女神?の③
加護?
『女神から見放されたもの』
何? あの加護。いや、あんなの加護じゃない。
「何ですか? これ?」
リツさんが震える声で聞く。ナリミヤ氏も戸惑いの表情を浮かべたままだ。
父は言った。この世界の魂は、全て女神ガイアに愛されている。たとえどんな悪人でもだ。だから愛されていない人はいないんだよ。そう教えてくれた。
だから、このような加護があるなんて思わなかった。
「だから、見たままよ。その加護があるから、この世界の私が触れた魂、あ、全人類ね、全てから受け入れられないわ。拒絶されるだけよ」
それで、あんなに嫌われたのか。
女神ガイア様は頬に手を当て続ける。
「確かにソウタ君は申し訳ないからいろいろしたけど、貴方は違うでしょ? ソウタ君に手を伸ばすからよ。あの時、なにもしなければ良かったのよ。余計なことをしたからでしょ? 一緒に巻き込まれ召喚されたならともかく、それにあとから巻き込まれたなんて人まで面倒みきれないわ。そんな二番手以下なんかに手はかけられないわよ」
ガチンッ
私の中で、盛大に何かが切れる。
リツさんが何をした? ただ、ナリミヤ氏を助けようとしただけだ。こちらの世界の勇者召喚とやらに巻き込まれだけだ。こちらの世界の責任なのに。その世界の創造の女神が、こんな事を言って許される訳がない。
私が声を出す前に、マリ先輩が叫ぶ。
「何なの、その無責任な言葉。あなた女神なんでしょう、この世界の責任者でしょう。リツちゃんに申し訳ないと思わないの?」
「えぇ~、私のせいじゃないのよ」
「言い訳なんて見苦しい、こんな変な加護さえ付けなければ、リツちゃんはこんなに苦しい思いをしなくてもすんだのよ、痛い思いをしなくてもよかったのよ」
マリ先輩が叫ぶ。
「あら、貴方は女神の私に説教するの?」
「貴方に女神を名乗る資格あるの? 何が魂を導くよ、創造の女神よ、ふざけないで」
マリ先輩の怒りが爆発している。初めて見る。いつも優しいマリ先輩、困っている人を放っておけないお人好しの先輩。そんな先輩が激怒している。この世界の女神に。
私はマリ先輩の怒りにあてられて、怒鳴るタイミングを失っていた。
「あなたなんかに…」
黙っていたリツさんが絞り出す様に声を出す。
「あなたなんかに、少しでも感謝していたのが、馬鹿らしい」
そう言って顔を上げたリツさん。
その顔にはあの異常な吹き出物がなくなっていた。白い肌の鮮やかな青い目、銀色の髪の可愛らしい少女だった。
「ちょっと、リツさんリツさん顔、顔」
怒りに顔を歪めるリツさんに、私はあわてて声をかける。
マリ先輩も気が付いた様で、私と同じ事を言っている。
「え、何を、あれ指が」
リツさんが歪んでいない指に驚き、その手で顔に触れる。滑らかな肌にどう反応していいか、分からない顔だ。
「ああ、やっと外れた」
ガイア様がため息混じり言う。
「ほら、これがあなたに本来準備していた姿よ」
ガイア様が白い手を振ると、大きな鏡がリツさんの前に現れる。なんの魔法だろう?
鏡に映る自分の姿に、リツさんはじっと見つめて、みるみるうちに涙が浮かぶ。
「これが私?」
うん、可愛い。マリ先輩は明るい感じの可愛さだが、リツさんは落ち着きのある可愛さだ。曲がっていた背が伸び、私より頭の位置が高い。
「ガイア様、一体これは?」
ナリミヤ氏がガイア様に聞く。
「あの加護はね、どうやっても外れなくて困っていたのよ。ソウタ君ならすぐに気が付いて、ここまで連れてくると思っていたのよ。一年も待ったわよ。これは私を心から憎まないと外れないみたいでね。ちょっと悪い女神を演じてみました」
てへっと舌を出すガイア様。美しいから似合うような似合わないような。それからリツさんの前にガイア様は真面目な顔で移動。
「リツさん」
「あ、はい」
ガイア様の言葉に、自分の顔の変化にまだ驚いているリツさんが、反射的に返事をしている。
ガイア様は胸の前に手を交差させ、膝をつく。え、女神様?
「我が世界の民が起こした召喚に巻き込み、申し訳ありません」
頭を下げる女神様。自分の顔の変化についていけないリツさんは、どう返事をすべきか迷っている。
「あの、どうしよう…」
リツさんが、ちょっとおろおろしていると、女神ガイア様の後ろに灰色の長い髪の女性が音もなく現れる。
気配感じない、一応気配感知スキルあるけど、まったく起動しない。神界だからかな。
灰色の髪の女性は、膝をつく女神ガイア様に声をかける。
「ガイア様、あとは私が」
「リリィ」
「彼女のスキルや新しい加護は私達が改めて着けます」
「そう、じゃあお願いね」
ガイア様は立ち上げると、リツさんに少し笑いかけ、白い霧の中に消えていった。
「ごめんなさいね。ガイア様時間があればここで、あなた達を待っていたの。少しお疲れの様子だったから下がってもらったの。詳しい事情なら私でも分かるから」
リリィと呼ばれた女性は白いスカートを摘まんでお辞儀をする。カーテシーだな。リリィって確か守護天使のはずたけど。まさかね。
「あの、質問いいですか?」
リツさんがおずおずと手を上げる。
「はい、どうぞ」
「あの姿は一体なんだっんですか?」
「あれは応急措置だったの。言葉は悪いけどとりあえず作ったって感じかしら。ナリミヤ氏と違って、貴方はこの神界に来てすぐ魂が分解しそうだったから、安定の為に下界にすぐ下ろしたの。下界で魂は安定するけど、魂を入れる器、肉体がなければゴーストと同じだから。ナリミヤ氏の近くに下ろせば、彼が保護してくれると踏んでね。それからその、今の姿ね、すぐ準備したんだけど、問題が起きて」
灰色の髪の女性リリィは、一息つく。
「いざ、体を入れ換えようとしたら、あの『女神から見放されたもの』という加護のせいで、できなくなってしまって。しかもガイア様を心から憎まないと外れない、貴方はナリミヤ氏の近くに下ろした女神ガイア様に感謝していたから。どうしようもなくて。ナリミヤ氏が異変に気が付いて、ここまで連れて来ると思って待っていたのだけど、一年間女神様はここで待ち続けたの」
「そうだったんですか」
リツさんは半分納得したような感じだ。多分いまいち信じきれないのだろう。そんなリツさんの気持ちを汲んだのか、灰色の髪の女性リリィは続ける。
「貴方の気持ち、分からないわけではないわ。いきなり別世界に引き込まれた。今までの生活や大切な家族から引き離されて、言葉に出来ない位、辛かったと思います。」
家族という言葉に、リツさんはピクリと反応する。そうだ、リツさんはこちらの世界に巻き込まれて召喚される前は、30過ぎといっていた。もしかしたら子供がいた可能性がある。
「もう戻してあげるにも、あちらの肉体はない。お詫びになるか分からないけど、こちらの世界で過ごしやすいようなスキルを貴方に、私達から贈ります」
「スキル?」
「そう、スキルよ。私達、守護天使すべてから」
あ、やはりこの女性、守護天使だったのか。女神の次に守護天使ときた。なんだろう、この神界にいるせいか、まったく驚かない。
ふわっと守護天使リリィが両手を広げると、白い霧の中から、大小の影が現れた。
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