アーサーの里帰り⑧
後は
しばらくして白熊町長さんが帰って来た。
「コボルトとトロールの死体の片付けは、賭けをしていたバカどもにさせます」
あ、そうだ、どうなったのかな? リツさんの一人勝ちだけど。ちょっと八百長だけどね。まあ、向こうに払えるわけないし、桁が違うし。向こうは文句を言っていたが、黙らせたらしい、どうやってかは聞かない。労働させるので、今回は目を瞑って欲しいと頭を下げて言われて、リツさんが断るわけない。アーサーがお世話になったからね。
正式な依頼料と、コボルトとトロールの討伐金はトウラで受け取ることになる。今日は疲れたからトウラへは明日、帰ることになる。白熊町長さん宅でお世話になることになる。
さらにしばらくしてフレナさん『紅の波』がやって来た。
「フレナさん、わざわざトウラから応援に来ていただいてありがとうございます」
リツさんがお礼を言う。
「気にしないでちょうだい。私達の方こそ、リツさんにお礼を言わなきゃならないことがあるの。孤児院に炊き出し何度もしてくれてありがとう。私とサリナはあそこの出なの」
「そうなんですか」
「それとパーティー組んだんだってね。聞いたよ、歓迎するよ。ふふ、あっという間にランク越されそうだね」
「私がリーダーなので、ランクはしばらく上がりませんよ」
ふふふ、と笑うリツさん。
立ち話もなんなので、馬車にご案内。
黄色い悲鳴が上がる。
「すごい、空間拡張ね」
「ひ、広いわね」
「皆さんどうぞ座ってください」
リツさんが、フレナさん達にソファーを進める。
ローズさんがさっとお茶を出し、マリ先輩がクッキーやマドレーヌ、一口サイズのタルトを出す。
「いいのかしら? 頂いても」
「どうぞどうぞ」
やはり冒険者とはいえ女性だ、きゃっきゃ言って食べてる。
「銀狼の彼はリツさんのパーティーに入ったのね」
「あら、サーシャ君をご存知ですか?」
「まあね、フリーの獣人だったしね。斥候スキル欲しさに声をかけられていたのを見たことあるし」
ちらっとサーシャを見ると、肩をすくめている。
「紹介しますね。斥候のアレクサンドル君、後衛で妹のアーシャちゃんとミーシャちゃんです」
ぺこり、三兄妹。『紅の波』もぺこり。
「フレナさん達も明日帰ります?」
「いいえ、ここに定住しているCランクパーティーが帰って来るまでいて欲しいって頼まれてね。宿代半分もってもらえるし、報酬も悪くないしね。あ、それはそうと、ちょっとアルフ」
「ん、なんだ?」
いつものラフな格好のアルフさんに、フレナさんがちょっと鋭く言う。
「あの鎧はなんだい? 見ただけでドン引きするような鎧は?」
「失礼だなあ、儂が作ったんだぞ」
「でしょうね、でも、あれはないでしょ。下手したら国の将軍が着るような鎧でしょうが。見る人が見たらどうなると思うの?」
あ、やっぱり、フレナさんも分かったんだ、アダマンタイトとミスリルで作られたものだと。
「マルコフさんにも、似たような事言われたなあ」
のほほんと、ローズさんのお茶を飲むアルフさんは、どこ吹く風だ。
「まったく呑気ね」
「鍛治師ギルドを通せば、サイズを合わせて作るぞ。ちなみに予算は、そうだな、フレナのサイズならこんなもんか」
「ぶふっ」
提示された額にフレナさんは噴き出す。
「付与と指名料が別料金でかかるからな」
「ちょっと高いわよ。サリナの盾の新調を、アルフに頼みたかったけど、無理ね」
「指名料はどうにでもなるが、使用する金属で額は変わるぞ。一度、鍛治師ギルドで相談してみろ」
「分かったわ」
それからしばらく話をして、フレナさん達は宿に引き上げて行った。
夕飯はカサラさんのパンとハーブスープ。昨日食べられなかったシーフードグラタン、リツさん特製腸詰め、ラタトゥイユ、マリ先輩製フライドポテトが並んだ。
はい、残さずいただきます。きりっ。
次の日。
お世話になった白熊町長さん宅を出て教会へ。
アーサーは、おばあさんのお墓の前で、祈りを捧げる。
街の人達の、アーサーを見る目が変わった。好意的なものが多いが、明らかに異質なものを見る視線もある。まあ、この街でのアーサーの大方の評判は悪かった。街をずっと守って来たのだおばあさんのアイリーンさんに守られた、いじめられッ子。そして、そのアイリーンさんの手をわざわざ煩わせて待て、守ってもらい、黙ったまま、兄達の暴力にも耐えて言い返さない、気の弱い子という認識を持っていた人は少なくなかった。
それが、わずか数ヵ月で、魔法を駆使し、トロールを切り裂き、コボルトも数えきれないほど薙刀の錆びにした。一切の迷いなく。
「お待たせしました」
「ご挨拶は大丈夫?」
「はい、リツ様」
すっきりした顔でアーサーが戻って来た。
いざ、メーデンを出るときに、見送りに来ていた白熊町長さんが、アーサーに何か手渡している。
「これはアイリーンの最後の装備品だ。これだけはお前に渡したいと、私達が預かっていたんだ。お前の魔法スキルなら、きっと使いこなせる」
渡されたのは、黒い指輪だ。なかなか、細工がきれいだ。
「ありがとうございます」
アーサーは指輪を抱きしめる。
杖を付いた老人達からも、野菜やらなんやらもらっている。
たくさんの人達に見送られ、メーデンを出発。
アーサーはしばらく指輪を見つめていたが、おずおずと指輪をしようとしたが、はまらない。サイズが違うのだ。アルフさんがチェックする。
「副ギルドマスターならサイズ直し出きるぞ。しかし、いいもの貰ったな。付与がすごいようだ」
リツさんの鑑定発動。
中の闇魔法強化、小の自動修復、魔力吸収。材質はミスリルが主で、アダマンタイトも極わずかに含まれていると。
「どうするアーサー?」
「えっと、首から下げます。ルナさんのペンダントみたいに」
「なら、チェーンを作らんとな」
話は進み、チェーン製作にアーサーも参加、なんでも錬金術で挑戦したいと。アルフさんが指導に入ることに。
ショウの牽く馬車は問題なく3時間もかからずトウラに到着。冒険者ギルドで報告し、やっと帰宅する。
「「リツ様、お帰りなさい」」
アンナとクララが駆け寄って来る。しゃがんで、二人を抱き止めるリツさん。
「お帰りなさいませ、リツ様」
「ただいまホリィさん」
簡単にお昼をいただき、それぞれの部屋で休むことになる。
「久しぶりだから、夕飯後にステータスチェックしましょうか」
はい、リーダー。みんながどれくらい伸びたがチェックして把握しなくてはならない時期だよね。
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