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アーサーの里帰り③

 リツさんの挨拶も済み。私達は客間に通された。白熊は玄関先で倒れたままだけど、いいのかな?

 アーサーが奴隷になった経緯を聞き、品のいい老婦人の顔になんとも言い難い凄みが浮かび上がった。

「ゴウィン、あの馬鹿娘を呼んできてくれる?」

「はい」

 白熊を父さんと呼んだ中年男性は、私達に軽く会釈して、そそくさと出ていく。

「さあ、お座りになって」

 老婦人は優しい表情に戻し、着席を促してきた。

「失礼します」

 全員は座れず、ローズさんと私、アルフさん、三兄妹は立ったままだ。ショウは庭先に寝そべり、ノゾミは並ぶように寝転んでいる。

「アーサー、あなたの顔が見れて良かったわ。素敵なご主人様ね。良かったわアーサー、顔色がいいし」

「はい」

「それでお願いって?」

「実は、おばあちゃんが持っていた手記を見せてほしくて」

「アイリーンの? もちろんいいわよ。ちょっと待っててね」

 品のいい老婦人は席を立つ。姿が見えなくなったのを確認して、アーサーに確認。

「あの人もおばあさんのパーティーメンバー?」

「そうです。確か、戦士だったと聞いてます」

 白熊町長を殴ったあのメイス、結構重そうだったけど、あんなにデカイ人よく気絶させたね。なんだか、想像出来ない、きっと美人だったろうに、あんなメイスを振り回していたのかね。

「すごいご婦人だ」

 アルフさんも感心している。

「失礼します」

 そこに中年女性がお茶を運んで来る。

 特産のハーブティーで、香りがいい。

 あの中年男性の奥さんとな。つまり中年男性ゴウィンさんは町長の息子で、このカラサさんは長男のお嫁さん。

「あの、カラサさん、自分のこと、街でどんな風に言われているんですか?」

 アーサーがおずおずと聞くと、カラサさんは少し考える。

「私が聞いたままを見たままを伝えるけど、いいかしら?」

「はい」

 カラサさんの話はこうだ。

 アイリーンさんの葬儀後、姿を見せなくなったアーサー。数日は誰も気にしていなかった、アーサーは祖母のアイリーンを慕っていたため落ち込んでいるかと思われていた。だが、何週間経ってもアーサーは出てこない、近所の住人が不振に思ったのは年末だ。毎年、町中の皆が集まる行事にも出てこない。さすがにカラサさんが様子を見に行くが、アーサーは部屋から出てこないと門前払いされた。おかしいと町長がアーサーの家の状況を、町長権限を振りかざして調べると、消えていた。

 借金が。

 溺愛していた長男に注ぎ込んだ分と、騎士学校に通うために借りた借金が綺麗に返されていた。アイリーンさんが死んだ三日後に。

 返された借金、姿を見せないアーサー。

 答えは簡単だ。アーサーを売ったのだと。

 白熊町長が、アーサーの家に乗り込むと、当然姿はない。

「アーサーはどこだッ」

 アーサーの父親を襟首を掴み、持ち上げ締め上げたが、父親はあまりの迫力と圧迫感も気絶。たたき起こして、再び締め上げたが苦しい言い訳を繰り返す。

 アーサーは気が付かない内に家出した、借金はアイリーンさんの冒険者時代に使用していた装備品を売って、返したと。

 そんな言い訳が通るわけない。

 家に残るのが嫌ならどこかの商会に働けるように、町長が便宜を図るようになっていたし、アイリーンさんの装備品はとっくの昔に売り飛ばされいたのは確認していたからだ。

「アーサーはどこだッ」

 白熊町長が叫ぶが、父親も母親も口を割らなかった。だが、その騒ぎは近所の住人が目撃。町中にあっという間噂が広がった。

 溺愛している長男が、支度金を借りたくないから、次男を売ったと。

 もともと、アーサーの家は長子優遇が激しく、祖母のアイリーンが愛情を注いでアーサーを育てた。そのおばあさんがいなければ、アーサーがひねくれていたと。そんなアーサーを近所の老人達に可愛がられていた。兄やその悪がき連中によくいじめられても、老人達が杖を振りかざして守っていたそうだ。

「この街はアイリーンさんやお義父さんやお義母さんが守ったから、ここまで大きくなったんです。長男はわがままな悪がきでしたが、アーサーはとても礼儀正しいですしね。年長者には、可愛がられていました。それにアイリーンさんにアーサーはそっくりなんです。アーサーは大事な恩人の孫でもありましたし、お義父さん達同年代の人達は口々に言ってます」

 アーサーこそが、アイリーンの後継者だ、と。

 アーサーを売った証拠はないが、ほぼ確実に売ったはずと、現在アーサーの生家は村八分状態と。

 自業自得だね。

「ねえ、アーサー君、確認だけど、両親に会いたい?」

「嫌です。顔も見たくないです」

 おとなしいアーサーが珍しく吐き捨てるように言う。

「そう、分かったわ。真っ直ぐ帰りましょうね」

「はい、リツ様」

 リツさんの言葉に、ほわわ、とお花を飛ばすアーサー。

「お待たせしたわね。アイリーンの手記よ」

 ティファラさんが手に年季の入った手帳を数冊持ち、戻って来る。

「アイリーンが冒険者時代に記録したものよ」

 ティファラさんがアーサーの前に並べる。

「見てもいいですか?」

「もちろん、本来はあなたのものよ。すべて持って行きなさい。私達はアイリーンから預かっていただけだから」

「ありがとうございます」

 早速一冊手に取る。アーサーはリツさんとマリ先輩にもそれぞれ一冊ずつ渡す。

「アーサー君、見てもいいの?」

「はい。自分一人だと、時間かかりますから」

 コーヒーとカカオね。実物を知っているのはリツさんとマリ先輩だけだ。

 二人は慎重にページを捲る。

 私も後ろから除き込む。丁寧な細かい字でかかれ、挿し絵も入っている。アイリーンさんの冒険者時代にみたものが、多種多様に記録されている。しばらく捲る音しかしたかったが、白熊町長が、復活し応接室に入ってくる。

「ひどいじゃないか、何もメイスで殴らなくても」

「座って」

「あ、はい」

 白熊町長さんは、おとなしく着席。力関係が如実にわかるよ。

「あ、これじゃないかしら」

 マリ先輩が手を止め嬉しそうにリツさんに見せる。

 そこに描かれていたのは、マリベールでリツさんとナリミヤ氏が描いたものと同じ実が描かれていた。

「そうみたいね。あの、これはどこで見たものですか?」

 リツさんが聞き、マリ先輩が手帳を夫妻に差し出す。

「それは、何処だったか?」

「ちょっと、待ってね。ええっと、ああ、フィーラ・クライエね。多分記録的には20階くらいね」

 確かエルフの国にある、あれよね。

「ダンジョンッ」

 マリ先輩が叫んだ。

読んでいただきありがとうございます

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