魔性の?
メエメエ~
短いです
「ノゾミちゃんを守れえッ」
「「「「「うおおぉぉぉぉぉッ」」」」」
野営地の前で、私、ショウ、サーシャが立ち止まる。
ごつい騎士達が、ウルフやゴブリンを薙ぎ倒す。
「「「「「ブヒヒヒィィィッ」」」」」
魔法馬まで、後ろ足でゴブリンをはね飛ばし、前足でウルフの頭を粉砕。
とりあえず、逃げてきたゴブリンをショウが不可視の刃で始末する。
「あ、いた」
サーシャがアーシャとミーシャを見つけて駆け寄る。良かった無事だ。私も駆け寄る。
「兄さん。ルナさん、良かった無事で」
「メエメエ~」
アーシャの腕に抱かれたノゾミは上機嫌。
「お兄ちゃん、ルナお姉ちゃん、怪我はない?」
ミーシャも怪我なし。良かった。
「大丈夫よ、この状況ってなんなの?」
「ノゾミちゃんを守れえぇッ」
ごつごつの騎士達は武器を振り回す。
「実は……」
アーシャが少し戸惑うように説明を始めた。
「メエ~……」
小さく踞り鳴くノゾミを、ミーシャが心配そうに撫でる。
「ノゾミちゃん、ずっと鳴いてる」
「置いていかれたって思っているのね」
アーシャも撫でる。
みんなが出発して、ノゾミはずっとこんな感じだ。
「大丈夫かい? そのカラーシープ」
ごつい騎士の一人が声をかけてきた。
「寂しいみたい。ご主人のマリお姉ちゃんがいなくなったから」
ミーシャが答える。
「そうか、テイマーの女性が、グリフォンだけ連れていったしな。置いていかれたと思っているんだな」
まさかオークの巣に、戦闘力のないカラーシープの子供を連れていけない。
「メエ~……」
ノゾミが粒らな黒い目でごつい騎士を見上げる。
う、と唸るごつい騎士。
「は、腹が空いているんじゃないか? 干ブドウ食べるか?」
ごつい騎士がこれまたごつい手で干ブドウを差し出す。
ノゾミはくんくんと匂いを嗅いで、ぱくり。
「あ、食べた。食欲はあるんだ」
少し安心したようなミーシャ。
「メエ~」
干ブドウを食べたノゾミは、ぼんぼんのついた尻尾をゆらゆら揺らす。
もうひとつ干ブドウを差し出され、ぱくりと食べるノゾミ。
「メエメエ~」
干ブドウを食べたノゾミは、差し出されごつい手をはみはみして、体を刷り寄せる。
何故か、アーシャには、聞こえたらしい。
ズキューンッ
しばらくごつい騎士が恐る恐る撫でてから、名残惜しそうに去っていったが、ノゾミは追いかける。
で、干ブドウをくれた騎士の膝にすがり付き、更にズキューンッと聞こえたらしい。他の騎士達もドライフルーツを差し出すと、ノゾミは可愛く鳴いてぱくりぱくり。
「メエメエ~」
はみはみ。はみはみ。
ドライフルーツをくれた騎士の手をはみはみ。
ズキューンッ
ズキューンッ
ズキューンッ
「ねえ、お姉ちゃん、何か聞こえる」
「しっ、知らない振りしなさい」
ノゾミはそれから魔法馬にもご挨拶。
騎士達にわいわいと可愛がられるのを、アーシャとミーシャは遠目で眺める。オルファスさんも突っ込まず眺めている。
満腹になったノゾミは、お昼寝タイム。
オークの巣、掃討作戦中とは思えない、ほわわ、とした空間になった。
静かに時間が過ぎて行ったが、ゴブリンとウルフが襲っていた。
アーシャがノゾミを抱き上げ、ミーシャを背中に庇う。オルファスがその前で、ナイフを構えた。
「メエ~」
小さく不安に鳴くノゾミの声に、ぴくっと反応すり騎士達と魔法馬。
何故か襲って来たゴブリンとウルフが、びくり、と止まる。
立ち上るのは、ヤル気満々の武器を引き抜いた騎士達と、前足で地面を蹴る魔法馬。
「ノゾミちゃんを守れえッ」
「です」
「あ、そう」
アーシャの説明を聞き、なんとも言わせない空気になる。
逃げ惑うゴブリンにウルフ。
容赦なく追撃する騎士達と魔法馬。
なんか、出番ない。
ほどなくして戦闘終了。
「メエメエ~」
ノゾミがアーシャの腕から飛び降りて、騎士達と魔法馬を回る。
労っているのかな?
「ノゾミちゃん、大丈夫かい?」
「怪我はないかい?」
「ひひーん」
「メエメエ~」
みんなに可愛がられて、絶好調なノゾミ。
ぼんぼんのついた尻尾を揺らして、あちこち、はみはみ。
なんだろう、こういうの、なんだろう。
ごつい騎士達がデレデレと撫でている。
なんだろう、似合わない、うん、失礼だね。
まあ、マリ先輩の登場で、ノゾミはさっとご主人の方に駆け出して、ああ~、と崩れ落ちる騎士達。
本当に、なんだかなあ。
崩れ落ちた騎士達を見て、ヴェルサスさんが首を傾げていた。
ゴブリンとウルフの死体を始末して、少し移動してから、野営となる。
なんだか、よくわからない感じなったので、アルフさんに聞いてみた。
「はは、ノゾミは魔性の女だな。いや、魔性の羊か」
そう、それだ。
「メエメエ~」
ノゾミが鳴くと、野営の準備を終えた騎士達が手を振る。
うん、ごつい騎士達がデレデレだよ、うん、魔性だよ。
数年後、ミュートでカラーシープ牧場ができたと、噂を聞いた。立ち上げたのは、ごつい騎士達だったとか。
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