野営①
情けない
野営の準備が済み、負傷者は横になる。ビルツさんも横になっている。
リツさんと、マリ先輩、ローズさんが食事の準備を始める。簡易テーブルに鍋やパンが並ぶ。ずいぶんたくさん並べたね。
「ルナちゃん、パンプキンスープある?」
リツさんに聞かれて、私はマジックバックから鍋を出す。
「どうするんです?」
「皆さんにお裾分けよ。今日、くたくただろうしね。食べられる人だけね」
リツさん、優しいなあ。
すすす、といろんな人が並ぶ。『ハーベの光』『暁』騎士団の皆さん。
「さあ、皆さんどうぞ」
リツさん特製腸詰め入りポトフ、具沢山コンソメスープ、私のパンプキンスープ。ウサギ肉のシチュー、ボアとオーク肉のミートボール、ちゃんちゃん焼き、白身魚の香草焼き、粉ふきいも、カボチャのサラダ。パンも食パン、ロールパン、カンパーニュ、バケットと様々だ。
「申し訳ない、我らまで頂いて」
ヴェルサスさんがリツさんにお礼を言ってるが、その手にはコンソメスープ。
「気になさらないでください。たくさんありますから」
もう一度ヴェルサスさんはお礼を言って、戻って行く。コンソメスープは横になっている部下に渡している。いい上司だね。
リツさん、マリ先輩、ローズさんが次々器にスープを移す。アーサーはパン担当。三兄妹は並んでいる人に皿やスプーンを渡す。ショウはマリ先輩の後ろで無言で胸を張ってる。声をかけようものなら、翼を広げる。うん、ボディーガードだ。
私はこっそりブラッディグリズリーのワイン煮込みを、シチュー皿によそう。ケチャップ入りだ。バケットも付けて、二人前。アルフさんとマルコフさんの分だ。二人は少し離れた場所のシートに座っている。
真っ二つがなった大剣、そしてばっくり斬り込まれた鎧。よくマルコフさん無事だったね。鎧は斬られた所が内側に金属がギザギザの刃の様になっている。こんなの来たまま戦ったら、せっかく塞がった傷に別の傷が出来るね。だから、脱がせたのね。
マルコフさん、ずいぶん思い詰めた顔だ。斬られた肩には、ポーションを染み込ませたガーゼを当て、包帯を巻いている。うん、マルコフさん、ガタイがいい。アルフさんは鎧を脱いでいつものラフな格好で、斬られた鎧を見ている。
「アルフさん、マルコフさん、どうぞ」
「お、すまんな、ルナ。マルコフさん、食おう、少し食べんと持たんぞ」
「すまない、ルナ君」
晴れない表情でマルコフさんはシチュー皿を受けとる。私はお茶を入れながら、ちらっとマルコフさんの大剣と鎧を見る。作り直しか、新調だろうな。
アルフさんはパクパク食べているが、マルコフさんは進まない。やはり食欲ないのかな? 肩が痛むのかな?
私はお茶を出して下がる。
マルコフさんの様子が気になるが、なんだか、入り込めない雰囲気だったから。
パンを切っているアーサーを手伝いながら、聞き耳を立てる。
「情けないな」
マルコフさんが息を吐き出すように言う。
スプーンを置くアルフさん。
「情けない、補助を願ったお前に助けてもらって、武器まで貸してもらって」
「非常事態だろう?」
「だが、情けない。自分が情けない。お前がいなければ、バーンもみんなやられていた」
マルコフさんは歯ぎしりする。
「自分が、情けない」
項垂れるマルコフさん。
「失礼な言い方だが、マルコフさんの剣と鎧じゃどう逆立ちしても太刀打ちできんかったはずだ。あのオークの剣には、アダマンタイトが含まれとったしな。マルコフさんのレベルにこの剣と鎧は合っとらんぞ」
え、オークがアダマンタイトの武器持っていたの?
「それでも情けない、まだ、若いお前に助けてもらった。これで二度目だ」
「若いって、儂、マルコフさんより上だぞ」
「はあ?」
マルコフさんが顔を上げる。
「何を言っている? アルフ、お前、二十歳くらいだろ」
あ、知らないんだマルコフさん。
「ああ、マルコフさん知らんかったか。儂はハーフドワーフでな、39になる。鍛治師として生きて来たが、これでも戦闘経験もそこそこあるからな」
騎士隊に参加した経緯もあるしね。
「俺より上なんだな」
ちょっと信じられないような顔のマルコフさん。
「そうだ。マルコフさん、今回を機に武器類新調せんか?」
「新調かあ、しかし、新調するならお前に頼みたいが、いかんせん予算がなあ」
指名料がね。多分、アルフさんのことだから、割引するだろうけど。大剣と鎧のフルセットなら、かなりの額だ。
「儂に工房があれば、なんとかなるんだかな。いかんせん、工房の維持となると、儂には向かんからな」
アルフさんは考える。
「そうだ、手はないことはないが、ちょっとリツに頼まんといかんな」
何か思い付いたようなアルフさん。
「今回は儂らに特殊依頼出したろう?」
「ああ、人数が足りなくて、補助を頼むならアルフ達しかいないからな」
「それをもう一度出してくれ、まあ、リツが受けるかどうかだがな」
「ど、どういう事だ?」
マルコフさんがわからない顔をする。
「儂は鍛治師だ、鍛治師がいるパーティーなんてうちくらいだ。特殊依頼として、剣と鎧の作成依頼を出す。もちろん、リーダーであるリツが了承をせんといかんし、鍛治師ギルドを通さないから、品質は儂を信じてもらうしかないがな」
なるほど。
パーティーといっても色々得意分野があるから、特定の素材を欲しい時に、得意としているパーティーに依頼したり、今回のように特定のメンバーだけ補助として参加要請する。ただ、こういったメンバーの貸し出し依頼は、よほどそのパーティー同士が信頼していないと成立しない。
確かに、剣と鎧の作成なんて、魔道炉を持つリツさんと、鍛治師のアルフさんがいるうちにしか頼めないことだ。
「材料費と魔石は準備してもらわんといかんが、かなり、安くできるはずだ」
「お前の腕は信頼している。出来るだろうか? 鍛治師ギルドは大丈夫なのか?」
「鍛治師ギルドは今回はくらいは目をつぶってくれるだろう。ただ、今回限りだ。後はリツが了承するかだな。今は炊き出しで忙しいから、落ち着いてから、話してはどうだ? とにかく、まず、食おう、マルコフさん」
アルフさんは再びワイン煮込みを食べだし、マルコフさんもようやく食べだした。
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