赤髪エルフ②
短いです
顔つきが変わっていた。
優しい、かわいい顔が、鋭い刃のようになっていた。纏う空気も、近付きがたくなり、あまりの変わりように、リーフも姉のオルティナも言葉を失った。
「お姉ちゃん、どうしたの? お腹痛いの?」
「レイチェル、何があったの?」
「何もありません」
レイチェルは心配する二人に、突き放すように返事をした。
僅かな休みの間にも、両親はレイチェルをつれて回る。美しく着飾り、レイチェルは自信満々に堂々とした姿は、更に美しくなっていった。
加護、美貌、そして騎士学校歴代最高成績。
レイチェルの自信のすべてだった。
お茶会、夜会で、レイチェルは注目の的だった。
「僕達の言葉は、もう、レイチェルには必要なくなっていました。レイチェルは当然主席で卒業しました」
その頃に姉オルティナに、縁談が持ち上がった。当然、レイチェルの加護にあやかろうとした縁談だ。オルティナはそんな縁談は何度も断っていたが、結局断れない状況になり、オーディスでも歴史と財力を持つ伯爵家に嫁いだ。オルティナ自身も、輝くように、美しかった。
結婚式はそれは盛大だった。レイチェルは騎士の正装で出席した。
あら? 卒業直後でしょ結婚式。まだ、見習い期間じゃないの? 確か、エルフも伝統を重んじるじゃないの?
話によると、レイチェルは騎士隊に無事入隊。そこでも当然のように特別待遇。5年の見習い期間免除だ。
「レイチェルは鼻持ちならない、嫌なやつになっていした。見習いになった同級生を見下していました。悔しかったら、見習いを免除してもらえるだけの実力を示せって、絶対にできないことを言っていたそうです。見習いを免除なんて、有り得ないのに、騎士の伝統を曲げさせることなんて出来ないのに。ただ、レイチェルは加護と後ろ楯となった貴族の圧力で、免除されただけで、レイチェルの力じゃない。騎士の中には、見習い免除を反対した人もいたそうです。見習い期間を経て、仲間の大切さを知り、お互いを信じ合える絆を作るのに、必要だって」
レイチェルは、それを手に入れることはなかった。
騎士隊に入ったレイチェルは、快進撃だったそうだ。まあ、当然だ、常に最前線に立ち、魔物を倒し続けた。後方支援の同級生とは差がつく一方だ。騎士見習いは多忙だ、武器、備品、食事管理。夜営の準備に片付け。とにかく多忙だ。騎士見習いに入るのは人数が決まっている。だが、レイチェルというの穴を埋めるために、同級生は更に多忙を極めた。只でさえ忙しいのに、人員が一人欠けた状態だったのだ。不満は爆発寸前だったと。
それからリーフも騎士学校に入学。
はじめは、あのレイチェルの弟だと、色眼鏡で見られていたが、リーフは開けっ広げだった。
「僕はあんなのにはならないよ。だって僕は僕だもん」
そう言いはなった。
それを機に、少し孤立していたリーフに、友人が出来た。
どうして、そう言いきったのには、やはり幼い頃のオルファスまだ優しかったレイチェルの存在が大きかった。
レイチェルのようになりたいと言ったリーフに、レイチェルは言った。
「リーフ、私はあなたが大好きよ、私が大好きな、あなたが大好きよ。だから、私みたいにはならないで、大好きなあなたのままでいて」
そう言って、リーフを抱き締めた。
明るく、優しい、あなたのままでいて。
だらか、リーフは、なんと言われても、平気な顔だった。
その明るい性格で、リーフは気を許せる友人達に囲まれ、大変だが、楽しい日々を送っていた。
伯爵家に嫁いだオルティナも、かわいい女の子に無事出産。夫もなんだかんだと、オルティナを大事にしていたらしい。
しばらくして、寮にレイチェルが訪ねてきた。
なんだろうと思ったが、もしかしたら、昔みたいに、優しく笑って話ができると思ったが、大間違いだった。
剣術場に連れて来られたから、レイチェルの訓練と称して、リーフを叩きのめしたそうだ。
「この恥知らずがッ、お前のせいで私の評判が悪くなっているのだぞッ、どうしてくれるッ、私が築き上げたものにキズを着けたなッ、何が僕は僕だ、大した成績でもないのに、偉そうに言うなッ」
リーフの成績は悪くはなかった、ごく平均。悪くなく、良くなく。それがレイチェルの怒りに触れた。エルフの悪いプライドの塊のようになってしまったレイチェルは、自分のように、突起した成績を求めた。
それは、只の暴力で、こっそり覗いていた生徒が慌てて教師を呼びに走った。教師が止めに入るまで、暴力は止まなかった。
それから、度々訪れては暴力を振るうレイチェル。
リーフにとってはもう悪夢の塊だ。オルティナが諌めたが、聞くわけない。学校側も弟に会いに来た、歴史最高成績、そして加護持ちに制止出来ず。リーフは同級生の部屋に隠されやり過ごしていた。レイチェルの暴力は、同級生の間でも有名になっていた。教師もとうとう、レイチェルに意見した、かつての生徒でもあったが、今の生徒も大切だからだ。だが、レイチェルは歯牙にもかけない。
「だらしない弟を鍛えているだけだ。何の文句がある?」
「君のしているのは単なる暴力だ。これ以上したら、君の上司に訴える」
「只の教師のあなたにそんな権限はない。隊長は私のやり方に賛同してくれるはずだ」
「君にこそ、わからないのか? リーフはリーフだ、君じゃない」
「私の弟だ。私がどうしようか、私の勝手のはずだ。あれの存在は恥だ。恥を矯正して何が悪い?」
話は、結局つかなかった。
リーフは教師と同級生達に守られ、なんとか、過ごしていた。
状況がガラリと変わったのは、リーフが騎士学校を卒業を迎える年に起こった。
「オーディスの西にある、ハウラティとの国境で、スタンビートが起きて」
読んでいただきありがとうございます




