アーサーの里帰り⑦
アーサー。
戦闘、流血表現あります。ご注意ください。
合計6体のトロールが向かってくる。
野次馬、賭けのバカ住人達は悲鳴を上げるが、同時に歓声を上げる。
「ルナ、アーサー続けッ」
「はいッ」
「マリッ、ショウは後衛の警護に回らせろッ」
「はいッ、ショウッ」
「ピィッ」
アルフさんの指示が飛ぶ。
「サーシャ、そこから援護だ」
「了解」
サーシャは弓を構える。
先頭に迫って来た、一番デカイトロールが、アルフさんの前まで迫る。魔力を纏ったアダマンタイトの盾が迎え撃つ。
「ヒートバッシュッ」
ごうんっ
鈍い音を立てて、吹き飛んだのは、トロールだ。腕が肩から真後ろに向く。
「ガァァァァァァッ」
痛みに悲鳴を上げるトロール。私は二代目を握り、一気に距離を詰めて、無事な腕を狙う。
ずばあっ
切り落とせなかったが、おそらく骨まで断ち切ったはずだ。かなり衝撃が来たから。
「「アーサーッ」」
アルフさんと私が叫ぶ。
「はいッ」
火が溢れるほどに魔力を纏った薙刀を握り、アーサーがアルフさんの肩を駆け上がる。
魔力を纏ったアダマンタイトが、トロールの首を薙ぎ払う。
一瞬、トロールの巨体が震えるが、首から血を噴き出して、轟音を立てて倒れる。
「アーサー、儂の後ろにつけッ。ルナ、無茶するなよッ」
「「はいッ」」
残りは5体。
後衛から魔法が飛ぶ。
「サンダーランスッ」
ローズさんのサンダーランスが1体に命中。動きを止めたトロールに、リツさんとマリ先輩で魔法が容赦なく連発する。なぜか、着いてきたノゾミのファイヤーボールも飛ぶ。ちゃんとしたサイズのファイヤーボールだ。首に巻いているグレイキルスパイダーのバンダナに、付与が付いているのだ。マリ先輩が端正込めて、魔石を使い付与を着けた。大の火魔法補助を。おかげで小さなファイヤーボールが、普通サイズになっている。魔法攻撃だけで、一体のトロールが倒れ伏す。
あのトロールを魔法一撃と言わせるアーサーのおばあさん、どんだけ優秀だったんだろう?
アルフさんはトロールの一撃を盾で防いで、十文字槍を繰り出す。首に穂先を突き立て、横に薙ぐ。
「ダークランスッ」
アーサーの闇魔法が、突進してきたトロールに直撃、表情を奪い取る。だが、足の勢いが止まらない、そこにサーシャが立て続け放った矢が突き刺さる。光魔法を纏った矢が、全部命中し、その場に膝をつく。アーサーがトロールが立ち上がる前に、薙刀を首に突き立てる。
「ファイヤーボールッ」
突き立てた先で魔法を発動。トロールの首がおかしな動きをして、倒れる。
私は魔力を調整し、衝撃斬波を飛ばし、トロールの動きを止めて、首を切り裂く。
最後の1体。
「よし、マリッ、ショウにコボルトを追いたてさせろッ、まとめて倒しておかんと厄介だッ」
「ショウ、お願いッ」
「ピィッ」
ショウが白い翼を広げて空に駆け上がる。
アルフさんが最後の1体に時間をかけずに倒す。
その間に、ショウは森に急降下。
アルフさんが十文字槍の構える。
「大地よ、我が意思に答えよ、貫け、奪え、縛り付けよ」
私とアーサーはアルフさんの後ろに下がる。
ギァオン、ギァオンと吠えて森から出てきた、わらわらと出てきた。ショウに追いたてられたコボルト達が。
「グランドドリルッ」
十分に引き付けて、アルフさんは魔法を発動。
オークの巣で、オークの足を貫いて動きを止めた魔法だ。地面から無数の錐のように突き出した細い槍は、コボルトを貫いている。
「サーシャ、アーチャーを先に狙えッ」
「はいッ」
「ショウもお願いッ」
マリ先輩が叫ぶ。当然分かっているはずだ。森の中から、ギャインギャインと悲鳴が上がる。
トロールを追いたてたコボルト達が、次々ショウに追いたてられて、森から飛び出す。
数、多い。
アルフさんのグランドドリルから逃れたコボルトが、波の様に襲い来る。
コボルト程度、なんでもない。
私は魔力を調整、衝撃斬波を放つ。オークも真っ二つにした衝撃斬波だ、コボルト達は成す術なくちぎれ飛ぶ。
それでもコボルト達はぞろぞろ出て来る。分かっているのだ、ここで勝たないと、自分達は終わりだと。ずる賢いが、仲間で行動し、執念深いコボルトは、トロールを使って襲ったがこの結果だ。多分、逃したら後々厄介だ、中には二度とこの街に手を出さない個体もあるだろうが、向こうが襲って来たのだ、迎撃するだけだ。
一体残らず。
アーサーが守りたいと言った街に及ぼすリスクを、最大限に削り取るために。
「ヒートアクセルッ」
アーサーの支援が飛ぶ。
アルフさんは盾と十文字槍しまい、魔鉄の槍を出す。十文字槍は長時間振り回すとかなりきついらしい。まあ、コボルト程度なら、魔鉄の槍でも十分だ。
次々に向かい来るコボルトを斬り倒す。アルフさんが魔鉄の槍をおかしな速度で槍を振り回す。アーサーも薙刀で切り裂いていく。後方から魔法が飛ぶ。ローズさんとアーシャがナイフを構えて、コボルトを迎撃。白熊町長さんも高齢者とは思えない動きで、ロングソードを振り、後ろにいるミーシャとノゾミにコボルトを通さない。ショウは旋回し、不可視の刃を飛ばし、コボルトを追いたてる。
「アルフッ、リツさんッ」
右後方から久しぶりの声がする。
フレナさん率いる『紅の波』が駆け寄って来る。
「そのまま右翼をお願いしますッ」
私が叫ぶ。
「アーサー、支援に回れッ」
「はいッ」
アーサーは支援を飛ばし、ストーンバレットを放つ。サーシャは矢が尽きたのか、櫓から降りて、ナイフを握って迎撃。
コボルト達はアーチャーはすでにいない、上位種のソルジャーやリーダーもいるが、私達の敵ではない。さりげなくキャプテンがいたが、アルフさんの魔鉄の槍の前では、関係なく一撃で屠られる。アサシンもいるが、索敵スキルの高いショウに隠れることはできず、次々に不可視と刃の餌食になったいる。
戦力が増えて、初め全てのコボルトを倒した時には、昼を過ぎていた。
トロールの後だから、手応えないが、なんせ数が多い。疲れた。死屍累々と広がるコボルトの死体。さて、どうするか。
とりあえず、リーダー、リツさんの元に。
「皆さんのおかげで街が守れました。ありがとうございます」
白熊町長さんが深く感謝をしている。
「コボルトの死体はバカどもにさせます。正当な依頼料とコボルトの討伐金は改めてお支払します」
そう言って、白熊町長さんはアーサーに向き直る。
「アーサー」
「はい」
「お前、人を斬ったな?」
「はい」
白熊町長さんの問いに、アーサーは迷いなく答える。アーサーはすでに対人戦の経験は済んでいる。それも一度ではない。
「そうか」
しばらくしてやっと出たのは、それだけだった。
対人戦、初めは自分を守るため、二度目はサーシャ達を助ける為、三度目はリツさんを守る為。
「迷いはないか?」
「リツ様を守る為なら、魔物だろうが、人だろうが、斬ります」
「………そうか」
白熊町長さんは、何かを思いを重ねるように、アーサーを見る。もしかしたらおばあさんでもあり、かつてのパーティー仲間の姿を見たのかな。
「とにかく、一旦我が家に行ってください。私はギルドで話をしてきますので」
「わかりました。フレナさん達も行きましょう」
「え、私達はギルドに行くわ。移動してきたこと報告しないといけないしね」
「そうですか。私達町長さんのお宅にいますので」
「分かったわ」
フレナさん達と別れて、白熊町長さんのお宅へ。みんなものすごい目でアーサーを見ているがスルーだ。
白熊町長さん宅で、ティファラさんの優しさ抱擁を受けるアーサー。
「皆さん、ゆっくり休んで下さいね。疲れの取れるハーブティーを淹れるわ」
「ありがとうございます、おばさん」
私達は交代で、馬車でシャワーを浴びて汗を流して着替える。
白熊町長さんが帰って来るまで、ティファラさんのハーブティーをいただく。はあ、香りが独特だけど、染み込んでいく。
お腹も減っていたので、リツさんのシチューをいただきながら白熊町長を待った。
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