた。

 次の日、手紙の返事を受け取ったナリミヤ氏は、ほっとした表情を見せた。何か起きそうだ。

 ナリミヤ氏は、リツさんから出されたコッペパンサンド朝食を綺麗に平らげた。

「ナリミヤ先輩、あのリーフ君、大丈夫ですかね?」

「うん、松美達の子供に、リーフ君を見てもらってるから、変な気を起こしても、あの子達が止めてくれるさ。あと、僕ね、王家に知り合いいるから、オルティナさんの死因を調べてもらうようにお願いしたんだ」

 私はコッペパンが詰まりそうになる。

 本当に、この残念金髪美形の人脈ってどうなってるの?

読んでいただきありがとうございます

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