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マリベールへ⑥

幸せ

 白い靄の中に、私はぽつんと立っている。パジャマ姿で。

 目の前には見上げるように大きな猪。

「………ハンバーグ、ミートボール、ロースト」

「いい加減に、食欲なら離れろ」

 猪から低い声が響く。

「あ、ハバリー様」

「気付くのが、遅いぞ」

 あきれた声のハバリー様。

「あ、申し訳ありません。いろいろ」

 本当に気付くのが遅くなったし。

 私はあわてて騎士の礼をする。

「まあ、手を差しのべてくれたことには感謝しよう。あの者も、安定したようだしな」

「アルフさん、アルフレッドさんのことですね」

「そうだ、幼き頃のキズが、記憶を封じていた。よしとしよう。バートルの加護を持つ娘よ」

「はい」

「ふふ、そなたにもよき影響が、あったようだな。よき顔だ」

「影響?」

 私は首を傾げる。

「加護を持つ者同士、影響を及ぼす。リリィの加護を持つ者と、ガイア様の加護を持つ者に、ずいぶん素直ではないか?」

 う、まさか、あーんを見られたか? 確かにあーんなんてリツさんとマリ先輩しか、受け付けない。

 ん、となると、アルフさんにもなのか?

 なんか、いろいろ、ぐちゃぐちゃした気持ちになったけど、それも加護の影響だったのか。ローズさんデザインのワンピースをかわいいって言ってくれた時の気持ちも、帰国命令があるかもしれないって思った時の寂しさも、守ってくれるって言ってくれた時の気持ちも、成人した時にペンダントを貰った時の気持ちも、頬を包み込んでくれた時の気持ちも、全部全部加護の、せい? あの気持ちすべてが、加護のせい?

 え、そうなの?

 私の、感じた気持ちは、全部加護のせい?

「違う」

 何故か涙が浮かびそうになると、ハバリー様の声が響く。

「違うぞ、それは、そなたの大切な気持ちだ」

 優しく響くハバリー様の声。

「加護を持つ者同士、ちょっとしたきっかけなのだよ。娘よ、故郷でガイア様の加護を持つ娘と出会ったこともそうだ、ちょっとしたきっかけを与えただけだ。ただ、それだけだ」

 ハバリー様の目が優しく細くなる。

「大事にしなさい。そなたが感じた、大切な気持ちだ」

 優しい声が響く。ああ、アルフさんみたいに、優しく響く。

 ハバリー様が、きっと励ましてくれているのかな。いけない、顔を上げないと。

 ぐっと堪えて顔を上げると、少年がハバリー様の横に佇んでいる。

「バートル様」

 私が口にすると、バートル様は優しく笑う。

「幸運を」


 目を覚ます。

 幸運か、と思いながら身を起こす。同室のリツさんはまだ、ぐっすり寝てる。起こさないように部屋を抜け出す。

 一階に降りると、庭に先客が。

「おはようございます、アルフさん」

「ああ、おはよう、ルナ」

 肩にレリア、手にブレストを乗せている。眼帯はしていないが、ちょっと慣れないけどきれいなオッドアイ。

 私は促され、アルフさんの隣に。

 さっき、いろいろ夢を見たが、残念脳筋は最後のバートル様しか覚えてない。ハバリー様もいたけど、ハンバーグに見えてしまったよ。うん、守護天使なのにごめんなさい。何か聞いた気がするけどなんだったけな? 多分、ハバリー様の加護を持つアルフさんの件だと思うけど。

「どうした?」

 黙ったままの私に、アルフさんは気を使ってくれる。

「いえ、何でもないです。アルフさん、今日は早いんですね」

「ん? ちょっとな」

 少しバツの悪そうな顔をする。どうしたんだろう?

 そう思っていると、レリアがぴょんっと私の肩に乗り移る。一瞬身構える、昨日、胴体を周回したのだ。もう、あれはごめんだ。

 レリアは鼻をぴくぴくしながら、私を見上げる。うん、かわいい。恐る恐る指を出すと、ちゅっとするレリア。

「かわいい」

 思わず声に出るし、笑顔浮かぶ。アルフさんはそんな私を見て、静かに微笑んでいる。たぶん、子供を見守っている保護者かな。でも、いいや、それでも、いいや。それでも、いいや。アルフさん、笑っているしね。

 静かに時間が過ぎたら、リツさん達が起きてくるだろう。それまで、このままでいいよね。


「では、出発しまーす」

 残念金髪美形がヘルメット装着。あのデカいスレイプニルの牽く馬車に乗り込む。3回目だけど、慣れない。最後まで嫌がるショウを何とか乗せて、ようやく出発する。

 相も変わらずとんでもないスピードで走るね、この馬車。ミーシャが窓に張り付いている。アーシャはまだ慣れないのか、硬い表情だが、初回に比べていい様子。ショウは微動だにせず、伏せている。

 途中でお昼休憩し、残念金髪美形はおにぎり弁当をきれいに平らげている。

「シャケが入っているッ、肉みそが入っているッ」

 ずっと感動していた。なんでも錬金術でできそうだけど、どうしようもないものもあるのね。なんだか、親近感が沸く。

 夕方には無事にトウラに到着。

「ナリミヤ先輩、いろいろありがとうございました」

 リツさんが丁寧にお礼を言っている。

「いいんだよ、こちらもいろいろ頂いたからね。気にしないで。何か困ったことがあったらいつでも言ってね」

 さわやかな笑顔を残して、土煙を上げて、スレイプニルの馬車は去って行った。

「さ、帰りましょう」

 リツさんを先頭にトウラの城門へ。

 わずか1週間以内で王都を往復したよ。しかも、その間にいろいろあったなあ。アーサーは襲われかかるし、アルフさんが両目になるし、加護がわかるし、精霊は出てくるし。

 アーサーはやはりリツさんの役に立ちたいのか、一旦、生まれ故郷への戻る意思を固めたようだ。ただ、本当におばあさんの手記の絵がコーヒーやチョコレートとは限らないが、マリ先輩の興奮度は高い。ローズさんが静かに圧していて、よく撃沈している。

 とにかく、マルコフさんの鎧と剣が出来上がってから、アーサーの里帰りとなった。

読んでいただきありがとうございます

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