マリベールへ②
リツさんの携帯が鳴る。
「はい、今から行きます。さ、行きましょう」
「「はーい」」
「メエメエ~」
元気な返事をしたは、マリ先輩とミーシャ、ノゾミのみ。
「なあ、ルナ、そのスレイプニルは大丈夫なのか?」
アルフさんがこっそり聞いてきた。
「はい、ナリミヤ氏になついてましたよ」
「そうか。親父に聞いていたが、初めて会うな」
アルフさんが感慨深く言う。
「じゃあ、ホリィさん、行って来ますね」
「はい、お気をつけて」
アンナとクララが心配そうに、リツさんを見上げる。
「大丈夫よ、お母さんの言うことをよく聞いてね」
「はい、リツ様」
ホリィ一家に見送られて、リツさんを先頭に出発。
城門を出るといました、残念金髪美形。
「やあ、サイトウ君。久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです」
「皆さんもお久しぶりです」
「お久しぶりです」
ご挨拶。
「あ、紹介しますね。まずはアーサー君です」
「アーサーです。リツさんの奴隷として買われました」
ぺこり。
「アルフさんです。鍛治のことで、お世話になっあいます」
「アルフレッドです」
ドワーフの立位の騎士の礼。
「グリフォンのショウ君、カラーシープのノゾミちゃん」
「ピィ」
「メエメエ~」
可愛く鳴いてご挨拶。さすがにグリフォンのショウには、ナリミヤ氏びっくり。
「こちらはアレクサンドル君、アーシャちゃん、ミーシャちゃん」
こちらもぺこり。
「はじめましてナリミヤです。皆さん、こちらにどうぞ」
ナリミヤ氏もぺこり。
「馬車はこちらです」
ナリミヤ氏の案内で移動。いましたよ、久しぶりですよ、スレイプニルが。
アルフさんとアーサー、サーシャ、ミーシャが固まる。
ショウはマリ先輩の後ろに隠れる。獅子の尻尾を丸めている。
ですよね、分かりますよ。
「かわいい」
「メエメエ~」
あ、ミーシャとノゾミがあんなに近くに。
サーシャとアーシャが真っ青になる。
「ミ、ミーシャ、帰って来い……」
「はーい」
サーシャの声にミーシャが戻って来る。
ノゾミは可愛く鳴いて、スレイプニルと鼻を付き合わせている。あ、食べられない? 大丈夫? 大丈夫?
「ノゾミ、戻ってらっしゃい」
マリ先輩が呼んでる。
「メエメエ~」
呼ばれてノゾミが、マリ先輩の元に。振り返る瞬間、ノゾミのぼんぼんのついた尻尾が、スレイプニルの鼻をこしょこしょ。
とっとこマリ先輩の元に。
「ぶはあぁぁぁッ」
スレイプニルが盛大にくしゃみ。
あ、地面が、抉れた。ノゾミがさっきまでいた地面が。
青い顔のアーサーが私の袖を引く。
「何か、何か、出ましたよ、何か」
「そうね、何か、出たね」
アルフさんは無表情。サーシャは真っ青、アーシャは気絶寸前。分かりますよ、分かりますよ。
「皆さん、乗ってください」
ナリミヤ氏がヘルメット装着。
わいわいと馬車に乗る。ショウは嫌がったが、なんとかのせる。わかっているんだね。うん。
私はアルフさんとアーサーの背中を押し、ミーシャはサーシャとアーシャの手を引いて乗る。
相変わらず豪華な内装。
ソファーにアーシャを座らせる。二度目なので、ローズさんは落ち着いている。ショウは落ち着きなく臥せている。
「出発しますね」
ナリミヤ氏がスレイプニルが走り出す。
常識はずれのスピードで。
夕方にはマリベールに到着。
ミーシャとノゾミ以外の初めて乗ったメンバーは疲れた顔。
「ありがとうございますナリミヤ先輩」
「じゃあ、明日ね」
ナリミヤ氏は宿の手配までしてくれてた。
とりあえず、明日、冒険者ギルドに向かう。
私の成人の報告だ。遅くなるようなら、リツさん達だけ宿に戻る。ナリミヤ氏に醤油を渡して、オーブンの相談だ。
アルフさんは鍛治師ギルドに手紙の配達だ。
宿はあの3ヶ月の宿より大きい。
部屋を決めて、夕飯を済ませる。
安心のシチューでした。
次の日、アルフさんは鍛治師ギルドに、私達は冒険者ギルドへ。三兄妹とショウとノゾミはお留守番だ。カラーシープはまだしも、グリフォンは騒がれるしね。
久しぶりの冒険者ギルド、相談窓口に、グラウスさんに伝言依頼する。
しばらくしてアルフさんがやって来た。
本日はアルフさんは鎧なし。あんなの着て歩いたら目立つからね。
「まだ、呼ばれないか?」
「忙しい方ですからね」
更にしばらくすると、並ぶ少年4人。
「お久しぶりです、姐さん」
「ルナ、弟がこんなにおったか?」
「知りません」
私はすっぱり答える。
「ひどっ」
少年達が言う。
だって、名前しらないし。
「あの姐さん、こちらの人達は?」
「パーティーを組んでる」
私は淡白に答える。あっちいってよ。その姐さん、恥ずかしいから。
ご丁寧にマリ先輩がアルフさんに説明する。
「そうか、ルナ、慕われておるな」
「違いますよ」
アルフさんが笑う。
「挨拶は済んだか? まだ、ルナに用があるのか?」
その笑顔に怯む少年達。
「失礼しました…」
そそくさと去っていく。
「お待たせしました」
少年達と入れ替わるように女性職員に声をかけられる。
「じゃあ行って来ますね。遅くなるようなら、先に帰ってくださいね」
リツさんに言う。あまり遅くなる訳にはいかない、ナリミヤ氏と会う約束があるからだ。
「儂が残るから大丈夫だ」
アルフさんがそう言ってくれた、嬉しい。
私は何度か訪れた応接間に通される。
「お久しぶりですね、コードウェルさん」
まったく変わらない、ハーフエルフのグラウスさん。
「お座り下さい」
「はい」
対面のソファーに座る。
「トウラで随分活躍しているようですね。シェラさんから聞きましたよ」
「はあ」
「ゴブリンの巣の殲滅、ミュートの奴隷狩りの盗賊壊滅。ドラザールでは闇ギルド壊滅、オークの巣掃討作戦参加。わずか数ヶ月で、数年分の経験でしたね。まあ、無事に成人もして、安定した生活環境のようですし。とりあえず安心しました」
グラウスさんは手にした書類をめくる。
「パーティーメンバーにも恵まれたようですね」
調べたんかい。
「特に問題はありません。よく、してもらってますから」
「そうですか、なら、よろしいですが。一度ライドエルに戻ることはオススメしますよ。おそらく連絡していないでしょう? 余計なことと思われるでしょうが、これは保証人としての最後のお節介です。一度、ライドエルに帰ることをオススメします。もしくは連絡が取るか」
繰り返される。ライドエルか、何度かお金を送った。その時に、手紙も添えた、心配しないでと。
「手紙は送っています」
「そうですか。なら宜しいでしょう。わざわざ来てもらってありがとうございます」
「こちらこそ、保証人になっていただきありがとうございました」
おかげでスタートランクがDランクだ。
いろいろ助かったのは事実だ。
短い面談が済み、私はグラウスさんに連れられてロビーへ。
あれ? アルフさんがいない。待っていてくれるって言ったのに。
キョロキョロする。
リツさんもマリ先輩もいない。
「どうしました?」
「あ、いえ、パーティーの人が待っているはずなんですが」
「ほう」
そこに、男性職員がグラウスさんに耳打ち。
「その人は背が高いですか?」
「あ、はい」
「隻眼?」
「そうです」
グラウスさんはため息。
「どうやらギルドマスターの悪い癖に巻き込まれたようです。地下の訓練所に行きましょう」
え、まさか。
私はグラウスさんの後に続き、地下の階段を降りた。
そこには、人だかりができていた。
中央には汗をかき、息を切らせれたアルフさん。手には木製の模擬槍。対戦しているのは、白髪頭のギルドマスターだ。アルフさんと同じ模擬の槍を持っていた。
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