アーサーの里帰り④
入れ替わり立ち代わり
ローズさんがマリ先輩の両肩を掴み着席させる。
「エルフの国か、まあ、クリスタムからなら、行けるか」
アルフさんが言う。
エルフの国は地図上はクリスタムの西南にある。ただ、距離がある。移動には月単位かかるはずだ。ちなみにアルフさんの出身地であるマダルバカラは西にあるが、山脈に遮られライドエルか、このエルフの国オーディスを経由するしかない。
「あの、この手帳少し借りてもいいですか?」
アーサーが老婦人、ティファラさんに聞く。
「これはアーサーのものよ、すべて持って行きなさい」
白熊もうんうん。
「あ、ありがとうございます」
大事そうに、手帳を胸に抱くアーサー。
「母さん、連れてきたよ」
そこに中年男性ゴウィンさんが、女性を連れてきた。うん、ティファラさんに似てるから、さっき言ってた馬鹿娘だね。多分、アーサーを奴隷として売るために、町長の判子を勝手に使った町長家族はこいつかな。
「なあにお母さ……」
女性はアーサーの姿を見て絶句。
ティファラさんはスッと、立ち上がり、女性を連行。
ばちばちばちばち、ばちばちばちばち
激しい殴打音が響く。
白熊町長とゴウィンさんは、沈黙。カラサさんは無表情。
うわあ、みたいな顔をするアーサー。ミーシャの耳はサーシャが塞ぐ。
しばらくして、穏やかなティファラさんが戻ってくる。
「あなた、後はお願いね」
「あ、はい」
そそくさと白熊町長が出ていく。
「あの、ティファラおばさん?」
「気にしないでアーサー、あれは躾よ、躾。当然の報いを受けるよ」
上品に笑うティファラさん。
まあ、平手打ちくらい当たり前か。勝手に町長の判子を使用し、アーサーを奴隷として売る手伝いをしたのだ。アーサーの両親と共に、管理能力を問われ町長と勝手に使ったあの女性は犯罪奴隷落ちに十分なるのだ。アーサーは白熊町長さんには、お世話になったから、そうしたくないと黙っていただけだ。
ドアの隙間から見えたけど、女性は白熊町長さんに引きずられて出ていった。鼻血を流し、前歯も折れて、顔を腫らして。
「そうだわ、今日はメーデンに泊まるの?」
さも、何もなかったような顔のティファラさん。
「えっと……」
アーサーがリツさんに視線を送る。
「そうですね、もう夕方ですし」
「なら」
ティファラさんとリツさんの話し合いの結果。
町長さんのお宅に泊まることに。庭先に馬車を入れる。全員は町長さんの家には無理なので、馬車にアーサー、アルフさんとサーシャ、ショウとノゾミが寝ることに。ティファラさんに馬車を見せると驚いて、子供みたいに目を輝かせていた。
「あのおばさん」
「なあに、アーサー?」
「お願いがあるんですが」
「いいわよ、なんでも言ってちょうだい」
「あの人達には関わりを持ちたくないんです」
両親のことね。
このままなら、ティファラさんがアーサーの両親に平手打ちをしそうだ。今でも村八分状態だけど、街から追放されても文句は言えないことしたしね。あの平手打ちをくらった女性に判子を依頼したのは、間違いなく、アーサーの両親だろうし。
「なので、自分のことで何かしらの罰があると、怨んできそうだし、それでリツ様を煩わせたくないんです」
ティファラさんは少し考える。
「それで、いいの?」
「はい。自分は今の生活が好きですから」
雑じり気のないアーサーの笑顔に、ティファラさんも優しく微笑みを浮かべる。
「分かったわ」
「ありがとうございます」
それからちょっと大変だった。
アーサーの帰郷を知った老人達が入れ替わり立ち代わりに町長宅を訪れた。
杖を付きながら、皆必死に歩いてきた。
「ああ、アーサー、なんてことだ」
「無事は良かったが、やはり奴隷にされてしまったか」
「どうかこれで、アーサーを解放してもらえんか?」
「儂、主人じゃない」
アルフさんまで老人達に取り囲まれる。
慌てて夕食の準備をしていたリツさんを呼びにいく。
「じいちゃん達、落ち着いて、アルフさんは違うんだ」
アーサーが必死に説明。
「皆さん、私がアーサー君の主人のリツ・サイトウです」
私が連れてきたリツさんが、老人達の前で綺麗にカーテシーでご挨拶。
沈黙する老人達。
リツさん若いし、かわいいからね。
「お聞きするが、なぜアーサーを?」
前にいた老人がリツさんに訪ねる。
「初めは庭師として来てもらうつもりでしたが、アーサー君には、魔法の才能がありましたので」
リツさんは続ける。
「アーサー君はとてもがんばり屋です。我が家の庭はアーサー君に一任しています。冒険者としても優秀です、バランサーとして、私達のパーティーには欠かせない人員です」
老人達は顔を見合わせる。
「じいちゃん達、自分は、いま、幸せなんだ。おばあちゃんがいた頃みたいに。リツ様は優しいし、皆さんよくしてくれるんだ。ご飯だって美味しいし、お腹一杯食べさせてもらっている」
「アーサー、しかし、冒険者は危険だぞ」
「分かってるよ、分かってやってる。自分はリツ様の役に立ちたいし、自分の意思でついて行っているんだ」
必死に言うアーサーに、老人達は再び顔を見合わせる。
「お前がそこまで言うなら、何も言うまい」
納得してくれたみたい。
それから再び質問攻め。
「アーサー、お前、やっぱり魔法が使えたのか?」
「うん、おばあちゃんが信頼できる人に見せなさいって言ってたから」
「アイリーンさんと同じ魔法使いか?」
「違うよ、魔槍士」
「槍士? 誰に習っとる?」
「この人、アルフさん」
「おまえさまは、パーティーリーダーか?」
「違うよ、リーダーはリツ様。アルフさんは鍛治師と兼務してるから」
「アーサー、食べさせてもらっていると言ったが、盾とかさせられてないよな?」
「タンクはアルフさんだよ」
「まさか、素手とかじゃないよな?」
「ちゃんと槍を持たせてもらっているよ、ほら」
止まらない老人達に、アーサーは籠手の仕込みに魔力を流し、薙刀を出す。本日は籠手とすね当てのみ装着している。騒然とする老人達。血圧あがるよ。
「こりゃまた大層な槍だな」
迫り来る老人達の視線から、アーサーは引きぎみ。
「さあ、おしまいよ。皆、家の人が心配するわ」
ティファラさんが手を叩く。
するとしぶしぶと老人達は帰宅を始める。それぞれアーサーの手を握りしめて。
アーサー、可愛がられていたんだね。なんだが、安心した。
老人達を見送り、夕食の準備が整うが、出ていった白熊町長は帰ってなかなか帰って来なかった。
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